第42話 カナ視点

「どうせてめぇらのレベルなんて40前後だろ?そんなんだったら俺たちの敵じゃねぇ。さあ、血祭だ……ぶち殺してやるよ!今こそ溜まってた鬱憤を全て晴らせ!」


「「「「「「「「おおおおおお!!!」」」」」」」」


「……っ!」


 目の前にいるエルミッシオメンバーが雄たけびを上げながら私たちに襲い掛かってくる。その先頭にいたプレイヤーを打ち抜いたQaQaさんは、


「応戦しますよ!」


「おう!」


「平筑さん、ぶっ放してください!出来るだけ多く!」


「任せて!」


 遂に始まってしまった。クランエルミッシオとパーティ霊厶の激突が。人数差に加えてエルミッシオリーダーの金剛のレベルを考えるとまず間違いなく私たちは負けるだろう。


 更に霊厶メンバーとレイヴンさんを加えた全員が満身創痍の状態。ここからまた60人と戦わないといけない。正直言ってこんなに辛い連戦は初めてだ。ここでもう休みたいって体ではなく魂が叫び始めてる。


 別に体の疲れはないけど、それ以上の精神的な負担が凄いのだ。


 だけど─────


「……滾ってきた」


 そうだ。ここがゲームの中でも関係ない。この体に私たちの魂が込められているのなら、私たちはここで踏ん張って次につなげる……!

 ナラナラだけしか見えていないことを後悔させるんだ!


鉄梁地獄アイアンメイデン!」


 残り少ないOC値のことなんて気にしてられない。この一撃でできるだけ減らせるだけ減らして見せる!

 私の放った鉄梁地獄アイアンメイデンは目の前まで来ていたプレイヤー数人を鉄の針で突き刺しその場に留まらせ、身動きが取れなくなった奴らを纏めて飯さんが斬り殺した。


「発射っ!」


 そこで丁度平筑さんのバズーカが火を噴いた。勢いよく放たれたいくつもの砲弾が次々と敵を足止めし、デスポーンに追い込んでいく。でもまだ相手の数は多い。


「次弾装填してください!」


「分かってる!」


 QaQaさんも一人一人確実に倒しているけど、それでも勢いに飲まれそうになっている。ここは前衛である私たちが何とか食い止めないと……!


「てめぇら、もっと攻めろ!」


「なるべく固まって戦います!死角を無くしつつ樹海の方へ!」


「行かせるかよ!お前ら、徹底的に叩き潰せ!」


「ちょっと待ってQaQaさん!」


「どうしました、筑和さ─────」




『─────ワオオオオオオオオン!!!』




「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」


 筑和さんが何か違和感を覚えたような表情で辺りを見回し、それに私は疑問を覚えて聞こうとした、その時だった。突然奴らの奥から今まで聞いたことのないような爆音で犬の鳴き声が響いた。


 そして今まで私たちの船があったところから大きな影がゆっくりと出現する。


「っ!?なんだあれは!」


「わ、わかりません!?」


「QaQaさん!」


「今のうちに攻めますよ!」


「っ!?しまっ─────」


 あれに気を取られている間に私たちは敵を攻撃する。その対応に遅れた数人があっけなく死んでログアウトした。

 私たちはあの影を見た時すぐにそれが何なのか分かったからこうして動揺せずにすぐに動けた。

 だってあれは─────


『ワオオオオオオン!!!』


「き、!?」


 さっきまで姿を晦ませていたローズだから。

 なんであんなに大きくなっているのか分かんないけど、きっと私たちを助けるために大きくなってくれたんだろう。

 でもあれを維持するのも大変なようで、大きくなってから少ししか動けていない。


 私たちから意識を逸らすためにしてくれたのか?どちらにせよありがたい。


 だが─────


「ふん、てめぇらはあれを止めていろ。俺はこいつらを纏めて葬る」


 金剛が動き出した。と同時に奴の手にある謎の杖が紫色に光りだした。

 あのアイテムは何だ?


 なんて思っているとQaQaさんがあのアイテムを見て焦ったように声を上げた。


「っ!?それはまさか!?」


「へっ、知ってる奴がいたのか。だったら話は早えな。行くぞヘルモア、奴らにてめぇの力を思い知らせろ!」


 その言葉であの男が持っているアイテムがどれほど凶悪なものなのかが分かってしまった。


 直後、金剛の後ろにいくつもの魔法陣のような円形の模様が映し出され、そこから紫色の槍が出現する。

 そして穂先が一斉に私たちに向かって、射出された。

 だけどその攻撃は本来敵であるはずのエルミッシオのメンバーたちも巻き込むようなもので、


「な、なんで俺たちまで!?」


「金剛さん!?」


 何も聞かされていないのか、私たちの周りにいたプレイヤーが口々に金剛に問い詰めようとするが、





「─────ふん、ここまでこいつらを殺せないお前らが弱いのが悪いだろうが」





 聞く耳を持つことなく、あっさりと味方を捨てた。

 確かに味方を囮にして一網打尽にする戦術はある。だけどそれは仲間に一言でも入れておくべきものじゃないのか?


 こんなにあっさり仲間を捨てられる奴の精神性腐った性根に私は恐怖ではなく、怒りが湧いた。


「……鉄甲牢獄アイアンプリズン


「「「「「「っ!?」」」」」」


「なんで俺たちまで……」


「黙れ……!私はただあのクソ野郎がムカついただけだ……っ!」


 だから私は1割を切っていたOCを全てアイアンメイデンに注ぎ、その能力でここ一帯を全て覆うように鉄の盾を展開させる。


「がっ……!?」


 直後、OC値が0になった時に発生するペナルティ─────酸欠による意識力低下とスタンが私を襲う。


 だがここで意識を落とすわけにはいかない。このまま手放してしまったら今展開したばかりの鉄甲牢獄アイアンプリズンが消失して飯さんたちに被害が及んでしまう。


「それ……だけは……っ!……ぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」


 ここで私の全てを使い果たす!たとえこの身が朽ち果てようとも構わない!


「うおおおおお!!!─────っ!?」


 全ての攻撃を防ぎ切った。と同時に魂が悲鳴を上げるように、体全体に電流が駆け巡ったような苦痛が私の魂に襲い掛かって声にならない叫びをあげた。ここまで負担をかけたんだ、これほどの痛みと苦しみは覚悟していた。だけどそれは常人には耐えれるようなものではなかった。


 これ以上私は耐え切れずに意識がブラックアウトする─────






「─────不激変:十の円環オーバーチェインエイギス






 その直前に一番安心できる声が聞こえて、私はさっきとは一転して安心してこのまま眠るように意識を手放した。

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