第35話

 確かに最初この星に来た時探索したのはレイヴンさんの街と近くの樹海で、こんな砂漠があるところまで来たことが無かった。

 と言うか前にレイヴンに、


『─────この星にはこの街と近くのあの樹海だけしかありません』


『他には無いの?』


『後は砂漠しかありませんよ。本当に、何もないんです』


 って言われてたから砂漠まで足をのばさなかったのに。どうしてこうなってしまったんだ……。

 まあ出れたのは出れたんだし、すぐにログアウトをしようかな。あ、でもここでログアウトしたら次ログインした時瀕死になってそう。


 ……戻ろう。


「えっと、方向はどっちかなっと。成程、こっちね」


 走ったらすぐ着くでしょ。



・¥・¥・¥・¥・



Side カナ


「……」


「……」


「……」


 ナラナラがログアウトしなくなってもう半年以上が経過している。まさかここまでログアウトせずにゲームに潜り込んでいるなんて思わなかった。

 だが、これで確信した。彼女は今未曾有のトラブルに巻き込まれている。


 私はすぐに霊厶れいでござるのメンバーを呼んで、レイヴンさんの家の中で事情を説明した。


「今の彼女はどうしているんでしょう。里カナさん」


「こう言う事もあるかもと、一応に繋げています」


「賢明ですね」


 やはりゲーマーのQaQaさんはそこをしているか聞いてきた。彼も半年とはいかないものの、それでも長い時間ゲームをしていた、と言う経験をしたことがあるんだろう。


 セーバーとはゲームに何日も潜りたいゲーマーたちの要望に応えて作られた、生命維持装置の事だ。これを腕などに繋げておけば、体に勝手に必要な栄養を送り込み、老廃物を勝手に吸い取ってくれる優れもの。これに繋げておくことで少なくとも一か月ほどは飲まず食わずで生きることが出来る。


 しかしそれは代償として筋肉の衰退が生じるため、一週間ほどのリハビリをしないといけない。私も一度使ってみたが、あの感じは正直苦手だ。


 私の趣味の一つとして運動があるけど、リハビリと運動はやっぱり違うのだ。万全の状態で体を動かしたい。


 果たして今回ナラナラのリハビリはどれほどかかるんだろうな。だって半年だぜ?相当だろ。

 セーバーも二回取り替えたし、髪とかめっちゃ生えたから勝手に切ったりした。起きた時に自分の頭がおかしくなってても私に文句を言わないで欲しい。


 言う権利なんて最初からあいつにはないんだがな。


「さて、という事は今後の動きについて考え始める必要がありますね」


「そろそろ別の星に行きたいもんだ」


「そうよね。半年も経ったし」


 この半年の間に色んな新機能や新要素が追加された。その中にエーテル機構とエーテル粒子効果と言う物が追加され、エーテル粒子を出す武器などが他の星の店などで売られ始めたのだ。


 更にストーリーも第17章まで進んでおり、私たちは未だに第8章で止まっているためかなり出遅れている。

 今エーテル機構も鉄骨もあるし鉄船を作ってここから離れると言う案も出てきたけど……。


「やっぱナラナラを置いて行くわけには、ねぇ?」


「そうだな。それにローズのこともある。無闇にここを離れたらどうなるか……」


「それに現状彼女が全プレイヤーの中でも未だ強者であることには変わりありません。最前線のクランのプレイヤーレベルの平均が60に到達しましたが、どのプレイヤーも彼女より早くレベル40に到達していない」


「ここで彼女を手放すのは俺たちにとってはデカい損失だ。そう言う事だろ?QaQaさん」


「はい。それに彼女の進めているストーリーは明らかにメインとはかけ離れている。きっと彼女には彼女だけのストーリーが動いている可能性が高いです。ここの星の存在が我々以外知り得ていないのが何よりの証拠だ」


 そう、このゲームのプレイヤーの全体的なレベルや進度が上がっても、この星に着たプレイヤーは私たち以外いなかった。つまりこの星は完全にストーリーから外れていることを意味する。


 これはこのゲームにおいてかなり大きいメリットでありデメリットだ。


 メリットは勿論ほかのプレイヤーとは異なる道を進んでいるからこそ得られる恩恵。

 デメリットは一度この星を出た時またここに来れる確証がない事。


「きっと彼女には今独自のストーリーが組まれていて、きっと誰も遭遇したことのないストーリーのはず。これは圧倒的な有利な展開です」


「確かにその通りだな。だがこのままこの星に居続けるのもあんまよくない気がするんだが……」


「そうですが飯さん。私の読みではもうすぐ─────」


『お茶淹れてきましたよ。飲みますか?』


 と、丁度QaQaさんが何かを言おうとしたところでこの家の家主であるレイヴンさんがお盆にお茶の入ったコップを乗せてやってきた。


「ありがとうございます」


『いえいえ、こちらも仕事の手伝いをしてもらってますから。それにしても……ナラナラさんはまだ?』


「……はい」


 現実で半年経っているんだ、ここではもう何年も経っている。そんな中ずっとレイヴンさんはナラナラの安否をずっと案じている。

 ここの一日は一時間なのだ。多少時間が引き延ばされているからよく忘れてしまう。




『─────ッ!?』




 と、みんなでお茶を飲んでゆっくりしていたら、突然レイヴンさんが立ち上がり焦ったように家を飛び出した。

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