第19話 シロクロつけよう
専属護衛だから付きっ切りって………
最初のうちは護衛もついていた。うん。とはいえ、屋敷を守る護衛のうちの一人が付いてきてくれていただけで基本は屋敷についたらまた屋敷を対象とした護衛として入口の護衛室(ニーナの言う派出所)に戻っていた。
護衛が付くのは屋敷の外だけのことだ。屋敷が守られていれば、そりゃ中にいるニーナも守られているのと一緒だもん。
「クロもいるし、騎士団の仕事に集中していただいて大丈夫よ?」
厩舎からクロが頭を出してその通りだと言わんばかりに頷きながらブルルルンと息を吐きだした。
「いえ、任務ですから」
キリッと答えるテッド。
(イケメンがキリッとすると威力がすごいなぁ。
はっ。もしかしてシルヴィオは貴族のテッドを持て余しているのかもしれない。あまりハードな任務をさせられなくて私の護衛にしたのかも!)
勝手に納得する私。
「分かりました。さきほど付きっ切りっておっしゃいましたよね?」
「ハイ」
テッドが何を言われるのかとおびえているのが分かる。
(いやいや、イケメンだからって食べませんて)
もしかして、護衛対象マダムに迫られたとかで辺境地に飛ばされたのかしら……
顔面がいいっていうのは女性をも闘い対象になってしまうのかもしれない……
大変だわね
うん、テッドよ。安心せい!私からしたら20歳くらいの男性は息子のような者なのだよ。目の保養にはなるが恋愛対象にしてしまったら、なんか犯罪者のような気持ちになって罪悪感しかないわ。
「クロ!」
ドカッ!ドカッ!ドカッ!
飛んできてくれるクロ。
「私がクロで移動する時、あなたはどうするの?トムは休みだし私一人でいいかな?」
そこまでは考えが至らなかったようだ。絶句しているテッド。
とはいえトムもミスターXとして行動する時は必ず付いてくるってぐらいで、普段ニーナとしてクロに乗る時は別に一人で行動というのは珍しい事ではない。
クロに鞍を載せて準備をする。首を下げてくれる。巻き付いたら上げてくれるのと同時に前足を上げてくれるので片足をそこに掛けて乗る。
「馬場へ行きますが、どうしますか?走って付いてきますか?」
俯くテッド。しばらく逡巡して
「ハイ!」
意を決したようにこちらを見る。意志を宿した目はキリッとしていて中々に眼福だ。
同時にクロの後ろを必死に走って付いてくるテッドを想像したら面白くなってしまった。
「プハッ!さすがにそれは鬼畜だわ」
「クロ!今日だけ!今日だけテッドを載せてもいいかしら?」
ブルルルルンッ。
不満を表す。
クロは私以外を背に乗せたがらないのだ。断固拒否なのである。
「ね、お願い」
困った顔をしてクロを見上げる。
プスンッ
鼻からため息一つついて、どうやら折れてくれたようだ。
手を伸ばしてテッドを引っ張り上げる。初心者なので危ないためニーナの前に載せる。
背が高いため私が後ろに隠れる状態にはなるが横から顔を出す。
二人羽織のように後ろから手をだして手綱を握る。
「じゃ、クロ!馬場までゆっくりお願い」
グォッと進みだす。
「うわっ」
大きなクロの歩はゆっくりでも大きく揺れるため、テッドは慌てて鞍を掴む。
屋敷を出ると商店が並んでいる。
「すげぇ!クロに載せてもらってるのかよ」
「っていうかあの男、お嬢に守られてお姫様みたいだな」
「おっ!イケメンの兄ちゃん真っ赤だぞ」
後ろからニーナが見上げるとちょっとだけ見えるテッドの耳が真っ赤だ。
(案外かわいい)
テッドを載せながら町案内もしておく。真っ赤になりながらも話はちゃんと聞いてくれる。
(意外と誠実なんだね)
馬場に着く。以前は肉用のポニーと一緒に入れていた馬たちを今は専用の馬場を作ってもらったのだ。
「おはようございます」
ガタイの良いお兄ちゃんからおっちゃんやらが挨拶しながらこちらへ寄ってくる。
「お、兄ちゃん新人か?」
「兄ちゃんはどこがダメになったんだ?」
「?」
「俺たちゃ、みんな負傷兵なんだ。手足は無事なんだが、まともに剣を振り回せなくなっったポンコツばかりだよ」
「あら、でも馬は乗れるようになったでしょ」
ニーナが言うと
「ヘヘッ」
みんな誇らしげにいい笑顔を見せる。
「みんなにお願いがあるのだけど…この人はテッド。私付きの護衛になったらしいのだけど馬に乗れるようにしてあげてくれるかな?」
「おぉ、お嬢の付き人。そりゃ馬に乗れなきゃやれないねぇ」
「よし!みんなで教えてやるぜ」
そこからテッドの乗馬の特訓が始まった。私はその間に馬車の調整や、馬車に馬をつないだ場合の御者の訓練に付き合った。
そんなものは市の乗馬教室では教えてもらっていないから、こっちも必死なのである。テッドの相手はしてられないというのが本音。
(ごめんねぇ ごめんねぇ)
心の中で栃木のお笑いコンビのように謝罪する。テッドも帰りには馬を一人で乗れるようになっていた。見た目と違って根性もあるようだ。
(まぁ市中引き回しの刑みたいで恥ずかしかったのかな)
ふふっ
思わずニーナも笑みがこぼれる。
テッドの新たな相棒はは白馬で名前は『シロ』だ。名前の単純さに文句は言わないでいただきたい。『シロ』って名前はあの永遠の5歳児の頭の良い犬とも同じ名前で尊いのだ。
夕方にクロとシロで屋敷に戻る。これからはシロもこちらの屋敷で世話になる。
「ありがとうテッド。助かったわ」
今度こそ別れようとお礼を述べたがテッドが屋敷の中まで付いてくる。
「ん?」
「護衛は屋敷から出る時だけでいいのよ?」
「いえ、専属ですから」
(そういうもんなの?)
まぁ、今までの護衛は屋敷の護衛と兼ねていたから専属じゃなかったし。トムはクロで出かける時の護衛でもちろん護衛として付くのは屋敷の外だ。
いつの間にか屋敷に部屋まで用意されていた。しかもニーナの隣の部屋。
「何かあった時にすぐ駆け付けられるように」
(いや、今までそんなに危険を感じた事が無いのだけど…)
テッドの目は真剣だ。何か言ったとしても通す力がある。言い争うのも面倒だ。
「分かりました。何かあったらよろしくお願いしま~す」
(テッドが貴族だから普通の詰所には滞在させづらくて、貴族の屋敷で寝泊りできるように配属してくれたのかな……お坊ちゃまはしょうがないなぁ)
そんな生暖かい目で見られてることなんてテッドは微塵も感じていないようだ。
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