第34話

 前書き

 

 長いです。

 二倍くらい(他話比)。









 ─────第100層。



 第99層の出口が開いて、アイテムと宝箱の中身を回収した私は第100層へと歩みを進める。ここまで、かなり長かった。


 だけどようやくここまでやってきた。


 いつものように視界いっぱいに強烈な光が放たれ、目が見えるようになって見えた景色が─────今までのとは全く違かった。


 闘技場じゃない。これは……まるで魔王城の玉座の間。


「……ククククク」


『さあ、よく来た挑戦者よ。ここが最後の階層……だが貴様はここで死ぬのだ。不死身の私にとって貴様など─────』



「ハハハハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハアハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハ!!!!!!」



『─────え?』


 遂にッッッ!!!遂に遂に遂にッッッ!!!私はアアアアアアア!!!ここまで来たッッッ!!!

 今こいつはここを最後の階層と言ったッッッ!!!こいつを殺せば戻れるはずだッッッ!!!こいつの性質だなんだは知らん!!!


 こいつをぶっ殺して私はここを脱出するウウウウウウ!!!


「ハハハハハハ─────ハアアアアア!!!」


『─────っ、私の言葉を遮るとは、ふ、不敬ぞ!』


 全身全霊。その言葉が今の私の行動の全てを示している。


 アイテムボックスから今まで愛用してきたブリュナーグスパナと、ここまで使ってこなかった不激変:十の円環オーバーチェインエイギスを取り出し、一気に駆け出す。


 と同時に不激変:十の円環オーバーチェインエイギスをブーメランのように投げつけ目くらましにするとともに、ブリュナーグスパナからエーテル粒子を引き出し更にスピードを上げた。


『この程度─────っ!』


「アアアアアアア!!!」


 不激変:十の円環オーバーチェインエイギスを弾いたエネミーだが、既に私は目の前まで来ていて、そのままスパナを振り下ろした。


『っ、乱暴な……!貴様はそれを持っている癖にまさか狂戦士バーサーカーか!?』


「私がそれに見えるのならそうかもしれないわねええええええええ!!!」


 人型エネミーは焦りつつもその手にあった剣で私のスパナを受け止めると同時に滑らせ受け流そうとしてきた。

 それに逆らうように私はスパナを一旦離して再度振るう。


 ガキン!ガキン!と一瞬に何度も何度も鉄同士を打ち付ける音が凝縮され、そして音による空気の振動だけで地面が少しだけ抉られた。


 それもすぐに修復され、私たちの戦いの場は保たれ続ける。


 幾重にも結ばれた均衡は、奴がここで初めて使った能力によって破られた。


斬撃スラッシュ─────チェインマギナ!』


「っ!」


 大きく剣とスパナがぶつかり、始まった鍔迫り合いの最中に迫りくる死角からの斬撃。私は鍔迫り合いを止めて避けに徹しようとする─────が、それはまるで鎖のように私が避けようと逃げ道を探した箇所に的確に向かってきていた。


 まるで私がそこに行くのを知っていたかのように、正確に私を殺そうとしてきているのが分かる。未来予知かなにかだろうか。


 確かに上の階層でもそういう類の能力を使ってくるエネミーはいた。いたけど、これほどに正確無比なものはなかった。精々コンマ数秒程度のものしかなかった。


 けどこれは違う。明らかに私のランダムな動きを予知していない限り放つことのできない斬撃だ。これほどの力を持っているのって反則もいいところ。なんでこんなバグみたいなやつが実装されてるんだろ。


 でも関係ない。


不激変:十の円環オーバーチェインエイギス─────!」


 私がコマンドを言い放つと、宙に浮かんで待機していた不激変:十の円環オーバーチェインエイギスが自動で動き出し、私が後ろに下がると同時に迫りくる斬撃の全てから守ってくれた。


『やはりそれが厄介となるか』


 多分こいつはこのダンジョンのボスエネミーなんだろう。やけに感情豊かで思わず人間が中にいるかと思ってしまうほどにコロコロ表情が変わっている。

 

 彼女は忌々し気に舌打ちをしながらじっくりと私を観察している。


 今の彼女はこの私に対して有効な手を打とうとしているけど打てない、そんなところなんだろう。


 だったらこっちから手を打とう。


不激変:十の円環オーバーチェインエイギス─────


『……っ』


 また別のコマンドを言えば、今度は連結していた一つ一つのエイギスが花びらの形そのままに分裂し、鋭い刃となってエネミーへと向かって行った。


 更に私はアイテムボックスからもう一つ取り出す。


【エレメンタルハンマー:精霊の道標 S4/Lv.19:エレメンタルハンマーに集った精霊たちがそれに新たな意味を見出した結果、精霊たちの目指すべき場所に変化した。


 能力を解放することで中にいる精霊全てが持ち主の願いを叶えるために最大限力を貸してくれる。】


 いつの間にか進化していた、エレメンタルハンマーを取り出し、グッと握る力を強くする。

するとハンマーの周りに小さな光がぽつぽつと出始める。


「スマッシュブラスターッッッ!!!」


 適当な技名を叫びながら大きくハンマーを振るい、精霊たちの力を込めた蒼い光線が地面を大きく抉りながら、奴の体を消さんと迫っていく。

 出し惜しみなんてしない!ここにいる精霊たちには悪いけど、ここで一旦冬眠してもらう!


『─────断絶壁!』


 エイギスに手こずっていたエネミーは少し慌てるも冷静に私が振るった砲撃を防いだ。だけどその間に私はまた奴の元に近づいていて、


「チェストォォォォオオオオオ!!!」


 その頭を打ち抜かんとスパナを横薙ぎに振う。



 しかし奴はそれを見て──────────溜息を吐いた。



『二度目は効かぬぞ─────機構砲』


 しかし私の頭上に突如大砲の口が出現し、豪速で黒くデカい砲弾が放たれた。更にブリュナーグスパナの突きも回避される始末。


「……不激変:十の円環オーバーチェインエイギス!」


 仕方なくエイギスを元に戻し、砲撃を軽く防ぐ。


『まだだ』


「っ」


 更に頭上にいくつもの砲口が私に向けてきて、そこから砲弾の雨を降らしてくる。


 今奴の目には私は必死に避けているように見えているのか、まるで滑稽だと言わんばかりの馬鹿にした笑みを浮かべている。


 ここで私は、少しだけ思い違いをしていた。


 最初ここに来て、ここが最後の階層だと言われて、だったら今から戦うあのエネミーは今までで一番強いエネミーなんだろうと、そう思っていた。そしてそれは本当だった。


 今まさに私を殺さんと降っているこの砲弾の雨だってこのゲーム上で一番凶悪な攻撃に違いない。ほとんどのプレイヤーは必死に何かで防ぐほかないだろう。私みたいに避けれるのは……いるか、普通に。QaQaさんとか平気な顔して逆にその場に立ったまま一発の銃弾で全て防げそうだし。


 でもそれはレベルが上がったらの話。今じゃない。


 閑話休題。


 そんなことだから私はもしかするとここでデスポーンするのかも、なんて思ったりした。見た目強そうで実際強いこんなやつに、最後だからと、めっちゃ覚悟を決めないといけないほど苦戦すると思っていた。


 でも、間違っていた。


 ここまで奴と攻防をし続けて、エレメンタルハンマーを使って。でもこの第100層に降りて来た


 エレメンタルハンマーなんて、言ってしまえばご挨拶砲。どうせ防がれると分かり切っている、敵の実力を探るためのものでしかない。


 それを最初からしなかったのは、ひとえに警戒をしていたから。最後なんだし簡単に防がれるか、逆に跳ね返されるだろうと思ってたから。


 実際防がれた。いともたやすく─────とはいかなかったらしいが。


 ご挨拶砲を放った後、私は見つけてしまったのだ。断絶壁と呼んだシールドに入っていたに。


 つまり奴にとっての致命傷がエレメンタルハンマーのご挨拶砲だった。




 ─────つまり私にとって、はじめから敵なんかじゃなかった。




「……もういい」


『は?』


不激変:十の円環オーバーチェインエイギス、待機指示」


『……何をしている』


 突然動きを止め、向かってきた砲弾をスパナで強引に防ぎ、あろうことか唯一の盾を空中に留まらせた私に奴は怪訝な顔を見せる。


「もう、お前に対する興味が失せた。今からお前をぼっこぼこにする」


『……なんだと?』


「はぁー……─────ァァァァァアアアアアア!!!」


 咆哮と共に私はスパナの癖に得た変な能力を解放させた。




 ─────凶暴化バーサク




『っ!?─────グハッ!?』


 さっきまで私の動きに対応できていたエネミーがこうなった私の動きに全く反応できずにいとも簡単に殴り飛ばされた。


『もしかしなくとも、貴様はやはり狂戦士バーサーカーだったのか!?』


「─────知らないねェェェェァァァァアア!」


 奴は抵抗するために剣をさっきとは比べ物にならないほどの速度で振るうけど、私にはそれがのろく見えて仕方なかった。


 だから剣筋に沿うように、スパナで顔面を殴り飛ばす。


『ぐはっ!?なんだ、動きが─────ひっ!?怖い怖い怖い怖いッッッ!?』


「ハハハハハハハハハハハ」


 笑みが込み上げてくる。狂い始めてきたかもしれない。もう帰れると思うと……笑いが─────


『来ないで来ないで来ないで!?』


「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 壊れたはずの精神が治っていくのを感じる。こいつを叩けば叩くほど、私が少しずつまともになっていくような気がする。

 だったらもっと叩こう。こいつが戦闘不能になるまで。


 大丈夫。こいつはさっき“私は不死身だー”とか言ってたし。きっといいサンドバックになってくれるに違いない。


『ねえちょっと!?話が違うんですけど!?プレイヤーがここに来るのは3年後に予定してるアプデ後とかそう言ってたよね!?なんででここまで来てるプレイヤーがいるの!?それになんでこんな怖いプレイヤーがもう出来上がってるわけ!?』


「誰と話してるんですかアアアハハハハハハハハハハハハハハ」


『怖いいいいいいい!?』


 さあさあさあさあさあ叩こうではないか。ぼっこぼこにしようではないか。



・¥・¥・¥・¥・



「ふぅ」


『いやぁ……もう、いやぁ……』


 いくらぼっこぼこにしても本当に死なないもんだから取り敢えず動けないようにして出口を開けるように説得脅したら随分あっさりと出口を開けてくれた。


『もう、こないで……』


 やりすぎたのか、なんかラスボスの癖に泣いてる。


《第100層突破!》


「お」


 と、久々に見たものと共に私のアイテムボックスの中に何かアイテムが追加された。もしかするとこうやってダンジョンを攻略するたびに何か貰えるのかもしれないね。だったらこんな虚無も次は楽しめるかも。


【機神の心臓:機神がその身に宿していた心臓。無限のエネルギーを生成する。とある特殊宇宙船の燃料になる。】


「楽しかったから気が向いたらまた遊びに来るね」


『嫌だ!』


 なんかしっかりとした意志を持ってるAIだなぁ。感情生成付きAIなんて結構値が張るはずなんだけど。本気度が違うね、SSFは。


『さっさと出口に行ってよ』


「え?うん」


 彼女はどうやら私にはいなくなってほしいらしいので、さっさと出口に出ることにする。


 取るもの全部取って、今まで以上に光り輝く闘技場の出口に向かって歩き出した私に、


『ここの事は内緒にしといてね』


 なんて言ってきた。まあこんなのあるなんて言っても誰も信じてくれないから言う訳がない。


 だから私は自信満々に、


「─────勿の論」


『古っ』


 そんなツッコミをされながら、私は遂にダンジョンを踏破したのだった。



・¥・¥・¥・¥・



「……あれ?ここどこ?」


 そしてダンジョンを出た先に見えた光景は私の知らない場所だった。


 取り敢えずマップを開こう。きっと今だったらマップも使えるようになってるだろうし─────って。


「……ほんとにどこ?ここ」


 レイヴンの街とか、樹海とかから遠く離れている、全く知らない砂漠だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る