第44話
「……ァァァ、も、もう許してください……」
「は?許すわけないでしょ。よし、だったら再開─────」
《精神性の不安定波長を確認。プレイヤー名:金剛の強制ログアウトを実行します》
《今後半年ほどのログインは不可となります。ご注意ください》
私がいったん休憩している間にそんなアナウンスが私と目の前の金髪に流れ、金髪の男の姿が一瞬で粒子となってこの場から消えた。
あーあ、まだ殴り足りなかったのに。
もう少しで肉ミンチが出来上がるところだったのに。
「「ナラナラ!」」
「ん?ああ筑和さんに飯さん」
私は
やってきた二人は今までで見たことないような怒気を孕んだ表情をしていた。
「なんで戻ってくるのに半年もかかってんのよ!?」
「そうだぞ!なんでトラップの脱出に半年もかかってんだ!」
「え」
半、年……!?
まだ一週間ぐらいしか経ってないかと思ってたのに……!?これは平筑さんから直々によくて異動、最悪の場合強制辞職かもしれない……!?
あ、あ、ああ、あああ、ああああああ……!!!
嫌だアアアアア!!!
「な、なんかナラナラが頭を抱えだして苦しんでるぞ」
「……どうせ辞職させられるとかそう言うのでしょ。半年も会社に出勤しなかったもの、今の彼女の頭の中はきっとこれからの生活どうしようとかそういう事でいっぱいなんじゃないの」
「そういえばそうだ。半年もずっとベッドに居たんだしリハビリもしなきゃならねぇな」
そして飯さんのその言葉で、私の感情は遂に瓦解した。
今までせき止めていた嫌な想像が次々と頭の中であふれ出していく。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ」
「あ、狂った」
「さっきまでバーサーカーになるみたいなスキル使っても狂ってなかったのにこういう時に狂うのね」
「精神が強いのか弱いのか分かんねえな」
「オワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタオワタ」
「もっと狂ってるぞこいつ」
「もうそっとしておきましょう」
もう、何も考えたくない……。船も壊れた、職も失った。この半年あのダンジョントラップに引っかかったばっかりにこんなにも不幸が降り注ぐなんて。
……嗚呼、死して土に還りたい。
「……ぁ?」
「おや、起きましたか、里カナさん」
「……カナぁ」
「ァ……?ああ、ナラナラか」
「里カナさん大丈夫ですか?」
「あ、はい。……ありがとうございます」
カナが少しだけ頬を染めて今まで背負ってもらっていたQaQaさんから降りる。なんかあそこ少し甘酸っぱい空気がするんだけど。でも今はそんなことどうでもいい。
私の今後がかかっているんだ。だからこそ最後の頼みの綱、カナに何とかしてもらおうと口を開くが、
「そう言えば平筑さんが起きたら来いってさ」
「あああああああああああああああああああああああああああああああ」
……終わった。私の人生、終わった。
・¥・¥・¥・¥・¥・
それからなんとか荒れ狂った精神を整えた私は、カナから詳しい説明を聞くことに。と言っても平筑さんからは“来い”としか言われていないらしい。
「一先ず今日からリハビリを始めるぞ」
「う、うん……」
「だから今日はもうログアウトしちまえ」
「……」
そう言われて少しだけ考えるも、私にはまだやり残していることがある。
「船を」
「だめだ」
「……」
「いいか、お前は私たちを半年も待たせた。だからもうお前のわがままを聞くわけにはいかねぇんだ」
「……でも船を何とかしないと私がいない間みんな何もできないよ?ずっとここにいるんだよ?」
「────」
「よし、そんじゃやるねー」
「おいおいおいおい待て待て待て!」
私は制止するカナを無視して早速宇宙船の製造に取り掛かる。もう鉄船なんかに固執する必要なんてない。というか壊れた精神を戻したい。
船造って落ち着きたいんだ私は。
てか、最初からあれで頑張っていくなんて無理があったんだ。それよりもより頑丈でより強い船を作り上げた方がいい。
欲を言えば別に一つだけを造ってはいお終い、じゃなくてもっと多くの船を造りたい。そのためには作った船を置くスペースが欲しい。
今アイテムボックスの中にあるあのダンジョンで手に入れた素材をふんだんに使えば今でも3隻は造れるはず。
でも……。
「エーテル機構、足りるかなぁ」
問題が慢性的なエーテル機構不足だった。あのダンジョンで手に入れたドロップアイテムの中にエーテル機構が一つもなかった。
その代わりと言わんばかりにエーテル機構よりもグレードが一つ上のアイテムを手に入れたけど、それを使う船を造るためにはまだ整備士の職業のレベルが足りないらしい。
そのレベルを上げるには船を造りまくるしかないんだけど、ここまでの私を思い出してほしい。
─────まっっっっっったく、船造ってない。
本業を無視しまくって戦闘に興じてしまっていた。これは良くない。
ということでこれからはめっちゃ船、造ります。
「どれにしよっかなぁ。取り敢えず鉄船以上の宇宙船で確定だけど……」
あ、そういえばこんなアイテムを持ってたっけ。
【機械震犬の鉄骨:機械犬の巨大種の体を作っていた鉄骨。×1000で《狂震の宇宙船》の製造可能。】
そう、みんな大嫌いの機械震犬の鉄骨。これとエーテル機構で造れる狂震の宇宙船はなんと鉄船の4つ上のランク7の宇宙船で、かつこの船のレシピが解放される条件で機械震犬を倒すことが含まれている。
つまり─────
「これ、私しか造れないやつ……?」
そう言えばあのチュートリアルは私だけしか出来なかったようで、後にも先にも機械震犬や猫と戦ったのは私だけになる。
何故そう言い切れるかというと、なんとあのチュートリアルの星は一度チュートリアルをクリアするともう二度と入ることが出来ないらしい。
そして運営は私がダンジョンに潜ってる間に行われたアプデを調べたQaQaさん曰く、どうやら私が被ったあの不自然チュートリアルはただの運営の不具合だったようで、次のアプデで解消されたんだと。サイレント修正ってやつ。
「よし」
造れなくなる前に造ってしまおう。そう決めた私は貯金エーテル機構が無くなる覚悟で狂震の宇宙船を造り始める。
必要な素材は機械震犬の鉄骨が1000個、エーテル機構が20個、機械震猫の鉄髭が400個、そしてバイクスネイクのなめし革が100枚。
機械震犬の鉄骨とか機械震猫の鉄髭なんて腐るほどあるし、バイクスネイクのなめし革もまあまあある。
……これ造り終わったらエーテル機構周回しよ。
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