第59話 パーキンソン

「ほ、ほん…と?」

(えっ!)


 ガバッと顔を上げるとテッドが意識を取り戻していた!

「テッド!大丈夫?」


「いででで…大…丈夫って言われると…大丈…夫ではない…」

 言うのに精いっぱいでテッドは頭を上げようとしたが力尽きて枕に頭をポスッと戻す。


「うん…うん…喋れるなら大丈夫だね…医者を呼んでくるよ」

 ニーナが立ち上がろうとすると


「ま、待って…さっきのってホント?」

「さ、さっきのって……あっ……」


 ニーナも思い当たる節があり顔が真っ赤になる。


「幻聴…じゃ…ない?」

「う~ん、どうかなぁ?治って元気になったら教えてあげる」


「え、えぇぇ……」

「だから!頑張って元気になろう!医者呼んでくるね」


 ニーナはドアを開けて廊下に出た。

(よ、よがっだ…)

 鼻の奥がつーんと痛くなって視界がぼやけたので上を向いて涙を我慢した。スンッと鼻をすすり、侍女を探してテッドが意識を取り戻したと伝えた。


  ※


 テッドが外に出られるようになるまで2週間ほどかかった。その間ニーナは陛下のお言葉に甘えてずっと王宮で寝泊りをしながら看病をした。


 その間にも皇后は自分で前皇帝、皇后を殺害した事を自白したため処刑された。王子アレクサンダーは処刑を見届けてから塔に送られた。自分アレクサンダーを愛したが故に起こした罪の贖う姿を王子アレクサンダーはどう見送ったのだろうか…


 テッドが車椅子で動けるようになったのでラウタヴァーラで静養する事にした。王都では心も休まらないだろうと陛下が提案してくれた。


 陛下は皇后が使っていた馬車を貸してくれた。皇后が使う馬車だけに衝撃を少なくするためにクッションが柔らかくて乗り心地がいい。気持ちは複雑だが、ケガに衝撃を受けるのを少しでも減らしたいので陛下の提案に甘えさせていただいた。

 その馬車をシロとクロに引いてもらう事にした。クロは大きすぎてちょっとバランスが悪くなって少し引きづらそうだったけどなるべく衝撃が無いように引いてくれた。


 屋敷に戻ると先に戻っていたアーロンが出迎えてくれた。休み中もダラダラ過ごすことなく、チャーリーの手伝いをしていた。もう一人事務員が増えていた。そう、ブランカだ。ブランカは高等部の生徒会の副会長だったからアーロンも顔くらいは知っているが、ニーナに事情は聞いていたので知らないフリをしてくれている。


 ブランカは今は前世だった時の名前『リサ』と名乗っている。前世は短大を出てOLをしていたという事で事務職のプロである。チャーリーにも物怖じせずに意見を言っているらしく、二人であーだこーだと意見を言い合っているらしい。


「リサさん、お久しぶり!」

「あら!ニーナさん!お久しぶり!」


「ここでの仕事はどう?何か困っている事はない?」

「そぉねぇ、このチャーリーって人がね、ケチなのよ!経費で買って欲しいものがあっても中々買ってくれないの!」


 ニーナに文句を言われたチャーリーは

「な!何言ってるんですか!リサさんがおかしいんですよ!ちょっと利益が上がったからってやれ馬棲バスをもっと立派な物にしろとか無駄遣いばっかりしようとするんですから!」


「えぇ?みんなだってもっと馬棲の乗り心地が良くなったら嬉しいでしょぉ?ねぇアーロン」

 艶っぽく聞かれてアーロンは真っ赤になりながら


「そ、そうですね…」

「ちょ!ちょっとアーロンさん!この悪魔に騙されちゃダメですよ!」

 チャーリーが止める!


「な、誰が悪魔よっ!」

「うん、利益が上がったからってすぐ経費を増やすっていうのはリサさんパーキンソン第二法則にどハマりしているわ!良くない!」

 ニーナがビシッと言う。


「パ、パーキンソン?誰がパーキンソン病よっ!」

「病気じゃないよ」


ぅ?何それ」

「『支出の額は、収入の額に達するまで膨張する』よ。リサさん、貯金できない人だったでしょう?」


「な!何をいうの?突然!」

「給料入ったり上がったりしたらその分消費していたでしょう?ブランド物のバッグを買ったり、スカーフ買ったり…」


「バッグは貢君貢ぐだけの男に買ってもらっていたわよっ!」

「う~ん、でもお金、使っちゃって月末にはいつも苦しかったんじゃなぁい?」

 

「消費が経済を回すのよっ!」


「はい、出たぁ、バブル経験者の常套句!バブルの人たちは老いも若きもみんなすぐお金が手に入るからみんなパーキンソン第二法則にどハマリしていたから分かるけど…」

「な、なによう…」


 図星すぎてリサは悲しくなった。


「うん、収入が増えたからといって贅沢するとね、人間は慣れてしまって戻れなくなってしまうのよ!もうバブリーな時の事は忘れてちょうだい!浪費と消費は違うのよ!WantかNeed欲しいか必要かかで考えたら分かりやすいと思うよ」

「はぁ~い」

 リサが素直に返事すると


「リサさんが素直に認めた!ニーナさん凄い!ニーナさんずっといて!」

 チャーリーが思わず心の声を駄々洩れにした。


「ふふっ、リサさんよりは後輩でもね、その後の人生経験は豊富なのよ。を経験した身ですからね」

 小声でリサさんに耳打ちする。

「もぅっ!今も昔も年下のくせに!」


 リサさんが負け犬の遠吠えをするが、チャーリーやアーロンにとっては、ニーナの方が年下なのは当たり前の事なので何言ってんだ?って顔になる。


~~~~~~~~~~~~

ちなみに…なんですが

バブル期絶頂期

シーナ:高校生

リサ:短大卒のOL 女子大生ブームにのりまくっていた。


シーナ高校卒業して大学生になった途端に女子大生ブームからJKブームに移行し時代に乗れない女なのだった…不憫…

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