第39話 叫ぶ!

 路地から男たちが出て行く手を阻まれた!


「ニーナ!これ持って!逃げろ!」


 荷物を渡され男たちのいる反対側へと促される。ニーナが走り出すと


「女はいい!男だ!を仕留めろ!」

 そんな声が背中の方から聞こえた。


(狙いは私じゃなくてテッド?)


 ニーナは走りを止めた。振り返ってすうっと大きく息を吸う。


※※


「アンタ!気をつけて帰るのよ!何かあったらね『!』じゃなくて『!』って叫ぶのよ。その方が人って出てくるんだから!」

 前世シーナの時にヒロが言ってた教訓だ。


※※


「火~~~事~~~だぁぁぁぁぁっ!!」

 全力で叫ぶ!!


「「「「「火事だって!!!!」」」」

 いろんなところから窓が開いてこちらを見る。たくさんの人が水をもって飛び出してきた。


「チッ!ズラかるぞ!」

 男たちは逃げて行った。


「すみませぇぇん。間違いましたぁぁ」

 謝ると街の人たちは

「なぁんだ。まぁ、無事ならいいんだ。無事なら…」

 そう言ってみんなやれやれと中に戻って行った。

(ヒロ…ありがとう…)


「テッド!大丈夫?」

「あ、あぁ…」


「びっくりしたね…ところで…って誰?」


 ビクッとするテッド。

「人違いじゃないかなぁ…」


(怪しい……)


「思いっきりテッド見ながら言っていたよ?」

「そ、そうだねぇ……とりあえず帰りは危ないから牛車にしよ」


 そういって牛車乗り場へとテッドはニーナを引っ張って行った。牛車にはすぐ乗る事ができ、牛車で揺られタウンハウスへと向かう中…


「聞いても引かない?」

 テッドが真剣な顔をしてこちらを見つめてきた。


「う…うん…」

「本当にほんと?変わらないでいてくれる?」


「か、変わるほどのなの?そりゃ変わるかも」

「えっ!じゃ言わない」


「あぁ、あぁ嘘、嘘。変わらない。変わらない!…と思う…」

「オイ!」


 結局笑い合ってしまった。いやいや、そうじゃない、そうじゃないのよ。今は。きっと真剣な話しなのよ。多分。


「うん、ンンッ!で?」

 咳払いしてテッドの話しをちゃんと聞くことにした。それでテッドは逡巡しながら話し出した。


「俺の本当の名前はエドワード……エドワード・マルクルド…」

「エドワード・マルクルド…マルクルド…マルクルドォ?!」

 

 思わず声が大きくなりテッドに口を押さえられてしまう。ごめんごめん、大丈夫という意味を込めて頷いて手を離してもらう。


「そう…マルクルド…このマルクルド帝国の前帝王の次男」

「前帝王の次男っていう事は…王弟って事でいいですか?」


「まぁ、そうですね…ハイ」

「歳が…」


「そうなんだ。俺は後妻の息子で今の帝王の義理の弟なんだ」

「だから歳が離れているんだね」


「そうだね。とりあえずは義兄が帝王となって息子が二人いるから王位継承権第三位になる」

「……」

(もしかして王位継承権のある人を専属護衛にしちゃってた?)


 ニーナは自分がやらかしてしまっていた事を思い出しサァァァッと血の気が引いた。


「で、義兄の方も長男は皇后の息子なんだけど次男は義兄がちょっとオイタをして外でできた子なんだ」


(はぁ、やっぱり男っていうのはそういう生き物なんじゃないのよ)


「義姉としては長男に確実に帝王になってもらいたいから継承権を持つ人間が邪魔でしょうがないんだろうね」

「皇后は自分の息子に継がせたいからテッドを狙っているの?!」


 コクンと頷くテッド。


(えーと、第一王子のアレクサンダー王子が今17歳、第二王子のアルフレッド王子が同じ歳の15歳って学んだ気がする…テッドが18歳だから、本当に歳が変わらない)


「えぇと?テッドはいつか帝王になりたいとか思ってたりする?」

 横に首を振るテッド…


「じゃじゃじゃじゃじゃぁ!継承権ってやつを放棄しちゃダメなの?」

「うん、それは俺も考えた。でもまだマルクルド帝国が建国されて二代目だよね?まだ落ち着いていないから放棄はダメぇって言われちゃってて…」

 しょぼんとするテッド…


「テッドのお母さんはどうしているの?」

(母親としては大事な息子の命が狙われているなんて許せないよね?)


「俺が8歳の頃、義兄が帝王を継ぐ時に急死した。崩御した帝王の後を追ってって言われているけど噂では毒殺じゃないかって言われてる」

「ッ!」

 

 思わぬ現実に息を飲んだ。8歳なんてまだまだ小さい。そんな中で父親についで母親も突然亡くして、自分もいつ殺されてもおかしくない世界……


(辛かったねぇ…大変だったねぇ…)

 ニーナはテッドの背中をさすらずにはいられなかった。

 おばちゃん能力の一つ『手当て』だ。背中をさするとオキシトシンが分泌されて癒されるのだ。が泣いたり、落ち込んでいる時によくやったのでついやってしまう。(※注意 酔っ払いにやると吐き気を催すのでやめましょう。またある程度信頼感を得てからやらないとセクハラになります)


「大丈夫だよ。一回毒を盛られて死にそうになった時にオニールが『後ろ盾のないままであの家にいるとまた毒をいつ盛られるか分からないから』ってタウンハウスへ引き取ってくれたんだ。

だから実はあのタウンハウスは俺の実家のようなものなんだ…」

 ふにゃっと笑うテッド…

「なるほど。だから慣れた感じがしたんだね」


「で、キルビシュラーガー男爵の名前をもらってエドワードのニックネームのテッドを名前にしたんだ。その後は騎士学校に行って王室からは離れた生活をしていたんだ。

戦場にも行かされけどシルヴィオとも出会えたわけだし、結果オーライだよね」


「んじゃ、先ほどの男どもは…」

「多分、どっかに拉致したかったのか、命を狙いたかったのか…かな」


「第一王子が王太子になったら、もう安全って事なんじゃない?」

「まだ王太子は決まっていないんだ」


「な、なんで?それこそ皇后は王太子にしたいんじゃないの?」

「肝心の帝王がそれを許さないんだ」


「へぇ…こちらも楽になるんだから、さっさと決めてくれたらいいのにね」

「商店を継ぐのとは違って帝王だからね…慎重に見極めたいんじゃないかな」


(商店でも『三世代の法則』で潰れてしまいがちだもんなぁ…現帝王もそりゃ慎重にもなるか)


「ふ~~ん、じゃ第二王子も命を狙われていたりするんじゃないの?」

「今第二王子はバラークに留学しているからね。ある意味マルクルド帝国にいるより安全なのかもしれない。何かあったら国際問題に発展するからね」


「確かに…」


(テッドは王弟で第三王位継承者、第一王子を王太子にしたくて皇后から狙われているの…か…)


 考え込んでいるニーナの手をギュッとテッドは握って

「変わらないでよ?」


 懇願するようにニーナを見つめた。整った双眸が軽く潤んできゅるるんっとなっており、あまりの眩しさに思わずニーナは反対側の手でテッドの顔をグイッと押しのけた。テッドは片方の顔が掌で押されて歪んでしまった。


「な、なんで…」

「はっ、思わず…ごめん」


(変わらないな…)

 テッドはニーナが変わらない事を再認識してふふっと嬉しくなってしまい握る手に力を込める。


 手は離されないまま牛車はタウンハウスへと歩みを続けていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~

 たたかう

 にげる

 ぼうぎょ

 どうぐ


正解は

『さけぶ』でした。


選択肢にねぇじゃねぇか!

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