第43話
Side ナラナラ
「
危なかった。あと少し遅れていたらよくわからない攻撃の第二波がカナたちを襲うところだった。
それよりも……急いで戻ってみたら何なのこの状況。なんかカナやみんなが今にも倒れそうだったし前に見たことのある顔がこっち見て目を見開かせてるし。
てか、カナはもう倒れてるし。
しかもその後ろにいるローズはなんかでっかくなってるし。
それに─────
「……船」
全員の動きが止まり、ここに来た私に視線が集まってるけど、私はそんなのどうでもよかった。
野郎どもの後ろで燃えているのは間違いない。見間違えるわけがない。
あれは─────
─────私の船だ。
「はっ!やっと来やがったなこのクソアマァ!!!」
「……」
「やっぱりここに居たんだな……!貴様をぶっ殺して今度こそ俺は、このゲームで覇権を握ってやる!手始めにてめぇの仲間をぶっ殺そうと思ったが本人が来たんだ、もうどうでもいい!」
そう言ってこの中で一番派手な男はその持っている杖をQaQaさんたちから私に向けなおす。
ここで私は初めてその男がこの集団のリーダーだってことに気が付いた。さっきから煩かったのはこいつか。
そんなの、今はどうでもいい。
私の、私の船が……壊された。その事実が戻ってきたばかりの私に襲い掛かってきて、目の前が真っ暗になっていく。
「ここで殺して誰にケンカを売ったのか後悔させてやる!ヘルモアよ、その力を示せ!あのクソアマから全てを奪い取れ!」
そう男が叫ぶと、後ろにあった円形の模様がこっちに向いていくつもの鎖や槍が放たれた。
だけど私にはそんなことなんてどうでもよくて。
─────私は動くことなく奴の攻撃をこの身で受けた。
鎖は私の体を締め付けて動けない状態にし、槍がいくつも体に突き刺さっていく。そして数えきれないほどの槍が私とその周りに刺さり、いくつもの鎖が私の全身を締め付けると、不気味な紫色の光を発し始めた。
「ハハハハハハ!!!馬鹿が!何もしないで諸に受けたぞあいつ!この鎖と槍にはレベルを吸収する力がある!受けたら最後、吸い尽くすまでそれは離れない!やはりこのヘルモアは最強だった!これがあれば全てのプレイヤーを殺せて俺が頂点に立てるんだ!」
「っ、ナラナラさん!」
へぇ、そんな効果があったんだ。確かに何かを吸ってるような感覚がさっきからあった。でも、ステータスを確認してもそんなこと全く起きていない。微量にステータスが変動してるくらい。でもそんな微量の変化なんて一瞬で元に戻ってる。
奴の最強最強言ってるこの力は私には何一つだって効かないってことだね。なんか真剣にやろうかなって少しでも思ってた私が馬鹿だったみたい。
もう、いいや。
今、私、すっごく不機嫌なんだよね。
「……はぁ、それで最強?全然強くないね」
「─────は?」
私は体に力を入れて鎖をぶっ壊してブリュナーグスパナを出し、一閃。それだけで私の体を貫いていた槍も、全て破壊できた。脆すぎる。
「この程度で最強だなんて笑わせないでよ。それよりも、
──────────私ノ船ヲ、壊シタナ」
「っ!?」
少しだけ思い出した。そう言えばこいつらって前にも私の船を奪おうとしてた奴らだったよね。あの時確か全員再起不能になるまでぼこぼこにしたはずだけど、懲りてなかったんだ。
そっかそっか。
「─────
だったら、遠慮はいらないよね。
第100層で使ったこの
このスキル、というのは基本的に武具が使える特殊な能力のことでブリュナーグスパナやエレメンタルハンマーなどに備わっている。
因みに、
でもこのスキルかどうかの違いはかなり大きい。と言うのも、スキルはスキルを所持している武具を使い続けるとプレイヤーにスキルが付与される場合がある。
これを私は“ジェネライズ”と呼んでいるんだけれども、このスパナの
だから今このスパナを持っている必要なんてないんだけど、
「……
QaQaさんたちに被害が及んでしまうことを考慮する必要があるから一番制御の効きやすいスパナで何とかしないといけない。
「お、おいお前ら!や、奴を殺せ!ヘルモア!俺にもっと力を寄越せ!奴を殺す力を!」
「……始めよう」
準備は済ませた。私はありったけのOCをスパナに注ぎ、目の前に走って来たプレイヤーを貫く。その貫通力はあのダンジョンの奴らよりも弱い彼らの紙装甲など一瞬で破壊できるほどの威力だったようで、勢い余って後ろの三人ほども纏めて殺すことが出来た。
「がっ!?」
「なっ……!?」
「挟み込め!」
私はあの時とは違って、一切動き回らずにただ歩いているだけ。
「がはっ!?」
「ぐへっ!?」
でもあの時よりも強くなっているから問題ない。スパナを二度振ると、左右から来ていたプレイヤーの頭蓋を爆散させる。
「なっ!?」
そしてステルス系の見たとこのない能力でもって後ろから私を殺そうとしたんだろうプレイヤーが、軽々と防いだ私に驚いて一瞬だけ動きを止める。
私は360度一気に殲滅するためスパナを大きく振りかぶり、その場にエーテル粒子によって変形している鋭くとがった先端を思いっきり地面に突き刺した。
「「「「「っ……!?」」」」」
直後爆発したかのようにぶわっとエーテル粒子の圧が放たれて奴らは断末魔を上げる暇なんかなく一瞬でその姿を消した。
私はゆっくりと歩いていく。
だけど今の間だけ、怒りの感情だけはコントロールできそうにない。
「へ、ヘルモア!」
「無駄」
さっきみたいな鎖と槍が飛んでくるけど、それらを私は容易くスパナで粉々に砕く。
避ける必要なんてない。全て撃ち落とせる。
「く、クソガアアアア!!!ヘルモアァァァァァァアアアア!!!」
「……武器頼り?まあ私も同じようなもんだけど」
さっきから芸がない。ずっと同じような攻撃を繰り返しているだけ。本当に能無しだね。
こんな奴に私の船が壊されたと思うともはや怒りを通り越して虚しさとか後悔を感じてくる。もっと船を防御面で強化しとけばよかったとか、どこかに隠しておけばよかったとか。
まあそんなこともう出来ないんだけどね。
「さ、ケジメケジメ」
「く、来るなアアアアア!?!?!?」
「
私と奴の周囲を10枚のエイギスが回転し、ほかの誰も近づかせないようにして、
「
HPが全損してもログアウトできないようにして、
「な、なにが起きて─────」
「もう二度と、このゲームにログインできなくなるまで心を砕き続ける。覚悟は決まった?」
「や、やめろ……やめてくれ……」
でも奴の目はどこか安心しきっているような感じに見えた。なんでだろうと思って考えてみて、
「……ああ」
私はその安心は無駄だってことに気が付いて心の底から喜びがあふれだす。それが表情にも出ていたのか、奴の顔は更に恐怖に支配された。
「な、なんで笑って……」
「何でもないよ?ここから出れるといいね」
「それってどういう─────」
「ハハッ!」
「あああああ!?」
それから私はゲーム内で一日が経過するまで、永遠にスパナで奴を殴り続けたのだった。
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※ゲーム内の一日は現実で2時間です。
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