第9話 嵐の前の静けさ…
いつも冷静沈着なセバスチャンがこんなに慌てているのは珍しい。手には手紙。
「アーロン様!お母様が!」
顔面蒼白になるアーロン
ニーナが手紙をセバスチャンから奪い取る。
アーロンの父はもう亡くなっているって言ってたよね?って事は一人なんだよね?
「命はとりとめたけどまだまだ安心できる状態じゃないって」
力なく椅子に座るアーロン
「家まで2日はかかるのよね?早くアーロン行かなくちゃ!」
泣きそうな目をして首を横に振るアーロン
「な!なんでよ!」
「だって、お母さまが『もう辺境伯の息子になるからにはお母さまの事は忘れなさいって二度と会ってはならない。私も忘れるから』って!!」
「ばかちんがぁ!」
ニーナがアーロンの頬をぶった!
「親にもぶたれた事ないのに!」
アーロンは殴られた頬を手で押さえる。
「殴って何が悪い!
母親がお腹痛めて産んだアンタの事を忘れられるもんか!」
シーナの娘の凛を思い出し、胸が苦しくなり喉がクンッとなる。頬を抑え涙がぽろぽろが溢れ出すアーロン。
「いい、お母さまの病状が落ち着くまで近くにいなきゃダメ。
どこにいたってアーロンはもう我が家の子なの。それは変わらないから…ね?」
椅子から飛び降り抱き着いてくるアーロンの背中をトントンして落ち着かせる。
ニーナもシーナの娘の思い出と亡くなってしまったニーナの母親の思い出が蘇り、涙が止まらない。
アーロンを乗せた牛車を見送る。一人いなくなっただけでとても屋敷がガラーンとした感覚に陥った。
しっかりとアーロンが家族になっているという事が身に染みた。
アーロンの家庭教師の日だったので家庭教師がやってきた。
アーロン不在を聞き、これからどうするかをセバスチャンと話していたので
「ねぇ、せっかく来てくれているのだしいきなり長期休暇となっても困るわよね?私がアーロンの代わりに勉強を見てもらってもいいかしら?社交界でも情勢の知識って使えると思わない?」
ニッコリと提案してみた。
だってこの世界の貴族女性勉強という勉強は12歳まで。中等部では淑女教育が中心でほとんど勉強という勉強はない。だから男女別となる。
15歳で卒業して社交界デビューして成人となる。そこからはお茶会だの舞踏会だので伴侶を見つけて結婚。家庭を持つ。
ほんと働き詰めだったシングルマザーのシーナからすりゃ優雅なお世界で羨ましい限りではあるのだけれど、もうちょっとこの世界の事学びたいし、知りたい!っていうのが本音。
それからは淑女教育も受けながら勉強もする。本当に忙しい日々ではあった。
とはいえ淑女教育っていったって家庭科のマナー教室みたいなもので頭をすごく使ったりするような事も無いからちゃんと先生の言う事を聞いていたらある程度できた。刺繍以外はね。
勉強に関してはニーナがサボっていたのか記憶にほとんど残っておらず(オイッ)
この世界の事がまったくと言っていいほど知らないに等しいため新しい知識が面白くてしょうがない。
このラウタヴァーラがあるリードホルム帝国はシーナの世界のメキシコのような形をしておりラウタヴァーラは先端の領土である。
隣国のアヴェリン国との接地しているのはこのラウタヴァーラのみ。
そのため隣国との戦場はいつもラウタヴァーラとなる。
正に最前線。肝心要の場所だからこその辺境伯。
そのためいつでも隣国マウルードからの侵攻があった際にすぐ応対できるように帝国騎士団が常駐しているというわけだ。納得。
まぁ、最前線に好んでくる騎士は少ないため騎士は平民が多い。
貴族の騎士は帝国の王都で王族を守るエリート近衛兵になるのだそう。
大体家を継ぐ必要のない次男坊、三男坊の貴族が騎士になることが通例なんだそうな。
シルヴィオも貴族の血筋ではあるが、貴族のくだらないマウンティングの取り合いの近衛兵には馴染めず、様々な戦地で活躍を重ねラウタヴァーラ騎士団長となったらしい。実力のエリートである。やっぱり格好いい。
シルヴィオの情報は家庭教師からではなく一緒に走っている騎士からの情報なんだけどね。
数学では本当に申し訳ないけれどシーナの記憶によりこちらでは天才!とまではいけないけれど帝国立学園のトップになれるのではくらいの力はあるらしく家庭教師が絶賛してくれた。
「お嬢様素晴らしい!この学力だったら高等部へ進学できますよ!」
「えへへ~」
人差し指の背を鼻の下に擦りながらニーナがドヤ顔をする。
「数学だけですけどね」
ガクッ。そう数学限定!なんだよね。
そして数学以外がね、残念だったのよ。だって知らないんだもん。
「進学なさって女官にもなれるかもしれないですけどねぇ。ご身分がご身分なんでお父様が許さないと思いますけどね」
そう女官になるのは大体は男爵か子爵令嬢くらいなもので辺境伯というだけあって伯爵位の子女は女官は目指さないものらしい。
進学したとしても女性が少ない環境の中で学ぶという事は大変らしい。まだ婚約者のいない上位貴族に求婚されたら断れないという事で結局女官への道を諦めて結婚するしかなかったり。中々女官への道は狭いらしい。
もしかしたら親も位が低いと社交界で探すよりも高等部の方がご縁が見つかりやすいと思って勉強をさせているのかもしれない。
まぁ『くうねるあそぶ』を目指す私には関係の無い話しですけどね。
アーロンとは手紙のやり取りをしている。お母さんは少し落ち着いたけど安静が続き、すぐにどうこうできる状態ではないとの事。 お母さんはすぐ帰れと言ってくるらしいけど留まる事に決めた事。そのため父から近くに住む家庭教師を派遣してもらったとのこと。
ゆっくりとお母さんの看病をしてくれる事を願う。
その時はこれが嵐の前の静けさとは思わなかった。
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「親にもぶたれた事ないのに!」
「殴って何が悪い!」
こっちに持ってきました( *´艸`)
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