第5話 宿敵抹殺絶対に
それからしばらくの間、ロボット犬やロボット猫を見つけてはスパナで叩くと言う何ともシュールな時間を過ごし、
「……これでも1000個か」
集まった素材は鉄骨1000個だけだった。
始めた当初はこんなことせずにさっさと街に行けばいいのではと思ったけれど、初めて見つけた街は何と船が無いと行けない場所だった。
散策している間に地図上で街の位置を確認できたのだがどう見てもその場所には無く、上を見上げてみればなんか島が浮いていた。
あれを見た時思ったよね。マジかぁ……って。
「これ絶対スタート地点間違えてるって!」
そう嘆いてもこの現状が変わる訳もなく。こうして大人しく船を作るために素材をかき集めている。
「はぁ……」
『キャウン!?』
また出てきた犬を叩き殺す。これで大体400体目だろうか。
なんでスパナで犬を叩き殺してるんだろう。こんなことをするためにこのゲームを始めたわけじゃないのに。
胸の中に広がる虚無感が凄い。
こういった作業をする時ってなにも考えられなくなるからあんまり好きじゃない。
「ん?」
すると丁度500体目を殺した時の事だった。死んだ目でドロップしたアイテムをさっさと回収していた私の目の前に突然、
《500体討伐達成!》
の文面と共にピコン、と私のアイテムボックスに通知が入った。どうやら報酬が入ったようで、中を確認してみると、
「……何これ」
【オールペンチR3/Lv.1:宇宙船開発時に用いるアイテム。レベル×10の強度の加工を可能とする。自由に大きさを変えることが出来る。】
今度はペンチが入っていた。スパナの次はペンチかい。
「チッ」
私は舌打ちと共にログアウトした。
・¥・¥・¥・¥・
「……ふぅ」
一旦休憩するためにログアウトした私は既にログアウトしていたらしいカナが聞いてくる。
「お、結構潜ってたな。どうだった?」
「……思ってたのと違うんだけど」
「あはは。まあ最初は地味な作業だけど、最終的に出来る事が増えるから今は耐えようぜ」
「……そうね」
もう鉄の犬とか猫とか見たくないってくらいあの森の中で奴らを殺し尽くした。でもあいつらがいないと船が作れない。
耐えるしかないだろう。
「あー……あれは相当イラついてるね」
カナが何か言っているが知らない。私は冷蔵庫から一本エナドリを取り出す。このエナドリがあれば今日だけでなく明日だって乗り越えれるだろう。
「……ふぅ」
「珍しいじゃん。それ飲むなんて」
「今日明日で現状を打破するわ。待ってなさい……あのクソ犬共」
怒りに任せて飲み切って、空になった缶を握りつぶした私はそれを思いっきりゴミ箱に投げる。
が、コントロールが悪く大きくゴミ箱から逸れてしまう。こうなるとゴミ箱のアームは缶を感知できずに勝手に取ってくれない。
「ああもう!」
缶をゴミ箱に叩きつけた私はもう一度魂搬送機を取り付け、ゲームの中に入ったのだった。
「……犬のNPCとかいたっけ?」
・¥・¥・¥・¥・
「はぁ、はぁ、はぁ」
ゲーム内で一週間、現実世界で7時間が経過した。ゲーム内の一日は現実では1時間となっている。だからか、日が上って落ちるスピードが結構速い。
だけど今の私にはそんなこと関係なかった。
だって─────まだ素材が集まっていないから。
「クソッ、どこにいる……出てこいワン公が!!!」
二時間前までは出てきていたロボット犬やロボット猫が突然ピタリと出てこなくなった。
必要な鉄骨は後3つ……一体でも殺せば集まると言うのに……!
「どこだああああ─────ん?」
と、叫びながら憎きワン公を探していたその時だった。突然足元が揺れ始めた。
「地震……?いや、サービス開始初日ででっかいボスがスポーンするなんてそんな事─────」
─────ありました。
「……噓でしょ」
ゴゴゴ、と地面が揺れ、私の目の前にゆっくりと姿を見せたそれは、
「まさか……初日で」
ゲーム開始日に私はどうやらやらかしたようで。
後で聞いた話なんだけど、どうやらこいつが出る条件は相当難しかったらしく、私はそのどれもをこの時達成していたのだとか。
「宇宙船も持ってないのに、フロアボスが出現するの……!?」
こう言った大層な演出はいつだって何かしらのボスが出現する合図。それをまさか初日で拝める私はどうやら幸運だったようで。
ワクワクしながら待ち、ようやく姿を露わにしたそいつは─────
『─────ワ゛ン』
「来たなワン公ぅぅぅぅううううう!!!」
絶対に殺すべき、宿敵だった。
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