第11話 こぉのぉ!バカチンがぁ!
叫びながらクロから飛び降りてしゃがみこんでベン爺さんに駆け寄って上向きに変えて抱きしめる!
「やだ!やだ!やだ!やだ!ベン爺さん!死んじゃイヤだぁぁぁっ!」
頬に涙が落ちるのを気にせずベン爺さんをぎゅうぎゅう抱きしめた。
「く、ぐるじぃ…」
思わず離す。膝の上に落ちるベン爺さん
「いでっ」
「生きてるぅぅぅ」
一気に喜びの涙に変わる。
「ケガは?」
背中を見たら服は切れてちょっとだけ背中が切れているくらいだった。どうやら斬られる寸前にベン爺さんはコケた模様。
「もぉぉぉっ!心配したんだから!」
そこでやっと自分のおかれている状況に気が付いた。私の後ろにはクロがおり周りを威嚇して守ってくれていたようだ。どうやらベン爺さんを切った兵士が先陣でもう後の兵士達は全て鎮圧されていた。さすがマルクルド帝国の騎士!
砦の方ではシルヴィオが周りに指示を出しているのが見える。忙しそうなので砦が落ち着いたらまた伺うとして、デニス達の事も気になるから城に戻った。
デニスと捕まった輩たちは派出所の横にある牢に入っていた。デニスは一人牢の奥で壁に寄りかかり項垂れて座り込んでいた。もう気力という気力が全て抜けてしまっているようだ。話しを聞きたい旨を牢番を伝えると危ないという事で騎士団のトムも護衛として一緒に檻の柵越しでとなった。
「ねぇ、なんで?」
「はぁ、『なんで?』なんでなんて俺が聞きたいですよ」
もう立ち上がる気力もないようだ。面倒くさそうに頭だけをグワッと持ち上げた。
「知ってます?俺はオニール様の右腕って言われてたんですよ……
そんな俺がこんな辺鄙な貧乏な領土に行かされたんだ!おかしいだろ!本当だったら俺は帝国を動かしていたんだよ!それだけの男なんだよ!ちったぁ美味しい思いをしたっていいだろ?」
怒りが沸きあがってきたのか立ち上がって檻を両手で掴んで外す勢いで揺らす。
「こぉのぉ!バカチンがぁぁっ!」
ニーナは思わずロン毛の黒髪なのに金髪みたいな名前の先生が怒鳴るように言ってしまった。貴族子女にはありえない言動、大声に驚いて固まるデニス。多分、人生で怒鳴られた事もないのかもしれない。
「うん。右腕って言われるほど信頼していたからこそ任せてくれたんじゃないの?
この辺鄙な領土でも盛り上げたら王都での出世の道もあったんじゃないの?」
ニーナの一言に思いあたる節があったのか檻から手を離して脱力してその場にへたり込む。ブツブツと小声で「あの時……」と呟いているがこちらに聞かせるというよりは自分の分岐点を振り返っており魂が抜けてしまったような状態なのでこれ以上の会話は諦めた方がいいようだ。
賭場の人間は少し大きめの牢の中でまとめて入れられていた。
「ねぇ?なんで”今日”だったの?」
そうずっと気になっていた。”隣国アヴェリンが襲撃してきた今日”という日だったのか。たまたまなのか偶然だったのか。
「はっ!なんで?この混乱に乗じてトンズラしようとしたからに決まってるだろ」
少し嗤うように若い男が答えた。
「デニスも一緒に逃げる予定だったみたいだけど……なんで?」
「最初は儲けたアイツは調子に乗って、あっという間にスッカラカンよ!
借金まみれにしてやったぜぇ
イカサマとも気付かずによぉ
話を聞いたら、ここに来る前は宰相の右腕だったって言うじゃないか!
アヴェリンがあの男に高値を付けてくれたんだよぉ!
ヒャ~ハッハッ!」
男は下卑た笑いが止まらない。その男の後ろでチッと舌打ちをする中年の男。多分この男がこのグループのトップ格なんだろう。
「なるほど……あなたたちはアヴェリンに情報を売っていたと……だから襲撃の騒動に紛れて逃げようとしていた……と」
クルッと護衛のトムの方に向きなおし
「今の発言はちゃんと上に伝わるようにしておいて!そして情報を売った罪でこの人たちはアヴェリンではなく王都の牢屋に入ってもらうわ!」
「ハッ」
トムは手を胸にあて頭を下げた。ニーナが牢に背を向け歩き出すと牢の中から「バカヤロウ」という怒声と人を殴るような音が聞こえてきたがもう私には関係の無い話なので無視して立ち去った。
ニーナは執務室へ行き執事のセバスチャンと共に賭場から運び出そうとしていた金品などを全て広げる。
もちろん彼らに返すつもりもないし、他に巻き上げられたであろうカモな方たちに返す気もない。全て押収させていただく。
デニスが横領した分をどれだけ回収できるか。頭の中はそれだけでいっぱいである。
お陰様でデニスが横領した分のお金を9割がた押収する事ができ胸を撫でおろしたのだが、元々潤っているという領地ではないだけに全部取り戻したとして苦しい。
これからの領地経営を誰に任せるかをまたお父様に連絡を取って王都から誰かを派遣してもらわねばならないが今度は慎重に選んでいただきたいと切に願うしかないのであった。
〈収益〉-〈支出〉=利益
収益が多ければそりゃ何も言う事はないのだけれど収益が見込めないのならまずは支出をどれだけ減らせるか。
支出を削ったら今度は収益を上げればいいという単純な話しなのだが、どうしたらこの領地は利益を得る事ができるのか。考えていても知恵は湧かない。
(ちょっと領地内を見て考えた方がいいかも)
牛舎の方を見る。牧草を食べている牛と目が合う。ん?と一瞬目が合うも牛は気にせず草を食んでいる。
「牛車かぁ。時間かかるよなぁ」
ふと口からもらすと
ドス!ドス!ドス!ドス!
クロが手綱を咥えて走ってきた。
「え?いいの?乗せてくれるの?」
当たり前だろっ!!と言わんばかりにクロがブスンと鼻から息を出した。
実はクロが我が家に来てからすぐ鍛冶屋のジムにクロのサイズの鞍を頼んであったのだ。馬に跨ぐのならといつもの運動着に着替えツバの広い帽子もしっかり装着!クロの背が高いため、優しいクロは膝を折ってしゃがんでくれ鞍を載せ自分も乗る。クロが立ち上がる。グオッと視界が上昇する。
やっぱりクロは高い!なんていうかトラックとか高い車に乗った時のなんとも言えない優越感に似ている。勝手にえらくなった気になるから不思議なもんだ。
クロは騎士からも信頼が厚いのとクロにはついてこられないため護衛の騎士は遠慮した。
商店が並ぶ町を通り抜けたらそこは畑に、牧場にと点々としていた。
家も点々とあるのだが、以前に隣国が侵略してきた際に焼かれたのか焼き捨てられた家や、放置された家と雑草が生えてもう畑という仕事をなしていない土地もところどころあった。
(空き家はそのままにしておくのも変なのが住み着いたりするからあまり良くないよね)
まだ片付けなどに追われている砦の方はやめて思い切って地図を広げて海の方も行ってみた。
「わぁ!綺麗!」
水も碧い!底が見える!透明度が高い!ただ、フィヨルドのように海岸は全て3mくらいの崖のようになっている。海水浴するには上り下りが大変だし、船をつけるには岩が多すぎて着岸するのが難しそう。
だからアヴェリンは陸路で攻めてくるというのが納得できた。
地平線も心躍るけどやっぱり水平線っていいよね。地球(?)が丸いって実感するし何よりも自分がちっぽけな存在でそんなちっぽけな自分が抱えている悩みなんて本当に小さな小さな些細な事だって思わせてくれるよね。
クロの思うように進ませていたら海の向こう側に小さな島が見えた。島は山のようになっていて海辺は崖のようになっているから船をつけるのは難しそう。
するとクロが横向きで器用に崖を降りていく。
「えっ!どうしたの!クロ!」
しがみつくので精一杯!
ザバッ!ザバッ!
クロが海に入っていく
「えっ!待て待て待て待て!」
いつもだったら後のニーナの方に向いてくれる耳も前の方を向いておりニーナの声はまったく聞きませんよぉという意思を表している。
ドプンッ!
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!クロと入水自殺ですぅ!!!
オワタ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
腐ったミカンはいない!
金◯先生!
読んでいただきありがとうございます。
今日は18時にももう1話更新!に挑戦いたします。お時間ございましたらよろしくお願いします。
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