第28話

「はぁ、はぁ、はぁ」


 あの機械震犬との初戦闘時はこうも激しくはなかったと思う。だけど結構な数を殺せた。残り四体。

 だけど今の私のHPはもう1割を切った。初めてしたHP管理だけど、中々どうして、意外と出来ている。でもそれで四体を相手取るのは正直辛い。

 だったらもう、使うしかないか。


「はぁ」


 ブリュナーグ……一体どれほどの性能を見せてくれるのか。ここはもう、代償を払ってでも使うしかない。

 でもこうしてまで使いたくなかったのには代償以外にももう一つ理由がある。


 それは職業適性によるステータス補正だ。


 今の私の職業は整備士にしている。そのためスパナやペンチと言った工具を持つと、船の整備をしやすくするために一部ステータスが上昇する。


 しかし今ここで槍を持つと、その補正が零になる。ここまでスパナなどで戦ってきたのにはこうした理由があり、その方が辺鄙な武器を持つよりもずっと戦いやすかったので武器を持ってこなかった。


 しかし武器ではない以上その攻撃力は知れた物になる。


「……背に腹は代えられない」


 私はペンチを仕舞い、ブリュナーグを手にする。そして前に動画で見たような構えを取り、


「……」


 目の前の敵を見据える。重心を下げ、右足に力を込めて、グッとブリュナーグの握る手を強くして─────


《ブリュナーグの使用を確認。能力を解放します》


「へ?」


 ─────ブリュナーグが粉々になった。


 ……どゆこと?せっかくこうして構えたのに武器が無くなったんですけど。


 最後の希望が消えたんですけど!?


「えっと……?」


 私が困惑を隠せない中、粉々になったブリュナーグが少しずつ集まり始めていく。それと同時に勝手にアイテムボックスから何故かスパナが出てきて、


「は?」


 ─────なんか合体した。


 目の前では未だによく分からないことが起こっている。それが収まる気配は無く、しかも何故かエネミーも動きも止まってこの光景を眺めている。

 それはまるでこの時を待っていたかのような─────


《撲殺スパナとの連結が完了。連結時にエーテル機構120個を消費し、撲殺スパナからブリュナーグスパナに進化完了》


【ブリュナーグスパナS3/Lv.24:宇宙船製造、開発時に用いるアイテム。


 ブリュナーグが業悪の機構ダンジョンの23に持ち込まれたことで秘めたる能力を解放させ、撲殺スパナと連結したもの。


 口部がエーテル粒子で出来ており、ボルトの大きさに対して口を合わせることができる。


 また武器の面でも優秀で、刺突時に高周波ビームが口部に纏わることであらゆるものを貫くことができる。】


 ……スパナじゃないじゃん、もう。なんか赤色の粒子が周りに浮いてるし、しかも口部が少しだけ尖ってるし。これってもしかして、刺突するときに形が変わるとか……あるのかな。


 もういよいよスパナじゃなくなってきたよね。早くない?こう言うのってもっと後に出てくるものだと思ってたんだけど。


「それに今まで集めてきたエーテル機構が一気になくなったし……まさか代償って……これ?」


 そう、今私にはこのスパナが強くなった事よりもそっちのダメージの方が大きかった。

 だってあれはドライバーの力があったとはいえ今後の為に一応と思ってとっておいた、謂わば貯金のようなものだったのに。


 あれさえあればまた新しい船が作れたのに。それが一気に120個消えた。残ってるのは80個近く。ローズの食事用も考える上に次に作ろっかなって考えてる船に必要なエーテル機構が何と40個以上だった。


 貯金が減っていくような感覚はいつだって胸糞が悪い感覚で。別にそれが自分の欲とかそう言うのを満たす目的だったら別に問題ないけど、今回のはそうじゃない。不慮の事故、第三者の介入による損失。


 そんなのでエーテル機構がこんなにも減った。だったら─────


「……お前らで、帳尻を合わせるしかないよねぇ」


 なんか、さっきまで強そうとか思ってたのに腹が立ってきたからか、なんか勝てそうと思えるようになった。と言うか、もう粉々のみじん切りにすることしか考えられない。


「そうだよ。どれもこれも全て、ここに連れてきたこのダンジョンが悪いんだ……!」


 私の……私の……っ!


「エーテル機構を、返しやがれええええええええ!!!」



 ・¥・¥・¥・¥・



「……はぁ、はぁ、はぁ」


「ァァァァ……」


 最後の一匹がポリゴンとなって私の目の前から消えた。ここまで生き残ったのは意外にも蟻だった。奴を叩くと腹から無数の蟻が飛び出したりしてきて、それが群がってこっちにやってくるもんだからめんどくさいことこの上なかった。


 最終的に《撲殺の嵐》で見えたもの全てを叩いてなんとかしたんだけど。


 そんなことをしていたらいつの間にかレベルが上がっていた。


 今のステータスを一回見てみよう。


《プレイヤーネーム:ナラナラ/Lv.60(+15)

 職業:整備士

 HP:21/400

 OC:100/100

 STR:56(+30)

 VIT:90(+10)

 DEX:150

 AGI:90(+20)

 LUK:10(+1)

 ステータスポイント:100》


 みんなのステータスの平均は人それぞれ秀でている物もあるけど大体20程らしい。まあレベルもみんな20程だからそれほど低いのもわかるけど。

 このかっこで書いてあるプラスの数値が今回のレベルアップで上がったステータスだ。


 それにしてもLUK数値があまりにも低すぎる。もしかして日頃運がない理由ってそう言う事なの……?


 ……はぁ。


「それで、ドロップしたアイテムが……」


 見たら色々あった。毛皮に目玉、逆鱗などなど。その中で私が注目したのが一つあった。


【メタルヒュドラの心臓:特殊宇宙船製造時に必要となるアイテム。エーテル機構とは一線を画すほどのエネルギーを保有している。ランク6以降の宇宙船での動力源となる。】


 まさかこれ程早くにもエーテル機構の卒業が果たせそうである。しかしランク6以降の船に必要なアイテムがこれ以外持っていない。これはしばらくの間ボックスの肥やしとなるだろう。


 そして次に闘技場の中心に出てきた宝箱を開ける。すると出てきたのは丸い形をした盾だった。


【エイギスM3:中心にエーテル機構が埋め込まれたバックラー。周囲にエーテル粒子を展開することで飛来物を防ぐことが出来る。更に代償を支払う事で秘めたる力が解放される。】


「次は盾かい」


 なんで武器ばっかり出てくるの?もっと工具とか出してほしいんだけど……。

 まあこれはQaQaさんとかに後で上げるとしよう。私は使わないからね。


 あ、ブリュナーグの言い訳今の内に考えとかないと……。飯さんに上げるって言っちゃったし……。


「お」


 そうしてエイギスを眺めてからアイテムボックスに仕舞うと、闘技場の出口が光りだした。ここ─────モンスターハウスを攻略できたという事だろう。


 うんうん。良かった良かった。


 私はすぐにこの先にいるであろう飯さんとローズの二人と合流すべくその光へと駆け出した。

 だがそれはまた別の試練の始まりとなることを、私は知らなかった。










《─────“裏ストーリー:動乱の宇宙を収める者”の開始を承認します》

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