第10話 スッたもんだがありまして
うららかな午後。淑女教育でお茶をいただいていた。お茶を飲むのにもいちいちマナーがあって本当に貴族というのは面倒くさい。でもお茶は美味しい。
「ニーナ様!大変です!」
ミラが飛び込んできた。
ブッ!
思わず紅茶を吹いてしまった。
「今すぐ!今すぐ執務室へお願いいたします!」
「分かったわ!」
ガチャッ!ガタンと音を思いっきり立てた上に走って部屋を出でいった私に
部屋に残された教師のバーバラの怒鳴る声が聞こえるが、今はそれどころじゃない。
「何事?」
執務室に飛び込んだ!
執務室では紙きれを片手に持ち立ちすくむセバスチャン。影が薄くなってそのまま消えていきそうな生気の無さだ。紙切れを奪う。
『申し訳ございません。探さないでください。デニス』
(はっ?)
顔を上げて執務室を見てみると開いたままの金庫。
(えっ?)
中を覗くまでもなくカラッとしている。
「探すわ!バカ!」
執務室を飛び出し屋敷を飛び出した!左右を見るとデニスがバックを抱えて屋敷の外の遠く走り去っているのが見える。
「誰か!捕まえて!」
私も駆けだす。入口を守っている騎士も走り出す。
ドコッドコッドコッドコッ!
後ろからクロが走ってきたかと思ったら私の股にズボッと頭を突っ込んできた!声を上げる間も無くそのまま持ち上げられ後ろにぽいっと投げられた。
ガツッ!
(ぐぉっ!恥骨打った!)
前かがみになると目の前にクロの黒く艶々のタテガミ。クロの背を跨ぐ形になっていた。
走るクロに必死にしがみつく!
乗馬は市民乗馬教室で学んだ事はあるけど駈歩(かけあし)までで襲歩(しゅうほ)なんて未経験!しかも鞍なしの裸馬に乗った事なんて無い!
(ぎょぇぇえぇぇっっ!)
頭の中は悲鳴でいっぱい!
でもさすがはクロ!あっという間にデニスに追いつく。
(追いついた!えっ、でもどうする?)
ドォンッ!
デニスに体側で体当たりするクロ!その勢いに落ちるニーナ!
そのままニーナはデニスの上にドォンと落馬した。
(デニスがいてくれて助かった。いやいやいや、違う違う)
すぐデニスの胸倉を掴む!
「どういう事?何があった?金は?」
顔を背けて憮然とした顔をして答えないデニス
「どーこーなーのぉ!」
思いっきり首を前後に揺らす。
「スッた…」
「は?聞こえない!スッた?スッたって何?ギャンブル?」
デニスは憮然な態度のまま首を斜めにしながらも瞼を閉じて少し首を上下に振って肯定を表した。
「は?元締めはどこ?場所は?」
グッと顔を近づける。ボソボソッと話すデニス。ちょうど、騎士が追いついた。
「捕まえておいて!町外れの寂びれた倉庫!あそこに応援をよこして!クロ!もう一度乗せてちょうだい!」
デニスをぶいよっと騎士の方へ放るり、クロの首に抱き着く。クロはフンッと息を吐くと身体のある方の前足を90度に上げてくれた。それに足をかけると黒王号も首を上げて補助してくれ跨る事ができた。
クロのタテガミを手綱のように持たせてもらう。先ほどよりは安定して乗れている。倉庫に到着すると元締めと思われる集団が慌てて荷台にいろいろと詰め込んで牛に引っ張らせて逃げ出すところであった。
「牛ごときで逃げれると思うなぁぁぁ!」
クロの足が荷台の後ろを踏みつける!テコの原理で牛が持ち上がった!足を離して落とされた衝撃で荷物も落ちるが縛り方が甘かったのか…牛を繋いでいた綱も外れ牛が慄いて逃げ出す。
人間も蜘蛛の巣を散すかのごとく逃げ出すがクロが一人ずつハンコを押すように背中を一押し!
ぐはっと倒れていく男たち。騎士たちが到着した頃には全員が満身創痍で動けない状態になっていた。騎士達が一人ずつ言葉の通りお縄に掛けていく。それをクロがひとりずつ猫の親のように首根っこを咥えてヒョイヒョイと荷物の上に載せていく。
カンカンカンカンカン!!!カンカンカンカン!
町にある物見塔の鐘がけたたましく鳴り響いた。
(な、何?)
辺りを見回すと砦のある国境の方面に煙が上がっているのが見えた。
「襲撃だ!トム!コリーはこのままこいつらを牢まで連行!
ガス!パーシーは町民の避難誘導!残りは国境へ向かう!」
騎士達が素晴らしい連携ですぐ行動へと移る。
「お嬢!お嬢も避難!」
言われた時にはもうすでにニーナはクロにまたがり国境方面へと走っていた。
走りながら思い出すのは一人の老人。
2日前に牛車でクロの国境方面にクロの散歩に出かけた際に駐屯地手前で畑仕事をしている一人の老人がいた。
(第一…じゃないけど村人発見!)
牛車を止めてその老人に話しかけた。
「一人で収穫?手伝いましょうか?」
「はっ!女子供に手伝ってもらうほど老いぼれちゃいねぇや」
「おい!」
護衛に来てくれた騎士のトムが咎めるが手を挙げて制する。
「まぁ、そうかもしれないけど女子供でも猫の手くらいの労力にはなるんじゃないかな?
それになんと!今なら現役マルクルド騎士のお手伝いもオマケについてくる!」
「えっ!」
驚いたのはトムだった。
「ふっ。そりゃぁいいや。じゃ頼まぁ!」
ニカッと笑った老人はベンというらしい。家族はいないのかと聞いてみたら
「もう、ここは何度か襲撃にあっちまってるからよぉ。そうなると作物はあっという間にダメになる。
その年の納税もいっぱいいっぱいでよ。あまりの貧乏っぷりによ。み~んな嫌気がさしちまったんだなぁ。
隣の婆さんも同じようなもんでよ。まぁ、そこんちの坊主はまだ甲斐性があったからよ。
爺さんが死んじまって一人になった婆さんを迎えに来てくれたんだわ」
(あぁ、だから周りの農地は雑草だらけだったのか。休耕地なんだね)
私達が手伝っているのが砦からも見えたのかシルヴィオも来てくれて手の空いている騎士達に手伝わせてくれた。
しゃがんだ作業なんて普段はさすがの騎士達もしないので終わった時にはみんなヘロヘロになった。クロは収穫の終わったエリアでベン爺さんの犬と戯れて楽しそうだ。疲れたけど、なんだかすごい充実した時間っだった。
「ベン爺さんは息子さんのところには行かないの?」
「あぁ?!息子は息子でてぇへん(大変)だからよぉ!まだオレは働けるうちは婆さんとの思い出もあるからよ、ここにいたいのよ」
カッカッカッとベン爺さんは無邪気に笑ったその顔が脳裏から離れない。
(ベン爺さん!無事でいて)
国境近くになってくるとどんどん煙は黒色で嫌な臭いも立ち込めていた。どうやら砦を突破されたらしくいろんな所で剣を交える音が聞こえてくる。
誰かが火のついたベン爺さんの家から飛び出してきた。ベン爺さんだ。
「ベンじいさぁぁん!!!」
声に気づいたベン爺さんがこちらに向かって走る。隣国アヴェリンの兵士がベン爺さんのすぐ後ろにいる!
あっと発する暇も無いくらいに剣が振りかざされシャッと斜めにベン爺さんの背中を捉えた。その後ろからマルクルドの騎士がその兵士を切り裂いた。
ベシャッ!
前に倒れるベン爺さん。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
スッとたもんだがありましたヾ(*'∀`*)ノ
宮◯りえちゃんのCMでした♪
宮沢◯えさんのCMですな♪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます