第31話

「あ、あれ?」


 出口の先に行った私は、目の前に続く光景に戸惑いを隠せないでいた。

 だってそこにあったのは私の期待していたものなんかじゃなくて、


「なんでまた!?」


 さっきと同じようなフィールドとそこにいるさっきよりも明らかに強くなってるエネミーの姿だった。

 因みにブリュナーグはもう完全にスパナと融合したので、アイテムボックスにはない。


「このスパナで何とか出来るのかなぁ」


 それにしても、エネミーのレベルとか、少しでも敵の強さが分かるような感じにしてほしいんだけど……。もう手探りで強さを測るのめんどくさくなってきてるんだよね。


 こういう時、鑑定とかあったらどれほどありがたいか。


 ま、ないものを強請ってもしょうがない。このスパナで何とかしますか。


「ええい、さっさと出口に行きたいんじゃ私はあああああ!!!」


 レベルアップしたお陰でさっきよりも素早い動きでエネミーに近づくことが出来た私は、避けようと後ろにバックステップした奴目掛けて、


「おらあああ!」


「ヴァアアア!?」


 スパナを振りぬき、後ろにいたエネミーごと闘技場の壁まで吹き飛ばした。だけどやっぱりHPを全損させることは出来なかった。

 

 私は奴らに追撃しようとして─────


「ガアアア!」


「っぶないなあ!?」


 別のエネミーの攻撃を何とか防ぐ。だけどこうして動きを止められている今、他のエネミーには格好の餌だろう。

 だからまずはここを離れないといけないんだけど……。


(……突っ込みすぎちゃった)


 声に出さずに後悔の念を言う。自ら退路を断つ戦い方がもう癖みたいになってしまってる。整備士は本来非戦闘員。だからそう言う戦い方は良くない。良くないんだけど。


「攻めは最大の防御とかっていうしねぇ……っ!」


 私はエネミーの爪を防ぎつつ、横から迫ってくる別の爪を


「ガア!?」


「ッしゃキタコレ!」


 爪を受け止めているエイギスからエーテル粒子を発生させ、防いでいる爪を少しずつ離させる。

 エーテル粒子を出すために必要なOC酸素濃度が消費されていて、少しずつ息苦しさを感じ始めているがそれ以上の高揚感で苦しさが上書きされる。


 スパナと盾の組み合わせって意外と合うかも。


「剥がれた!」


 一瞬の隙を突いて強引に二体のエネミーを私から離すとそのままエネミーのいない遠くまで駆ける。

 目の前には最初同様60体のエネミーが。だが種類はさっきと違ってある程度統一されていた。


 40体の獅子のようなエネミーと20体の鷹のようなエネミー。


 こうやって統一されていると、連携を取ってくるから面倒極まるんだけど。さっさと帰りたい私にはそれがとても鬱陶しく感じていた。


 敵の攻撃を回避しつつ私はOCの値が回復したのを確認し、ブリュナーグスパナの能力を解放させる。

 するとスパナの周りにエーテル粒子が漂い始め、微振動を起こす。


 果たしてこの進化したスパナの力はここでも通用するのだろうか。てか、普通威力を出すような物じゃないんだけどね。


 これで叩いたら肉まで粉々にしてくれるだろう。だってさっき蟻で同じことが起きたから。


「はあ!」


「ガアアア!?」


「ヴァアアア!!!」


 その直後、このスパナを危険視した鷹のエネミーが私に向かって上から突進してくる。

 私はそれに合わせるようにして、


「おらっ!」


「ヴァアアア!?」


 スパナを思いっきり振り下ろした。



・¥ ・¥ ・¥ ・¥ ・¥ ・



「よし、攻略完了」


 最後の獅子を殺した私は、またドロップアイテムを回収して、宝箱も開けてしまう。

 そこから出てきたのは、またもやエイギスだった。


「……なんでぇ?」


 まあ今更か。私はさっさとここを出たい。それだけだし。

 と言うかここが果たしてどこまで続いているのか、それを今知りたいなぁ。


「……」




 ────嫌な予感がする。




「つ、次からサクサクッと進めれば……問題ないよね!」


 そうやって誤魔化しても嫌な予感は消えることは無い。

 こういう時の嫌な予感は本当によく当たる。当たるから……。


「早く出たいなぁ……」


 まさかこの嫌な予感が想像以上の(私にとっての)最悪を引き起こすことになるとは、この時の私は知る由もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る