第49話
仕方なく取り出した素材の数々とスパナとペンチを仕舞い、狂震の宇宙船の動作確認を始める。
狂震の宇宙船のランクは鉄船から大きく離れた16だけど、この船は普通の船とは異なる“特殊宇宙船”の部類に当たる。この特殊宇宙船にはその宇宙船特有の能力が最低でも一つある。つまり、その能力がその宇宙船最大の特徴とも呼べる。
そんな中この狂震の宇宙船はなんと特殊宇宙船の中でも一番下のランクに位置しているらしい。らしい、というのはいつの間にかあった“全宇宙船設計図”をすべて把握しようと確認していた時に分かったこと。
やはりチュートリアルのエネミーから造られる船だからだろう、あのクソ犬どもはどこまで行ってもしょぼかった。
果たして本当に運営は多種多様な宇宙船を造らせる気があるのだろうか。
因みに普通の宇宙船の中で一番上のランクは15だ。つまりそういう事なんだろう。
「まあ気にしないでいっか」
狂震の宇宙船の固有能力はその名にある通りの“狂震”。周囲の全てを震動させる、という能力だ。これは振動を伝わせる空気のない宇宙空間でも働くという優しい設計。
だけどやっぱり空気があった方が強力。少しでも伝わせられる媒介があればあるほど起こす被害も大きくなる。
「うん。一回使ってみよう」
どれくらいの被害が出るんだろう。私は操縦席に座りながらうきうきしていた。
目の前にあるこの黄色いボタンを押すだけで発動させられる親切設計。これは私のアレンジで、やっぱり強力な武器は簡単に打てた方がいいよね!という考えのもと設置した。
後悔?全くしてないけど?むしろなんでする必要があるの?
「はいポチッとな」
私はしっかり作動することを心の中で祈りながら一回ポチッとボタンを押した。直後─────
ォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
「おー!すっご!」
全身に感じるピリピリとした感覚が間違いなく空気が振動しているのだということを分からせてくれる。
それ以上にまさか音が出るほど振動するなんて思わなかった。
周囲にあった砂は舞い上がって、まるで雨のカーテンのように船体に降り注ぐ。
更に振動は街の方まで広がっていたらしく、レイヴンが慌てた様子でこっちに来ているのがモニターから確認できた。
『ちょっと今のは何ですか!?』
「レイヴンさん」
『ナラナラさん、あなたですか!今地震が来たんですけど!?』
「あ、ごめん」
予想出来ていたけどやっぱりレイヴンさんが来たんだね。他のメンバーももうすぐ来るかな。それまでにメンテ終わらせないと。
『今度は事前に言ってください!建物が崩れるかもしれないじゃないですか!?』
「はいはい」
一先ず動力部分に問題はなさそう。っていうかそもそもメンバーも動かしてなかったって言っていたし最初から問題なんてなかったんだけど一応、ね。
万が一ってのがあるし。
「お、やってるな。今すぐにでも行けるか?」
「
と、レイヴンさんがいまいち納得していない感じで腕を組んでいる横に飯さんがやってきた。
その両手にはあのダンジョンで手に入れた二対の剣が握られている。
「いやぁ、もう飽きてたからよかったぜ」
「すみません。迷惑をかけて」
「本当だぞ。次は気をつけろ」
「あ、はい」
……行こうっていったの飯さんだった気がするんだけど。
「そんじゃあ行こうぜ。今日ログインしてるのこの三人だけだろうし。レイヴンさんも来るか?」
『ああ、前の話ですね』
ん?前の話?
私がいない間にスカウトしてたのかな?
「んで、どうする?行くか?」
飯さんがそうレイヴンさんに聞くと、彼はロボットながら人とまるで変わらない思案顔を見せる。
『……正直なところまだ迷っているところがあります。私は元々この街を、街に住む人たちをあらゆる障害から守るために作られた。そんな私がここを離れてしまってもいいか、と』
「……」
『ですが』
そう言って彼は私たちに顔を向ける。表情は一切変わらないはずのその顔は、笑っているように見えた。
『今は、あなた方と新しい景色も見てみたい。そう言った欲望を抱いている自分がいます』
「欲望っていうか、それは望みだな。欲望って言うとどこか悪い感じがするから」
『そうですか。ではこれは私の望みです。─────この星の先にある光景を、見たい』
そう言った彼の目は、どこかいつもよりも煌びやかに見えた。
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