第31話 バラは♪バラは♪

 天井はとても高く、シャンデリアがあちらそこらにぶら下がっている。たくさんの蝋燭で照らされた会場は柔らかい光がなお一層建物の作りを重厚に見せて厳かな雰囲気に包まれていた。


(おぉぉっ!これは正に!ベ〇バラの世界!!)


 キョロキョロといろんな所に目がいっては感嘆の声が漏れ出ているニーナを見てテッドが笑いを噛み殺している。


 大勢のデビュタントの子達が白いイブニングドレスに包まれちょっと照れくさそうに微笑んでいるのがまた初々しい。


 まずは一番奥にいらっしゃる王家にご挨拶をする。


 陛下は名はエドガー・ベルナルド・マルクルド。髭をしっかりと蓄えた正にトランプのキングの絵そのものでがっしりとした壮年の男性だ。

皇后陛下はアデリーナ・ビオンタ・マルクルド。金髪の陛下とは違い亜麻色の髪の少しふっくらとした優しそうな女性だ。


 確か王子が二人に王女が一人いたと思うがひな壇にはいなかった。

 爵位の高い人間からするので辺境伯とはいえ一応『伯爵』の位なので早かった。


「テッド・キルビシュラーガー男爵」

「ラウタヴァーラ辺境伯長女 ニーナ」


 二人で陛下と皇后陛下のひな壇の下で礼をする。


「ニーナよ。馬は素晴らしいな。」

「ありがとうございます」


 話しかけていただけたのが嬉しくてテッドの方を向くと何故かテッドの目は笑っておらず目線は皇后に向けられていた。皇后は皇后で優しそうな笑顔ではあるのだが目が同じく笑っておらず、テッドの方を厳しく見つめている。


(二人とも目が死んでる!笑ってるのに死んでる!こわっ)


 最期に一礼をして下がらせていただいた。


 テッドに皇后と何かあったのか聞きたかったがピリピリとしているのが隣にいて伝わってきたのでやめておいた。


(皇后と男爵が関わる事なんて無いし……ね……気のせいかな?)

 そんな私達を嫌な目で見る女性達がいた事に気づかなかった。



 デビュタントの挨拶が終われば普通に参加している貴族たちの王家への挨拶が続くため舞踏会が始まるまでサロンへと移動する。


 軽食もあると聞いて目がキラキラしてしまいテッドに笑われてしまった。いや、ラウタヴァーラの食堂でも作れる物があるんじゃないかってね、視察も兼ねているのよ。視察も!


 カナッペをいただきながら

「テッドはキルビシュラーガー男爵様なのね。知らなかったわ。

キルビシュラーガー男爵様と呼ぶべき?」


「ふっ。気楽な一代男爵だよ。

かしこまらなくて全然いいよ

ニーナの専属護衛騎士のテッドで」


 ウィンクされる。あまりにも似合いすぎて凝視できずパッと目をそらしてしまう。


「ニーナ?」

「あまりにもキザだからこっちが恥ずかしくなったって」

 火照った頬を手で仰ぐ。


「そう?」

 テッドが首をかしげる。


(もうあざとい!あざといって!)


「おう!テッド!こんなところにいるのなんて初めてじゃないか?」

 声をかけてきた短髪のちょっとヤンチャそうな男性にイヤそうな顔をするテッド。


「おぃおぃ、そんな露骨にイヤな顔すんなよ。

始めまして。俺はマシュー・オルコット。

オルコット子爵の3男で近衛騎士第一団に所属しております。」

「ニーナ・ラウタヴァーラです。ラウタヴァーラ辺境伯の長女です。」


 ニッコリと笑って右手を差し出し自然とニーナと握手する。


「こんな綺麗なレィディのエスコートなんて羨ましいなぁおい!

ちょっとシガレット付き合ってくれよ

レィディ、ちょっとこいつお借りしていいですか?」


 ペコッと頭を下げる。連れていかれながらテッドが『どこにも行くなよ』というような目で釘を刺してきたので、『分かってるわよ』という意味で睨み返した。


(男の付き合いも大事だものね)


ふぅ……ため息が自然と出てしまう。


(次は何を食べようかな)


 色とりどりのテーブルを眺めていると


「あーら、農場の臭いがするわ。ちょっと匂わない?」

「ほんと!なんだか匂うわぁ。家畜?の臭い?」

「豚?くさい感じぃ?」


 ヒソヒソというよりわざとこちらに聞こえるような音量。振り向くと真ん中を高くした表彰台のような並びの女性3人組。


「誰かと思ったらニーナじゃないのぉ?」


 真ん中で一番背が高く黒髪で巻き毛、顔の作りもちょっと濃いデボラ。


「わぁ、ほんとだわぁ。ニーナじゃない?農場から出てきたの?」


 左側を飾るちょっと背がデボラより低いけど細長いキツネ顔のラウリー。髪の色も正にキツネ色である。


「やぁだぁ、細長くなっちゃって匂いでしか分からなかったわよぉ。お久しぶりぃ」


 右側を飾るのは中肉中背の丸顔の栗毛頭で少したれ目の女性はイネス。左からキツネ、シーサー・タヌキと例えると分かりやすい3人組だ。


(うげっ)


 一番会いたくなかった3人である。


「お久しぶりね」


 引きつった笑顔で返す。



※※※※※※※※



「ねぇ、臭くない?」


「ほんと、ほんと」

「獣くさい感じ?」

「畑の肥やしの臭いかな?」


 ニーナの周りでこそこそと話される。ニーナは下を向いて必死に涙をこらえている。周りの子達はクスクスと笑うだけで助けてもくれない。


「貴族は貴族でも辺境伯って田舎よね」


「田舎くさぁい」

「農場から逃げて来た豚なんじゃないの?」

「あら、だめよ豚なんて言ったら豚がかわいそうでしょ」


あはははっ

ふふふふっ

あははははっ


※※※※※※※※


 彼女たちが幼かった頃の嘲笑が頭の中をこだまして自然と下を俯き背中が丸まる。


「ほんと!久しぶりよね!」

「こっち来てお話しましょうよ」

「そうよ!そうよ!座ってゆっくり話しましょう!」


(いやぁ!お尻の皮が剥けてて痛いから座りたくなぁい)


 グイグイとニーナの手を壁際の椅子が並んでいるところへと引っ張っていく。


 真ん中一つの椅子を開けてラウリーとイネスが先に座る。その真ん中に座るように誘導され座らざるを得ない状況を作られてしまった。


(いやぁぁぁん!まいっちんぐぅ!)



~~~~~~~~~~~~~~~~

うん、今は絶対に放送できないアニメなんだろうなぁ。

実写化もされていたけど。

昭和って本当に不適切な時代だったのね…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る