第30話 ???視点

Side 金剛


「あのクソアマがああああああ!!!」


 俺こと金剛はあの日から消えない苛立ちをエネミーに対してぶつけていた。

 あの日のことは今でも夢に見る。


 視界に捉えては消える、あの悪魔。走る速度が異常だったというわけではなかった。だがあの小柄な身長に加えてあの前傾姿勢、そして不規則な重心移動……それら全てが噛み合い、俺たちの目で追いづらくした。


 視界から消えては出てきて、そしてまたすぐに消える。その繰り返しだった。


 俺のクラン、エルミッシオはあの鉄船さえ手に入れることが出来ていれば、間違いなく今頃ナンバーワンクランになっていたはずだというのに、今ではもう解散寸前にまで追い込まれている。


「……全て、あのクソアマのせいだ」


 許せねぇ。俺の全てをぶち壊しやがったあの女。あの野郎はSSFでの俺の地位だけでなくリアルでの俺の地位もぶち壊しやがった。


 あのアマと関わる前まで俺はこのSSFだけでなくミラハッカーとして世界に名を馳せていた。動画を出せば一本につきうん百万もの金が入り、イベントを開催すれば黒字間違いなしの、自他ともに認める人気ミラハッカーだった。


 ミラハックに動画を投稿、もしくは配信するのだってある意味賭けに近い。どれほど視聴数を稼げるかによって明日の俺の、俺たちの生活が決まってくるからな。


 それにこれが配信者にとって一番恐ろしいのが、炎上だ。


 昔は少しの失言でめっちゃ炎上していたらしいが、今は結構厳しい規制がAIによって強いられており、おいそれと暴言を吐けなくなっている。そのお陰で炎上など余程のことがない限り問題ないのだが、今回は違かった。


 俺たちの戦闘動画は間違いなく消した。が、誰かが隠し撮りしていたせいで俺たちが無残にぼこぼこに負けた姿がネット上に晒されたのだ。


 その動画のコメント欄には、


《あんなに弱かったんだ、金剛って》


《泣きわめくとか子供かよw》


《ずっと高圧的だったからこういうの見るとなんかスカッとする》


 なんてコメントがついていて、俺はすぐに削除申請をした。が未だにその動画はネット上に残り続けており、何故かAIの規制に引っかかっていないらしく好き勝手コメントしている。


 ふざけるな。


 なんでこんな生き恥をさらさないといけない……っ!


「クソがッッッ!!!」


「金剛さん……」


「あのアマはまだ見つかんねぇのかよ!」


「……はい」


 イラつくがあれほどの実力を持ってるんだ、きっとあいつのパーティは“機構の星”か俺たちが落ちたと同時に上がってきやがった“スカンタ羅”のどっちかの所属だろうな。


 この二つのクランは“二大クラン”と呼ばれており特にメインストーリーの攻略に注力しているからか、資材も潤沢にあるはず。でなきゃ鉄船なんてあんな早く作れた理由に説明がつかない。


 もしかすると俺たち、いや、奴ら以外の全プレイヤーの知りえない方法がもしかするとあるかもしれないが、既にエーテル機構の入手方法が確立された今、それについて探る必要がなくなった。


 俺たちのクランも鉄船を二隻手に入れた。あとは奴らを見つけて復讐をするまで。


 だがそんな奴らの居場所が見つからない。最前線の星に行ってもどこにもいなかったどころかもう二つのクランでほとんどが占領されていて付け入る隙が無かった。


「……金剛さん、もうこれ以上飲まない方がいいんじゃ……」


「うるせえ!ここはリアルじゃねえからどれだけ飲んで酔っても問題ねえだろうが!」


「ですが……」


「ああ!?なんだてめぇ口答えするんだったら─────」


《新規クエスト:バンバリア防衛戦》


 その時だった。俺たちの目に唐突に新規クエストが表れた。


 新規クエストがこうやって出てくるってことはこのクエストを受けれるのは俺たちエルミッシオだけ。つまりほかの奴らでは手に入らないレアアイテムが手に入る可能性があるという事。


 このSSFには稀にこうして新規クエストという形でレアクエストを出してくるときがある。その確率はかなり低く、公式からも相当の運がないと出てくることはないらしい。


「金剛さん、これって……」


「ああ、俺たちはどうやらついているらしい」


 それにこのクエストの舞台となる星は少なくとも二大クランが未だ踏み入れていない未開拓の星。

 それに詳しい情報を見れば、


《クエスト内容:PVP》


 と書かれていたのだ。


「すぐに支度をしろ!全員で出るぞ!」


「はいっ!」


 ようやくだ。ようやく俺たちにチャンスが回ってきた。


 待っていろクソアマ。このクエストをクリアして強くなってから、てめぇをぶち殺してその肢体死体、舐め回してやるよ。


 

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