第48話 パジャマパーティ♪

 テッドの部屋では田中がメガネを外していた。

「ははっ、その眼鏡!ちゃんと見えてんの?」

「見えている!」


「へぇ~」

 テッドは眼鏡を持って自分の眼に当ててみたりして遊んでみる。


「おい!スペアが無いから大事にしてくれ!」

「わかった!わかった!」

 テッドは田中に眼鏡を返した。


「もぉずっとニーナが『田中』『田中』っていうからさ、どんな奴かと思ったら、まさか!だったぜ」

「こっちもまさか!だった」


「ようこそマルクルド帝国へ」

「どうも」


「学園、楽しんでるか?」

「楽しいぞ。ニーナが特に面白い。ラウタヴァーラはアーロンが跡を継ぐんだろ?

じゃニーナは自由だよな?」


「おい…ダメだ…」

「何が?だ?」


「ニーナは…ダメだ!」

 テッドが真剣な目をして言うのに対して田中は

「ぷぅぅぅぅぅぅっ!本気にしてるぅ。テッド、もしかしてニーナの事…」


「おぉいっ!こ!こらっ!」

「マ~ジ~でぇ?」


揶揄からかうなって!」

「あんなにいろんな女から声掛けられても全然なびかなかったのにぃ?どこがいいんだ?」


 テッドは真っ赤になりながら

「ぜ、全部だ」

「ひゅ~♪テッド真剣マジなんだなぁ…でも結婚はしないって言ってなかったっけ?」


「結婚は……したく…はない…けどニーナが誰かと…なんてダメだ!」

「勝手だな」


「…勝手…だな…こんな気持ち初めてなんだよ。どうしたらいいか分からないんだよ」

「ほぉ。初恋ですか」


 『初恋』なんて甘酸っぱい言葉で表現されてテッドはゆでタコのように赤くなる。


「お前こそ、どうなんだよ!リズ?だっけ?」

「バッ!バカいうな!リズは違う!」


「へぇ~、もう何かっつぅとずっとリズちゃんの事を目で追ってましたけどぉ?

話しかけられたら瞳がキラキラしてましたけどぉ?」

「眼鏡で目は見えてない!」


「いやぁ、もう雰囲気?オーラがすごい出てましたけどぉ?」

「くっ!うるさい!彼女リズには婚約者がいるんだぞ!やめろ!」


「いなかったら奪い去れたのにねぇ」

「いても彼女リズが不幸だったら奪い去る!」


「うわぁお…お兄さん引いちゃう。戦争になっちゃうからやめて…」

 テッドがか弱い女子のように打ちひしがれて言った。


「じゃ、もう言うな!」

 ふんっと翻って田中は眠りについた。


          ※

 ニーナの部屋では


「はぁ、楽しかったねぇ。田中の負けた時の顔ったら!面白かったぁ」

 ニーナとプリシラが笑う。


「そんな事言わないで!彼はいつでも真剣なの!」

 リズが止める。ニーナとプリシラが顔を見合わせる。


「えぇ?あんな顔の田中でもかっこいいの?」

 そう聞くとリズがバフッと体育座りした膝で顔を隠す。でも耳が真っ赤だ。


「ふぅん」

 ニーナとプリシラがニマニマ笑ってしまう。


(誰がどう見ても二人は相思相愛なんだけどなぁ…)


「ねぇ、リズは…あの王子アレクサンダーの事好き?」

 プリシラが核心をついていた。


「好き?……小さい頃からずっと王妃になるための教育を受けて来たのよ…お父様だってお母さまだって、リュシリュー公爵家の誇りだって言ってくださっていてアレクサンダー様の事を好きとか考えた事なかった…」


「そうなのね…じゃ田中は?」

 プリシラがまたまた核心を突く。言われた瞬間にボッと赤くなるリズ。


(今日のプリシラは攻めるねぇ。酒の力か?)


婚約者アレクサンダーがいる身で他の男性を好きとか言ってはいけないと思います!」

 少し目を潤ませながらリズは強く答えた。まるで自分に言い聞かせるように…


「そっか…まぁそうだよね…」

 その気持ちが分かる二人はもう何も言えなくなって黙る。黙ると夜更かしとほろ酔いであっという間に眠りの船に誘われてしまった3人だった。


          ※


 そのまま週末をみんなで楽しく過ごした。田中は馬が珍しく、テッド、アーロンと一緒に乗馬の練習をした。クロは誰も乗せないので監視役のように付いて走っていた。


 帰る頃には田中はトコトコと歩く『常歩なみあし』まで乗れるようになった。

「また是非!乗せてくれ!」

 瓶底メガネがキラキラと輝いていた。中の目はきっともっと輝いているんだろう。


 女子たちは3人でクッキー作りに挑戦した。リズは公爵家のお嬢様なのでキッチンに立つなんて許されてないし、ニーナにいたっては女子力ゼロなのでクッキーを作れるプリシラを神のように二人とも崇めた。

 

 ミラもニーナに女性らしい事をさせた神として認識したらしく、ものすごくプリシラに対して対応が非常に良い。


 そして乗馬をしていた男性陣にできたクッキーを上げると3人とも本当に喜んでくれた。やはり3人ともプリシラを神と崇めた。


「えぇ!プリシラさん!本当にすごいよっ!ニーナがクッキーを作ったんだよ!本当にすごいよ!プリシラさんがいたらもっとお菓子を作れるようになるのかも!プリシラさん本当にステキだよっ!」

 アーロンの一言に


「もぉ!やめてください!クッキー作りなんて基礎の基礎でこんな崇められると困りますっ!」

 プリシラが真っ赤になっていた。まさか本当にその後その気になったプリシラにスパルタで菓子作りを教わる事になると思いもよらなかったのだ。のほほんとクッキー食べてる場合じゃなかった。


 あの時のアーロン…止めとくべきだった。


       ※


 3回目の施しの会が終わった後の生徒会室では炊き出しの会の失敗により王子アレクサンダーが歯がゆい思いをしていた。


「何がダメだっていうんだ。あいつら貧民施してもらっている立場でありながら不満を言うなんて!」


 生徒会室で眉間にしわを寄せ、こぶしを握り締めながら深いため息を吐く王子アレクサンダー

「では、こういう策はいかがでしょうか?」

 ブランカが耳打ちをすると


「ふふっ!老人の事を考えた素晴らしい策だ!君は本当に天才だな」

 そう言うと王子アレクサンダーはブランカの腰に手を回し引き寄せる。


「もぉ…学校ですよ」

 ブランカが甘えた声を出した。


         

        ※

 炊き出しの会の件が落ち着いた頃…

 珍しく帰宅したオニールとテッドが執務室で話し合っている声が聞こえてきた。

(いつもなら帰宅したらテッドもオニールも『家でまで…』ってあまり合わないようにしているのに珍しい)


 ちょっと覗いてみる。

「死ぬまで帝国がお金を払います?そんなのは無理に決まっている!」

 テッドが荒々しく声を上げている。


「は?死ぬまで帝国がお金を払う?何それ?」

 ニーナは思わず執務室に飛び込んでしまっていた。

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