第54話
「三週目完了!」
『ワン!』
「あ、エーテル機構が欲しいの?はい3個ね」
『ワン!ガウガウガウ……』
「ふふふ」
ここまで頑張ってくれたローズにエーテル機構を3個上げれば彼女は嬉しそうにそれらにかじりついた。
現在エネミーボックス周回三週目。どうやらこのエネミーボックスは3段階あったようでそれなりに骨があって楽しかった。
しかもこれが一番嬉しかったのだけど、なんと久々の機械犬と機械猫がポップしたのだ。いや、嬉しかったというより狂喜のあまり優先的に殺した、と言った方が正しいのかな。
そんなわけだから久々に機械震ドライバーが役に立つ時が来た。これは彼らを殺した際のドロップ率が100%になるものだからね。これを使うのは当然だった。
それに3段階目にはこれも久々機械震猫が出現。だからこれも機械震ドライバーでぼっこぼこにしてエーテル機構を強引にドロップさせた。
これを三周。1段階、2段階の時点でもエーテル機構が何回かドロップしてたから結果的に元々あった分のエーテル機構が帰ってきた。
切り崩して切り崩して何とか耐えきった先に大金が舞い戻ってきたかのような喜びが全身を駆け巡る。
貯金が戻ってきた。やったね。
正直な話をするとこれを後四周くらいしたいんだけど、このままだとレイヴンさんが退屈で停止してしまいそうだったから渋々、止めた。
『……他の星をもっと見たくてあそこを出たのに』
「ごめんなさい」
あのレイヴンさんから小言を言われてしまった。次から気を付けよう。
横でローズが頭を少し下げて申し訳なさそうにしているのを見て猶更そう思った今日この頃。
気を取り直して私たちは本格的にこの遺跡の攻略に乗り出した。
レイヴンさんが既に最奥までのルートを導き出しているので、その通りに進んでいく。
道中のエネミーは私が率先して殺していった。必要素材はまだ足りていないけど、こうして殺しても雀の涙だけど、それでも塵も積もれば山となるって言葉があるように少しずつ溜めていかないといけない。
そんな訳だから私たちは最初ののろさがまるで嘘みたいにあっという間に最奥に行くことが出来ていた。
本気で攻略を始めて僅か2時間。
『……最初からこうすればよかったのでは?』
「……だって素材が」
『言い訳しないのでは?』
「すみませんでした」
こうして言いくるめられてしまうのも仕方ない。こればかりは私が悪いからね。
気を取り直してまずは最奥にいるボスエネミーの討伐。これをすぐに済ませよう。
ゴゴゴ、とやけに大きな扉が地面を引きずらせながらゆっくりと動き、その中身を見せる。
直後、ぽつぽつと室内にあった松明に独りでに火が灯り始め、その奥にいる何かを鮮明に照らし出した。
「……おぉ」
結論から。
最奥にいたのは巨大な機械。クレーンやブルドーザー、その他さまざまな重機を合わせたような、謂わば機械版
まるで小さな子供が考えた“さいきょうのへいき”をそのままにしたかのような、頭の悪いものだけど、油断はできない。
でも一番驚いたところは、
『─────ハイジョスル』
「しゃべった。……声たっか」
ゴツい体をしてるくせに耳がキーンとなるような甲高い声でしゃべったことだった。
それに思わずぽかんとしてしまったがために、初手を相手に譲ってしまったのは私の油断であり、気があまりにも抜き過ぎていた証拠だろう。
「っ!?」
『ハイジョ、スル』
巨大なドリルをまるでミサイルのように発射してきた。それを私は何とかして避けると、直後にガトリング砲の銃口が一斉に私の方に向かい、これまた一斉に発射してきた。
「危ないなぁ!?」
顔を横に傾けつつ即座に取り出したスパナで銃弾を弾き被弾を防いだ。と同時にドライバーを出して手首を捻らせて回転させながら敵の目を狙って投擲する。
風を唸らせながら真っすぐに飛んでいくドライバーを奴は背中から出てきたコードを鞭のようにしならせてそれを叩き落とした。
その間も絶え間なくガトリング砲による銃撃は続いていた。
だけどそれほど速度はない。
……いや、普通の人からしたら相当速いんだけどさ。
最初は焦りからか何度か当たりそうになってスパナで打ち落としていたけど、今では体を動かしたりするだけで避けることが出来ている。
それにある程度目視で避けることが出来るようになってきた。
それを見て奴─────機廻獣バメラはガトリング砲を止めた。もうこれは意味がないと判断しての事だろう。賢明な判断だと思うし、私もそうしてくることは分かっていたからそれほど驚かない。そして次に出してきたのが、
「わお」
巨大なバズーカだった。もしかしなくともあらゆる銃器を持っているのかも?なんて考えていたのだけど、当たっている可能性が高くなってきた。
取り敢えず阻止しないといろいろめんどくさい事になりそうだから攻撃を仕掛けることに。
アイテムボックスからエレメンタルハンマーを取り出し、中の精霊を起こしながら思いっきり振りかぶる。
今までこれを砲撃としてしか使ってこなかったが今回は近距離からぶちかます。一度もしたことがないから威力は不明だけど、それでも遠距離で放つ威力があれだけなんだから期待できるだろう。
バコン!!!
「……チッ」
胴に届く─────直前に横から分厚い鉄の板が私と奴の間に入り込んで来た。そのせいで本来大ダメージを与えられたはずなのに、防がれてしまった。
今の一撃は間違いなく致命傷を与えれたはずだった。その証拠に横入りしてきた分厚い鉄の板が今ので粉々とは言わずとも、バラバラに壊れて使い物にならなくなった。
見ると同じような鉄の板がほかにもいくつかあり、それらが奴の背中から伸びているコードと繋がっていて自在に操っていることが分かる。
面倒な盾。これをぶっ壊すのに必要な威力がかなりのものだと今ので分かってしまった。
そんな呑気なことを考えている間にも、バズーカの充填が完了したようで、
『ハッシャ』
『っ!ナラナラさん!』
「
遥か上からちっぽけな私に向かってあまりにも強大な光線が放たれる。それは無慈悲な死刑宣告のようなもの─────だと他のプレイヤーはこれを見たら言うだろう。少なくともカナは言うに違いない。そしてそれは間違いじゃない。
舞い上がった砂埃が光線に当たった直後に消滅している。試しに頑丈そうなアイテムを投げてみたら、光線に当たった瞬間スッと消えてしまった。
確証はほとんどないけれど、たぶん触れただけで消滅する、防御無視の攻撃だと予想する。
─────現状、攻略する術がない。
これは……どうやって防ごうかな。
なんて、考える暇などなく無慈悲にもどんどん死の光は迫ってくる。
さっき
避けようにも既に避けれないところまで来てしまった。
為すすべなくこのまま消える─────
「─────訳ないでしょうがッッッ!!!」
防御が無視されるんだったら─────受け流すしかないッッッ!!!
タイミングを見極める。この手にあるのはスパナだけ。いつだってそうだったし、きっとこれからもそうなんだ。
……それは何だか嫌だ。スパナと運命を共にするのだけは何としても避けたい。
でも今回かこれの可能性にかける。想定していることが正しければきっと問題ないはず。
本当だったらもっと検証しなきゃだけど、もうこの際だ、ヤケクソで成功させてやる!
私はスパナにありったけのOCを流し込んで、出来るだけ多くのエーテル粒子を発生させる。するとブリュナーグスパナの口の部分が少しずつ形を変えていく。
薄く広く、板のようにエーテル粒子が広がり出し最終的に表面が鏡のようになっている盾に変化した。もはやスパナの原型を保たなくなってしまった。アイデンティティの損失である。
でもお陰でビームは受け流せそう。私の期待した通り、いや、それ以上の成果で返してくれた。
「これで……!」
ビームが当たる直前に盾を地面とほとんど水平に構え、強い衝撃が盾から腕に伝わるもそれも少しの間だけで、その少し後に私の後ろで大きな爆発音が鳴り響いた。
「……ふぅ─────っ!」
それから酸欠になって意識が飛びかけていることなど構わずに、そのまま残ったエーテル粒子でスパナの形を盾から槍に変えて、駆け出した。
あれほど大きなビームを放ったんだ、反動で動けなくなるのは必然。千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない!
大きく飛んで─────狙うは奴の心臓部分にはめ込まれているコア!
「貫けッッッ!!!」
ただひたすら真っすぐに槍と化したスパナを突き出していくと、ギリギリと金属同士が摩擦して火花が散っていく。
だがその間に硬直状態から回復した機廻獣バメラが私の脳天目掛けていつの間にかあった巨大な鉄の斧を振り下ろしてきた。
『オメガ砲!』
ここでこのフロアに入ってから今まで動かずにチャージをし続けていたレイヴンさんからの援護射撃が。
真っすぐに鋭い光線は正確無比に振り下ろされていた鉄の斧を見事に破壊した。
「ありがとレイヴンさん。助かった!」
『早く決めてください!次は防げませんよ!』
「分かった!だったらせっかくだしエネミーボックスで手に入れた新しいスキルを使って決め切る─────
直後、私の体が淡い黄色に光り出し、押し出す力が少しずつ強まり始めた。
これが
短期決戦にはうってつけの能力。最初からこれを使えば機廻獣バメラはすぐに殺せただろう。だけど今までこれを使ってこなかったのにはもちろん理由がある。
─────この後たくさんここを周回するから。
ボスエネミーの使ってくる技、能力、耐久力などなど……調べないといけないことは沢山ある。普段だったら攻略サイトを使うけど、最近の、というかSSFの攻略サイトは本当に使えなくてそんな情報が一切どこにも載っていなかった。
もっと仕事をしてほしい。まあそんなことは良いとして。
だから今回HPが半分を切ったあたりに突然放ってきたあのビームはここで知れてよかったと思う。もし最初から速攻攻略を目的に突っ走っていたら多分周回何回目かで死んでいただろうから。
あれの対策も出来上がったし、なんならもっといい方法が思い浮かびそうだし、慎重に戦ってよかった。私はいつだって学ぶんだ。あのダンジョンでの後悔と反省をしっかり糧にしているんだ。
ってことでもう終わらせよう。脅威なものとかも十分知れたし。
「はあっ!!!」
『ハイジョ──────────キケンキケンキケン。サイダイボウギョシステムキドウシマ─────』
「おっそいのよッッッ!!!」
私はより一層強く押し込めば、ひびの広がりがどんどん加速し、遂に。
─────バギッッッ!!!
と機械が出してはいけない大きな音と共に、粉々に機廻獣バメラは崩れ去ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます