第53話

 遺跡の一層目は迷路のように入り組んでいた。だから出てくるエネミーの数も少なかった。けど、出てくるエネミーは軒並み機械系のエネミーばかりだった。

 お陰で様々な宇宙船を造るためのアイテムがガッポガッポ。


 基本的なアイテムである鉄骨は勿論のこと、稀にエーテル機構だったり鋼鉄だったりがドロップした。

 いろいろ枯渇してた鉄骨だったりエーテル機構だったり、造りたかったけど造れなかった船に必要なアイテムだったりと、本当に多種多様なものが手に入った。


 でもいろんな種類が集まっただけでそれぞれの数が揃っていなさすぎる。精々一種類につき10個程度。あと100倍必要。そして100%ドロップするみたいなアイテムがないから余計に何百と討伐しないといけない。悲しい。


 だから無理を承知でとにかく出会ったらすぐに殺してなるべく多くリポップするようにした。迷路は知らない。どうにでもなれ精神。


 そんな感じで攻略を進めていたからなんだろう、遺跡に入った初日、レイヴンに進捗を聞いたら、


『3%です』


「え」


『3%です』


 全然進められてなかった。

 いよいよ危機感を持った私はここから先進むことを優先して行こうと決めて、この日はログアウトした。


 そして次の日に頑張ろうと思った。思ったんだけど……。


「うへー……」


 仕事に忙殺されてログインする暇がなかった。


 社会復帰した直後にやってきた5つの仕事は結構前に既に終わらせている。


 じゃあ何に忙殺されているかと言うと、そのあとにやってきた新たな仕事だった。それも普通のものなんかじゃなくて、だと言うからもうめんどくさかった。


「これやって」


「……え?」


 ある日突然平筑さんからではなく別の部署の同僚から有無を言えずに渡された仕事。内容を確認してもどう見ても私の担当ではなかったのだけど……。


「なんで?休んでたんだからこれくらいやってよ」


「……」


 それを言われてしまったら何も言い返すことが出来なかった。仕方なく私はその日のうちに下調べを済ませ、次の日に片付けられる準備を済ませた。


 それが今から三日前。忙殺された真の原因が起きたのはそれから二日後。


 二週間前の事だった。


「これ、追加ね」


「え?なんで……あれで終わりじゃ」


「は?そんなわけないじゃない。いいから黙ってやってよ。こっちは困ってたんだから」


「っ」


 まさかの追加案件かつ締め切りが次の日という地獄。大急ぎで済ませたけど結構ぎりぎりだった。もしあの時寝ていたら……と思わず蒼褪めてしまいそうになるくらい結構ギリギリで、なぜか私に仕事を振ってきたよく分かんない同僚が私にキレてくるというよく分かんないことも起きた。


 それがしばらくの間続き、つい昨日になってようやくピークを過ぎて少しだけどゆっくりと息を吐く時間が出来た。

 そうして考えてみてもやっぱりこれはおかしい。部署を超えての仕事依頼はまず部長に話を通さないといけないのに、平筑さんからは一切連絡が来なかった。


 私の仕事は本来平筑さんから直々に送られてくる……そう聞かれていたのに。


 何か裏がある。絶対に。


 だから取り敢えず平筑さんに相談しよう。あの仕事を渡してきた女の人についてもついでだし調べておこう。こう見えて私、情報収集は得意だからね。


 あ、そう言えば前に午後4時半くらいに休憩を一度取った時、あの女の人が帰って行ったのを見たような……。まあ調べていけばいずれ分かるよね。


 でも今は仕事に関することは気にせずに遺跡を探索することに集中集中。


『今日こそ完全攻略しましょうね』


「そうだね。前回は素材集めに奮闘しすぎたから」


『本当ですよ。あれでは効率が悪すぎます。効率を求めるのならに行かないと─────』


「よしまずはそこに行こう」


『あ、しまった』


 レイヴンさんから良い事を聞いちゃった。それを早くに言ってほしかった。

 でもまだ挽回できる。ここからエネミーボックスに行って狩りつくせば……!


「レイヴンさん!」


『……はぁ。里カナさんからなるべく早く戻ってきてほしいと言われていたのですが……』


「彼らが勝手に乗れる分の船はそばに造ってあるからそれに乗ってってって言おうっと」


『あっ……手遅れですね』


 チャットで彼らにその旨を適当に伝えて早速レイヴンさんにエネミーボックスの場所まで案内してもらう。

 既にこのフロアのみならず遺跡の全てを解析し終わっている彼の案内は頼もしい限りで、私だけだったらきっと迷子になったまま永遠に帰れなかっただろう。

 私、方向音痴だからね。


 そうしてしばらく歩いた先に、それはあった。


『……ここです』


「ここ?」


 一見するとただの扉であり無害そうで、それに次の層にまるで続いていそうな雰囲気を見せている。だけど彼はこれがエネミーボックスの入り口だと言う。

 これがエネミーボックスか、と少し拍子抜けもいいところ。だけどもし知らないで入ったら、と思うと。


「よく出来てるなぁ」


 と思わず感心してしまうほど、そこに馴染んでいた。


 エネミーボックスとは。

 簡単に言えば中に入ったらそこに際限なく湧くエネミーを全て殺し尽くさない限り出られない部屋の事を言う。

 そこには段階があって物によって異なるが、公式の情報だと最大でも4段階あるらしい。


 そして最終段階に出てくるエネミーはその遺跡もといダンジョンのボスと遜色ないほど強力なエネミーが出るとかでないとか。


 これを聞いてこう想像した人はいないだろうか。




 ─────これ、攻略し切った時の報酬凄そう、と。




 しかし悲しいかな、このエネミーボックスを攻略したからと言ってこれと言った報酬が得られないのだ。

 あくまでこれはトラップであり、トラップなら報酬はない。


 最後の最後まで足掻いて手に入るのはレベルを上げるための経験値とドロップアイテムだけ……。頑張りに対する特別な報酬が何一つ存在しない。


 しかもこのゲームは1回デスポーンするときのペナルティがあまりにも大きすぎる。だからこれを好き好んで入るような馬鹿や狂人はいない……とレイヴンさんやカナに言われた。


 え?私?普通に入るけど。


『……ちょっ』


 ガチャ、とドアを開けて中に入り、まずは“不激変:十の円環オーバーチェインエイギス”をアイテムボックスから出して周囲に展開させる。

 と同時にもう私の分身とも呼べるくらい使い込んだブリュナーグスパナを取り出して、OCを流し込み、エーテル粒子を発生させる。


「ガアアアア!!!」


「RRRRRRRR!!!」


「おおおおお!!!めっちゃ機械!!!」


 ここに来るまでに遭遇したようなエネミーだったり初めて見るエネミーだったり、多種多様なエネミーが私を出迎えてくれた。

 それにこれが一番嬉しかったのだが、なんとすべてのエネミーが機械だった。


 それだけでもう嬉しいのに、明らかに数が桁違いに多い。


「アイテム周回、目標20週!!!」


『……私たちは端っこで待ってますね』


『ワン!』


『え、ローズ。行くんですか?』


『ワン!』


『……凄いですね。私はちょっとエーテルが少なくなってきているので充填してます』


「おっけー」


 レイヴンさんが遠い目をしてるけど仕方ない。こればっかりは私の趣味に突き合わせてしまっている以上後で埋め合わせをしよう。

 何か好きなものとかあるのかな。あとで聞いてみよう。


「よっしそれじゃあいくよローズ!何段階あるか知らないけどとにかくぶち殺しまくろーーーー!!!」


『ワオーーン!!!』


 そして私たちは一斉に駆け出した。あの60体も出てきたトラップよりも数が多いけど強くない。それは私にとって生温すぎる。


 果たして今日だけで何周出来るんだろうね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る