第48話

「……お、終わった。これでやっと、半分」


 ようやく三つ目の資料作成を終えて、時刻は深夜の3時。既にテーブルには5本の空になったエナドリの缶が転がっている。つい昨日20本の缶を捨てたばかりだというのにもう5本空になってしまった。

仕事に復帰した次の日に締め切りだったあの仕事は一徹したのち締め切り当日に無事完成し資料を送ることが出来ている。


 そこから私は何を思ったかこのまま突っ走っちゃえ!と勢いそのまま二つ目の作成を始めてしまった。こうなった以上私でも満足するまで止まることはない。


 その二つ目は結構難しい内容だったのでそこからさらに三徹を要してようやく完成。ここまで食事以外ノンストップ。風呂などは自動で汚れを落としてくれる服が会社に遭ったのでそれを借りて今日までずっと着たまま。


 更に気が狂った状態で何を思ったかこのまま三つ目もやっちまえ!とヤケクソで始めてしまった。その三つ目は馬鹿が作ったとしか思えないものだったので解読するのにめっちゃ苦労した。


 その解読に二日(二徹)、更に用語整理と資料作成にそこから三日(三徹)。既に死んでもおかしくない。


「……あ」


 私はそのまま体の制御を手放すようにテーブルに突っ伏す。もう何日SSFにログインできていないんだろう。それを考えるだけで辛くなる。

 ……調子に乗って仕事を片付けようとするんじゃなかった。お陰で締め切りがかなり先の奴以外は全部片づけられたからよかったんだけど。


「……ナニコレ」


 誰かの呟きで目が覚めると既に太陽が頂点を過ぎている頃だった。まさかの12時間睡眠を会社でかましてしまった私は寝ぼけたまま頭を上げると、私を囲んでいる人たちがいた。


 未だ眠気が取れない……。徹夜は得意だったけど、流石にここまではしたことがない。


 もう少し眠らせてほしいんだけど。


「おいルニ。何してんだ」


「……何って、仕事?」


「復帰早々何徹しやがった」


「……知らない」


「………………はぁ」


 ルニが溜めに溜めた溜息が聞こえる。それからルニともう三人ほどがごそごそと私の周りで何かし始めた。


「……何してんの?」


「ゴミの片づけだよ。お前が全然整理しないからな」


「……あ」


 そう言えばゴミ箱行くのも怠いと思って足元で固めてたんだっけ。忘れてた。


「さっさと仮眠室でしっかり眠れ。ほら」


「……へい」


 素直にその好意に甘えよう。私ははっきりしない意識のまま自力で何とか宙椅子を動かしてそのまま仮眠室のベッドにダイブ。

 そのまま深い眠りについたのだった。



 ・¥・¥・¥・¥・¥・



「いやぁ、やっと家に帰れた」


 夜中の2時を回ったところでようやく家に帰ることが出来た私は、手にしていた鞄を放り投げ、自分のベッドにダイブする。

 仮眠室で仮眠して元気を取り戻したために、また仕事を再開してしまったが故の疲れがどっと襲い掛かってくる。

 あそこでまた自分を追い込むなんて……もしかして私ってMなのかしら。


「まあいっか」


 こんな夜中だけどカナは既にログインしているって言っていたし、私もログインしよっと。

 仕事がある日とかだったら無理だけど、今日と明日は何も気にせずひたすらにゲームができる。


 なんてったって、休日なんだから。


「ふぅ」


 久々のSSFの光景に馳せる私は、最初にログインボーナスを受け取ってすぐにアイテムボックスの中に仕舞い、


「よっし」


 スパナとペンチを取り出した。


「今日はずっと船を造る!」


「体力持たなくないか?」


「あ、里カナ」

 

 と今日の目標を改めて確認していると丁度クエストを終えたカナがやってきた。

 今私たちのパーティは未だレイヴンの星に滞在していた。というか狂震の宇宙船を操縦できるのが私しかいないのでこの星で出来ることをしていた、というのが正しい。


 私がトラップに引っかかったあのダンジョンにも挑戦したらしく、第三階層にあったあのトラップは消えていたのだとか。

 

「今レベルどう?」


「やっと50」


「よかったじゃん」


「……なんで非戦闘職のお前がレベル早々にカンストしてんだよ。改めてレベル上げめんどいって実感したわ」


「素材は?」


「めっちゃ集まったぞそりゃあ。お陰で新しい武具作れるし」


「頑張ってね」


「そう言ってるが、お前もがんばれよ。今日は船造れないから」


「……は?」


 それを聞いた私は最初何を言われたのか理解できず、呆けた声を出していた。

 なんで船を造れない……?


「移動したい。そろそろ」


「あ、忘れてた」


「さっさと行くぞ。もうずっとここに居たせいで最前線の奴らがメインストーリー一章を終わらせてきそうなんだよ。もうここは飽きた」


「えー?」


「えー、じゃない。自覚してるくせにそんなこと言うな。とにかく準備進めろよ」


「はーい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る