第17話 Xの正体!見破ったり!

「フッ、フハハッ!フハハハハハハハハハハッ!」


 ニーナの帽子を右手に持ち、左手はニーナの腕を持ったままテッドが笑い出した。


(きょ、きょわい怖い


「ほ、本当に助けてくれたのに投げちゃってごめんなさい!」


 潔く頭を下げる。


「フグッ!フグッククククククッ!ねぇ、ミスターX、君の名前を聞いてもいいかな?」

「ニーナです……」


「僕より若く見えるけど…何歳なのかな?」

「15歳です……」


「15歳!15歳でコグチだの、コンパクトシティだのって考えたの?」


(前世の近代日本ですぅ!とは…言えなぁい)

「ナオミに聞いたり、本で読んだり?でも小娘の意見なんて誰も付いてきてくれないから……」


 まっすぐと見つめて質問するテッドの美貌に慣れていないというのもあり目を泳がせながら必死に答える。


「ふーーーーーん」


 納得したのかしなかったのか……腕は掴まれたままだから逃げる事もできず、ますます小さくなるニーナ。


「シルヴィオは知ってたの?」


 テッドは今度はシルヴィオを見つめる。ニーナを見つめる目とは違う、少し怒ったような恨めしいような声色だった。


「ふっ、そうだな」


 シルヴィオは顎を手で撫でるような仕草をしながら悠々と答えた。


「他には誰が知っているの?」


 熱を帯びたような目でニーナを見つめて聞いて来た。


(いや、だから顔が近いって!っていうか美しすぎて眩しいって)


 まだ腕を離さないため逃げれない。顔だけはなんとか斜め下に逃げれてホッとする。


「屋敷のみんなと、護衛のトムです」


 ニーナはまるで犬が飼い主に叱られた時のようにシュンと項垂れて答える。


「護衛のトム…、あぁ、さっきの。トムは今どこにいるの?」

「トムは……婚約者からの手紙が来ているかもしれないと事務室へ…」

「ふーーーーん」


 ニヤッと笑うお顔も美しいです。ハイ。


「トムはなんで護衛に選ばれたの?」

「馬に一番に乗れるようになって私に付いてこられるからです!」

「ほぉ……なるほど、分かった……」


 何がどう納得したのか分からないけど、納得したようでやっと腕を離してくれてニーナはホッとした。


「はい、帽子。いきなり外しちゃってごめんね」


 ニコッと笑う顔に幼さが見えてドキッとする。


(可愛さもあるなんて卑怯だろ!あざと男子か?!こわっ!こわこわこわ!)


「はっ!こちらこそ、投げてしまって本当にごめんなさい!!」

「う、うん……それは…もう忘れてもらっていいかな」


 さすがに15歳の女の子に投げられたという事実は嬉しくないのかテッドの笑顔が苦々しい笑顔へと変わったので忘れる事にする。


 そう!一番の目的!忘れてた!シルヴィオの方を見る!


「とりあえず!完成したのよね?見せて!見せて!」


 今まであった隣国との関所でもある砦の入り口前に大きく四角い石垣が完成していた。


 隣国側の一辺は2階くらいの高さの石垣の上にも塀が立っている。ところどころ穴が空いている。人が通るためのスペースにはやぐらがあり門となっている。今度からその門が関所となるらしい。


 そこから今までの関所の入り口までは2階くらいの高さの石垣に囲まれた行き止まりが一か所の簡単な迷路のようになっている。


 石垣の上には砦の3階の窓から行けるようになっている。日本の城の虎口を作ってもらったのだ。日本の城は最終的に籠城するのでどれだけ城を攻めにくくするかに重きを置いて設計されているから大好きなのよね。


(城を訪れる時には足軽になった気持ちで虎口を歩くのが面白いのよね。ヒロはハァハァ文句言いながらも付いてきてくれてたなぁ)


 久しぶりに前世の連れのオネエ、ヒロとの珍道中を思い出して懐かしくなってしまう。


 この虎口の増設が私の秘策だったのだ!何よりも費用は帝国持ち。国防だもの。


「うん!いいね!素敵!バッチリ!」

「この砦っていうか迷路?みたいなので何が変わるの?」


 テッドが不思議そうに質問してくる。


「テッドさんは歩いてみた?」

「テッドでいいよ。不思議だったんでここに着いたらすぐ見させてもらったよ」


「どう思った?」

「行き止まりがあったり、ぐるぐると回らされてささやかだけど上り坂だったり下り坂だったり行商(キャラバン)が通るの大変だよな……って」


 ニーナが困った目でシルヴィオを見つめる。


「こいつは、まだまだなんですよ。ワッハッハ!」


 バンバンとシルヴィオがテッドの背中を叩く。叩かれたテッドは少しムッとしている。


行商キャラバンの方たちには確かに申し訳ないと思うわね……でもまだアヴェリンとは流通はしていないから行商キャラバンが通る事は無いしね……まぁ、この砦が活躍しない事を祈るばかりよね。」


(貴族のご子息には敵が襲ってくる状況なんて想像もつかないわよね)


 ため息をひとつついてから


「シルヴィオ、これで見張りの人数減らせるわよね?約束の…刈取り手伝いお願いします!」


 シルヴィオに頭を下げる。

 


          ※



 実は…襲撃されてやっと片付けが終わったくらいの時に砦に行った。


「シルヴィオ、アヴェリン隣国が攻めてくるときって収穫が終わったくらいの時期が一番多いじゃない?」

「そうですね。農民も戦力ですから。収穫が終わってひと段落したぐらいが一番侵攻が起こりやすいですかね。」


 団長のシルヴィオがいぶし銀な端正なお顔をキリッとして話すもんだから、こちらとしては眼福。眼福。っていかん。集中せねば!


「そうよね。戦力である農民が収穫をいかに早くできるかっていうのも大事よね?」

「そうですね」


「だから是非!騎士団のみんなに収穫を手伝って欲しいの!」

「数人だったらいいですが、多くは無理です。騎士団は有事の際にすぐ対応できないといけないわけですから」


(そんな簡単にはいかないかぁ)


「じゃぁ、見張りも少人数で済んで、有事の際には若くない、力も弱い私たちでも闘えるっていう秘策があるって言ったら?」


 ニヤッと笑う私にシルヴィオはひくついた笑みを見せてくれる。うん、それでもいい顔だった。こうしてニーナはシルヴィオに収穫の手伝いもちゃっかり頼んでいたのだ。

「分かった。分かった。有事の際は無理だけどできる限り手伝ってやるよ」


 大きなゴツイ手でニーナの頭をポンポンしてくれる。


(うふふっ。こういう所が好き!)


         ※


 そして現在


「そうそうシルヴィオ!王都から負傷兵の方々に声をかけてくれてありがとう!」


 ニコッと笑うシルヴィオ。


「まぁ、まだ給金はまともに払えなくって申し訳ないのだけど…」


 申し訳なさそうに言うと


「あいつらも王都じゃ負傷兵って腫れ物扱いだからな……まだまだ働けて国のために戦える事もあるっていうのは給金よりも価値がある……むしろヤツらの居場所を作ってくれてありがとう」


 渋いシルヴィオに笑って感謝を言われるなんてもう眼福すぎて嬉しすぎる!

 ハンターハットのネットの中でニマニマしているのだが、ニーナをテッドが訝し気に見てくる。見えてないよね?でもニマニマが止まらない!!


(テッドも鍛えまくってこういういぶし銀の男、いやおとこに育ってくれたまえよ!オバチャン応援しているよ)


暖かい目で見つめ返してあげたのであった。まぁ、見えてないと思うけど。



 翌朝、屋敷を出ると金色の髪のイケメンのテッドがにっこりとほほ笑んで立っていた。

朝日を浴び光を放っているようで眩しい!


「今日からニーナ様の専属護衛に任命されました!」


(ま、眩しいのよ。朝日より眩しい!

目がぁ!目がぁ!

神様!ここに太陽よりも眩しい男がいます!サングラスくださ~い!)


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