第8話 一列になって進む…といえば?
朝の鍛練の時間が私のランニングタイムなので一人になってしまった。
私も体力もついてきたので屋敷の内周では物足りなくなってきたので外を走ろうと出ようとしたら門番に止められてしまった。
「一人での外出は困ります!」
(えぇ?ダメなの?)
一応は領主の娘。しょうがないという事で当番で派出所に派遣されている騎士団の騎士が一人護衛として一緒に走る。
「朝の鍛練の時間にごめんね?」
「いや、むしろ夜勤明けの鍛練はキツイんでランニングで済んで助かります」
当番制なので毎回謝罪するのだが、皆がこの返答なのでそういう事なんだと甘えることにした。
「男性と走るなんて!」
アーロンが心配したが、結局はクロも後ろについてくる。
「お嬢!おはよぉ!」
物珍しさで町の子供たちもついてくる。そうクロの事件からは私は『お嬢』と呼ばれるようになった。
みんなが焦って『お嬢様』から『お嬢さん』、そして最終的に『お嬢』となってしまっただけなのだが私も『お嬢様』という柄でもないし、咎めなかったら瞬く間に広まってしまった。
家で働く分別のある人間はちゃんと『お嬢様』と呼んでくれる。騎士達は団長であるシルヴィオが『お嬢』と呼んでいるため気を抜くと『お嬢』になっている事もある。
ニーナ、子供たち、騎士,クロと連なって走る姿はまるで月曜日の仕事を思い出させ憂鬱な気分にさせる症候群まで起こした日曜日の夕方の定番アニメのエンディングのような図になり色気も何もあったものではない。
たまに子供が興味で馬の後ろをちょろちょろしてしまう。蹴とばされる恐れもあるためヒヤヒヤしたのだが意外にもクロが子供を蹴る事は無い。近すぎる子供には尻尾でパチーンとはたいて離れさせるため自然と距離が開く。さすがクロだ。
一応は申し訳なさ程度に首をロープで縛って犬の散歩のようになってはいるが、そろそろ手綱を付けれるように口輪とか鞍をクロのサイズに特注した方がいいかもしれない。乗せててくれるかは分からないけど。
走り終わると子供たちは畑で取れた人参を分けてくれたりする。クロは何気にこの人参狙いで走りに付き合ってくれるのではないかという疑惑あり。
大人たちはあまりのクロの大きさに最初は恐れていたが、最近になると近寄りはしないけれど、子供を介して小さい人参をくれるようになった。小さくても人参は人参。クロは喜んで食べた。
それが終わると子供たちは各々仕事へと向かう。
どうやらこの世界では勉強は貴族やお金持ちの子供が家庭教師を雇ってする事で平民の子供は大体親の仕事の手伝いをして過ごし、大きくなったら働きに出る。
つまり学ぶ機会がない。
(若い脳みそが柔らかいうちがいろいろと吸収する時なのにもったいない!)
走る時間を短めにして残りの空いた時間に字や計算を教える事にした。
ノートも鉛筆も無い。地面に棒きれを使って書く!それさえも遊びのように楽しんでくれる子供たち。
(そういえば娘とも地面にチョークで落書きして遊んだなぁ)
懐かしく感じた。でもここでは地面はアスファルトではなく土なのだが。
「もっと!もっと!」
「だめだよ!もう仕事に行く時間だよ」
「えぇ~やだやだ!もっと勉強したい!」
『勉強したい』だなんてシーナの娘からさえ聞いた事の無いせりふにニーナは感動した。
「よし!分かったわ!明日から走るのをやめて勉強にしましょ」
「わーい!」
「ブヒヒヒヒンッ」
子供たちは大喜びだがクロは不満そうだった。
「わかった。じゃクロ!夕方に走りましょ」
「ブルルルルン」
クロが納得してくれたようでホッとする。
翌朝からは朝のランニングタイムは子供たちに勉強を教える時間となった。その代わりの夕方のランニングにはクロだけでなくアーロンも勉強を急いで終えてついてきてくれた。
アーロンは疲れているはずなのにすごくニコニコしていてちょっと引く。勉強のしすぎなのかアーロンの脳みそが心配。
それからは朝が勉強の時間でみんなで地面に文字を書いていると
「ボクも教えて欲しい!自分の名前くらいは自分で書きたいし、
計算が分からなくて騙されたくない」
どこからか一人の子が加わった。なんと子供相手に計算で騙してお釣りを多くとっていく大人がいるんだそうな。そんな情けない大人がいるという事が申し訳なく思えた。
もちろん大歓迎!一緒に教えた。するとまたその子が友達を連れてきてどんどん口コミで人が増えてきた。さすがに一人一人に割り上げられる地面が小さくなってきた。
それでも学びたいと朝早くに子供たちが殺到した。 嬉しいが困り果てているとセバスチャンが私を屋敷に隣接している教会に連れて行ってくれた。
「王都にいらっしゃるお父上のオニール様にお嬢様が子供たちに勉強を教えているという事を手紙でお伝えしたところ、オニール様が司祭様にお願いしてくださり、ここを教室にしてくださる事になりました。」
司祭様もにっこりとほほ笑んでくれる。
「お父様に話してくれたの?セバスチャン!ありがとう!これで雨が降っても勉強を教える事ができるわ!
あ!でも地面が無いからどうやって文字を教えようかしら」
「これを」
たくさんの小さな黒板を出すセバスチャン
「オニール様からでございます。『知識という領民の財産を高めてくれている事に感謝する』と手紙に書いてありましたよ」
本当にありがたい!さすが文官として成り上がっただけあるわ。
「お父様にすぐ感謝の手紙を書かなくちゃ!司祭様もありがとうございます!」
二人に頭を下げて急いで部屋に戻って手紙をしたためた。
(やるじゃん!親父!)
こうして教室ができた。毎朝ステンドグラスの光の下で勉強を教える。とてもおごそかな雰囲気。上座で私達を見下ろしているのは頭は獣で身体は人間。角の形からして…
シカでした。
うん、ところ変われば宗教もそりゃ違うよね。人間とは限らないよね。よく分からんけど。
毎朝の勉強の時間を終え、アーロンは朝の鍛練を終え二人で美味しい朝食を楽しんでいると
「アーロン様!」
セバスチャンが食堂に飛び込んできた。ニーナはミルクを吹き出しそうになった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
読んでいただきありがとうございます。
一列になって進む…
サザ〇さんのエンディング?
ドラ〇エ?
「シカでした」は個人的に入れたかっただけです。はい。
続きは明日の6時です。
応援よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます