第25話 虎口を逃れて竜穴に入る

カンカンカンカン!

カンカンカンカン!


闇の中、鐘がそこら中に鳴り響いている。


「「「敵襲!敵襲だ!!!」」」

「「「みんな!領主の屋敷へ迎え!」」」


いろんなところで叫ぶ声が聞こえる。速攻で服に着替える。


「「ニーナ!」」


 アーロンとテッドが慌てて入ってくる。


「うん、訓練通り!アーロンは避難してくる領民を!テッドと私は砦に向かうチームの補助!」


「避難する者はこちらに!」

 避難してくる領民を誘導するアーロン。


「砦に向かえる者はこっち!」

 ニーナは馬棲バス停に誘導する。


 馬棲バス停には多くのが退役した負傷兵だった準兵士達や領民の男性達が待っている。夜中であるが何台もやってくる馬棲バスに乗り込んでいく。ちゃんと稼働している事を確認したら今度はクロとシロに乗ってニーナとテッドが砦に向かう。


 砦の一番上にいるシルヴィオの元へ走る。上から砦の外を見る。


 一番外側の石垣の向こう側にはたくさんの松明が見える。櫓の上、石垣の塀の穴から矢を放っているのが見える。


 相手も火矢を放ってくるが塀は土壁でできているので燃える事はない。


ドォォォォォン!

ドォォォォォン!


 牛に丸太を付けた破城槌はじょうついで一番外側にある持ちやぐらの門を打ち付けている。


「打ち破られるぞぉ!」


 やぐらの上の人間が叫ぶのと同時に


バキョバキョバキョッ!


ウォォォォォォォッ!


 門扉が破られ、牛と共に大勢の兵が押し寄せてくる!

待ってましたと櫓の上の穴からお湯を落とす!


グワァァァァッ!


 お湯を被って倒れる者をまた踏みつけて先へと進む。


ウォォォォォッ!


 勢いよく走って来たがカーブを曲がったら行き止まりになっている。



「「「戻れ!戻れ!」」」


 先頭の方にいる兵たちが声を上げても下り坂になっているためどんどんと後ろから兵が押し寄せてくる。行き止まりは扇状になっており後ろに戻るには狭くなっているために簡単には戻れない。


「戻れ!」

「戻れ!」


 そんな声は「うぉー!」という声でかき消され後ろからどんどんと人が押し寄せてくるため、身動きが取れない。


 おしくらまんじゅうのように兵が密集してしまっているところに石垣の上から矢や投石、そしてお湯が浴びせられる。家畜の糞も混じっているから石垣の中は地獄絵図だ。


 後ろからやってきた兵士達は人が詰まって前には進めないために右にひっそりとあった通路に気付いた。


「こっちだ!」

「こっちだぞ!」

「「「うぉー!」」」


 先ほどよりは少し細くなった道に折れて進んでいく。


 その間にも両側の塁線るいせんの上から矢は降ってくる。壁に突き当たると少し戻らないと左に曲がれない。しかし後ろから人がどんどん来るために壁にぎゅうぎゅうと押し付けられて動けなくなる。


 そこをまた攻撃が襲う。


 なんとか降り注ぐ、矢や投石を免れた人間が左に折れると今度は突き当りまで下り坂になっているため勢いを止められずに突っ込んでしまう。


「「「戻れ!戻れ!」」」


 少し戻ったところにまたもう一つの櫓門があるのだがどんどんと人が下り坂の勢いを殺せずに突っ込んでくるため密集となり叫んだところで誰の耳にも入らない。壁に押し付けられる状態でまた矢や投石が四方八方から飛んでくる。


「「「こっちだ!こっちだ!」」」


 人が密集しており人が進めなくなって初めて自分の横の櫓門に気付きく。


「「こっちだ!ここに門があるぞ!!」」


 今度は真横にあるため狭く牛の破城槌はじょうついは使えない。兵士達が門に体当たりをする。その間にも上からお湯だの投石が降ってくる。後ろから短めの丸太が届き、なんとか門を突き破る。しかし、その間も攻撃は続くためにこの門をくぐれた人間は本当に少なくなっていた。


 櫓門をくぐると右側にやっと本当の砦の門が出てくるのだが四角い広場のようになっており、その残り少ない兵たちが入り切った時を見計らって


「今だ!」


 入って来た櫓門が閉じる。兵士達は四面楚歌状態へと陥った。もうこうなってしまうと上から四方八方囲まれ逃げる事もできない。


 兵士達が気付いた頃にはもう打つ手はない。密集しているために矢を打つ事もできない。



「降伏するか全滅するか選べ!」


 シルヴィオが砦の上から叫ぶ!四面楚歌になったアヴェリン国の隊長が降伏しシルヴィオが勝鬨を上げた!


「すごい!すごいよ!ニーナ!」


 興奮するテッド


「こちら側は死人無しだよ!しかも砦の門を越えられる事もなく終らせる事ができたよ!」


 喜んでいるところ申し訳ないけれど人の肌が焼ける臭い、血の臭い、そして家畜の糞の匂いをこんなに大量にかいだ事が無いので気持ち悪くなってしまって、ふぅぅっと意識が飛んでしまった。



        ※



 気付くと金髪碧眼のイケメンテッドが視野いっぱいで


「うぉっ!」


 思いっきり起き上がる!


ガツッ!


「「痛っ!」」


 ニーナはテッドに思いっきり頭突きしてしまったのだ。お互い頭を押さえる。


「大丈夫か?」

「ふへ?」


 周りを見ると砦の医務室だった。


「ど、どうなった?」

「今はシルヴィオがアヴェリン国の隊長と話し合いをしているよ

まぁこちらの圧勝だからね

あちらからの補償をどれだけしてもらえるかの問題だと思うけどね

しばらくはこちらに攻めて来れないのは間違いないよ」


「うん、ずっと来なければいいと思う」


 惨状が頭を過ぎりもう一度フラッとするのをテッドが支えてくれた。


「ありがとう。テッドのこと『まだまだ』なんて言ったけど、私の方こそ『まだまだ』だったわ」


「いやいや、その歳で尚更女の子だったらあんな景色みたら当たり前の事だと思うよ

ちょっとニーナも普通の女の子なんだなってホッとしたくらいだよ」

「なにそれ!」


 テッドのお陰で少し和んだのでありがたく思う。


 テッドに支えてもらって砦からラウタヴァーラ辺境伯の方向の景色を見る。まもなく陽が昇るのか周りがほんのり明るくなってきていた。


 勝てた喜びで兵士たちが喜んでいる図が見える。領民の男性達が砦の内側でお湯を沸かし、石を砦の上へと運び、負傷兵の準兵士達が受取り上から投石やお湯をかけ矢を補充したりと大活躍だったようだ。


 領民の男性達が駐屯地の食堂で料理を作ってふるまっていた。食堂には入りきれなかったため、外でも炊き出しのようになっている。

 実は領民の男性達には襲撃があった際に炊き出し係としてお湯を沸かすのはもちろんだが、長期の闘いになった時のために炊き出し班として町の食堂で定期的に料理訓練をしていたのだ。

 訓練での料理は領民の女性達に振舞われ、料理をする大変さを知った男性は女性を労わるようになり、そのまま料理にハマる男性もおり女性達にも大好評だった。


 みんなの顔がとてもいい笑顔になっていた。この笑顔を守れたんだと思うとホッとする。


 太陽の日差しが地平線から顔を出した。一気に横からの陽光でラウタヴァーラの牧草地や畑が焼かれる事なく照らし出されキラキラとしていた。


 あまりの景色の綺麗さに涙が出た。テッドもこの景色の綺麗さに見惚れているようだった。

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