第38話 カナ視点③
「里カナ!このまま攻めるぞ!」
「おう!」
後ろから筑和さんのバズーカが飛んでくる。それは私たちの丁度目の前にいた敵を葬り去った。タイミングばっちり。これはきっとQaQaさんの采配だろう。
彼のプロゲーマーだって噂話が現実味を帯びてきた。この采配を、私はどこかのeスポーツの試合で見たことがある。
その時の戦い方も基本に沿っていて、前衛と後衛でしっかりと分けて戦っていた。
やはり、このチームの戦い方と合っている。ある意味全員攻勢に出るような戦い方に。
私たち一人一人、どこかに隠しきれない狂気のようなものを持っている。それが顕著な人がここにいないけど……。
だがそれを彼はしっかりとコントロールしているのが分かる。彼も後ろから対物ライフルで敵を葬っているが、それはこの戦場を整えているからだろう。
私たちの今の力以上の敵は敢えて残しながら、自分の戦績を稼ぎ、私たちの欲を満たさせながら自分の利益をしっかり搔っ攫っていく。
本当に、凄い人だと思う。
そんな彼でもコントロールできないあいつは一体何なんだろうな。
まあ今はそんなこと考える必要なんかないか。あいつはここにいないんだし。でも私の直感ではもう少しでこっちに戻ってきそうな気がする。
「飯さん!このまま前に行くのか!?」
「筑和さんのことか!?大丈夫だろ!」
ちらりと後ろを見れば、レイヴンさんが筑和さんを守りつつ確実にエネミーを倒しているのが見えた。やはり長年樹海のエネミーと戦ってきただけあってその動きはとても無駄がない。
彼はどこから出したのか巨大な太刀を上手く操作し、敵を次々と一刀両断している。だけど元々守るべき人間が相手だからか、エネミーに対しては容赦していないが人間には少しだけ手を緩めている。
それでも振るわれる一撃はただの人間にはかなわないものなんだけどな。
そしてもう一人……いや、もう一匹か。ローズはどこに行ってしまったんだろうな。
彼女はいつの間にか一匹でどこかに行ってしまった。まああの可愛い柴犬が戦えるわけがないからきっと避難したんだろう。彼女が無事なら何でもいい。可愛いは正義だからな。
「戦車は後二台残ってる!おそらくだがあれの射程はレイヴンさんたちのいるところまでは届かないはずだ!だがここまで来た以上筑和さんやQaQaさんの援護はもう貰えない!俺たちが動き続けて翻弄しつつ破壊するぞ!」
「ああ!」
私は目の前の敵を殴り殺してから、横目で自分の今のステータスを確認する。
残存HPは4割を切ってるしOCもまだ回復しきっていない。だけどまだいけるはずだ。この程度の苦難、ここじゃないあのゲームだったら飽きるほど経験してる。
あのゲームは一般プレイヤーたちからは“地獄”と呼ばれるほどにまで苛烈だった。レースゲームのはずなのに、血で血を洗う闘争が絶えずレース中に起こり続ける。
それはきっと制作陣が無駄に凝った演出のせいだろう。なんでプレイヤーを斬ったらしっかりリアルな血飛沫が飛ぶんだよ。痛いって錯覚しちまうじゃねぇか。レースゲーム関係ねぇよ。
って具合に。
おかげでレビューは綺麗に二手に分かれた。親指を上に向けるか下に向けるかのどっちかだ。
だが私とナラナラ、そして霊厶のメンバー全員、それはもう見事にのめり込んだ。
そのせいか、パーティランキング上位をずっとキープし続けた。あのゲームに残ってるのはそれこそ物好きなプレイヤーや隠れプロゲーマーとかばかりなのに。
支持者が熱狂的過ぎてサーバーが残り続けてると言っても過言じゃない。
偶にあるだろ?ハマる人はとことんハマるゲームってやつ。それがまさにそれだったんだ。
だからこそ、私たちはそのゲームで得た“打たれ強さ”と“死ぬ覚悟”がそこらのプレイヤーよりも一線を画している。
だからこういう状況に陥ると焦るどころか─────
「行くぜ行くぜ行くぜええええ!!!」
こんな感じでギアがどんどん上がっていくんだよなぁ……!
ああ、頭に流れる血の速度が速くなっていくのを感じる……もう少しで血管が破裂しちゃいそうだと錯覚するくらい頭が痛い。
だが関係ない!どんどんスピードを上げろ私の体……!
盾を振り回すたびに一人殺し、OCを消費すれば必ず一体以上のエネミーを葬る。
逃げる分なんか関係ない。それは強引にレベルアップして、その報酬で回復すれば問題ない。HPはそのままだけどOCは100%元に戻る。
攻撃する手段が残っているだけで、私たちは─────死ぬことはない。
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