第14話 大きなカブ

 翌朝、教会では子供たちの勉強の後にそのまま領民達も集まっていた。チャーリーはミスターXの恰好をして皆の前に立った。


「私がラウタヴァーラ辺境伯のオニール様にこの領土を任された『ミスターXエックス』だ。私の言葉はオニール様の物と思ってくれたまえ」


 チャーリーが全力で低く偉そうに言う。


「エクソ?」

「な、なんでぇ顔を見せねえんだ?」

「おかしな恰好しているなぁ」


「ンッ!ンンッ!黙りたまえ。私は戦によって顔に大きなケガと火傷を負ってしまってただれて見せれた顔じゃないんでな」


 ざわざわしていたのがその一言で好機の眼から同情の眼差しへと変わる。チャーリーはちょっと皆を騙しているという事で良心が痛んだ。


 実は、このままではこのラウタヴァーラ辺境伯領地は破綻してしまうというところまで来てしまっているのだよ」


 チャーリーはここぞと低い声で重く伝えたつもりだが、領民達にはあまり響いている感じがしない。


「誰が上になったって一緒だよ。また税金、税金って取り上げていくんだろ?」

「そうよ!そうよ!もう元々、ここはアヴェリンからいつも襲われちゃぁ畑がダメになってどうにもならないハズレ領土だもの」


 ざわざわと同じような失望している言葉を吐き出す領民達。もうこのラウタヴァーラに何も期待をしていないという事がとても良く伝わってくる。そんな失望を吹き飛ばすように一層大きな声で


「そこで!だ!このラウタヴァーラで株式会社を作る!」


「は?なんだそれ?」

「カブ?野菜のかい?」

「まぁ、採れてはいるけど…」

「名物にしようっていうのかい?」


「違う!みんなの畑を買い取ってみんなで畑をやっていくんだ。毎月決まった日に給料を出す。つまり大きな畑の商会みたいなもんだ」


 ぽか~んとする領民達。


「でも!俺たちはご先祖様からの畑をそうそう簡単に売る気はねぇぞ!」

「そうだ!そうだ!」


「その気持ちも分かる。だが、ご先祖様からの土地というが、子供達に分配して結局ちゃんと畑として利用されているのはどのくらいだ?中には子供も領土を出てしまって畑どころかただの草原になってしまっている畑も多いだろ?


 畑の広さの分の『株式証券』というものを発行する。それを持っていたら給料だけでなく経費を引いた利益を持っている株式の数によってみんなで分ける!

 働けなくなったら株式からの利益だけは入ってくるから無収入じゃぁない!

それに自分が死んだ時に子供達に分けるのも土地ではなく株式を分けるからご先祖様からの大事な畑は畑として活きるだろ?」


 考え込む領民達…実際子供に分けたはいいが、結局小さくなってしまった分採れ高は落ちる。それで耐えられなくなって領土を出て行ってしまった子供もいたのだろう。


「もちろん畑だけじゃない、酪農もみんなでやってもらう。みんなでやるから休みもできる」

「休み?!」


 360日休みなく働くのが当たり前と思って生きてきた領民には『休み 』という言葉はそれはもう魅力的だった。


「それにだ、みんなでやっていくという事はみんなで税金を払っていくという事だ。そして税金を引いた分がみんなの給料となる。

誰か一人が払えずに苦しむという事も無ければ個人で払わない分、税金の事を考えなくてもいいという事だ」

「「「えっ!」」」


 まぁ、税金先取り、日本のサラリーマン方式だ。残念ながら控除などないから年末調整で還付金という物は無い。家計でも貯金は『余ったら…』なんて言ってあまらないよね?『貯金は先取り』これ基本!


「昼飯は福利厚生という事で食堂で領民はみんな食べられるようにする!一食は確実に食べられたら人間なんとかなるだろう」

「「「おぉおぉぉ」」」


 食べるに困らない…というのは本当に生きるという事に繋がる。みんなの顔に生気が戻ってきた。


「ただ、本当に苦しい状況だというのは最初に言った通りだ。皆で力を合わせて利益を出せるように頑張ろう!」

「「「「おぉぉぉぉぉっ!」」」」



 『みんなの会社』その言葉に領民がみんな何かが変わる期待をしているのが目の輝きから伺えた。


 ニーナの『くうねるあそぶ』に大きな一歩となり

「いよっし!!」

ガッツポーズを取る。

 メイドの格好をしている時だったのでラナに肘をついて叱られた。





 


 その日の晩、ニーナは気持ちよい眠りにつくことができた。


※※※※※※

 鳥の声が聞こえる。

上を見上げると空がどこまでも高く、そして碧いが、陽射しが強すぎて思わず手で庇を作る。視線を前に戻すと自分の両側が積みあがった石の壁に囲まれており、通路のようになっている。

 積みあがった石は結構高く登るのはちょっと無理そうだ。


「はぁはぁはぁ、ちょっとぉ!待っでぇぇぇ!」


 振り返り立ち止まる。声をかけてきたのは白い日傘の下にまだ白い帽子を被り、白いワンピースを着たゴツイ女性?


(あ、ヒロだ…)


「はぁ、はぁ、あっづいのよ。なんなのよぉ。もぉ。城を見に行こうって言われて来たのにぃっ!」

「あはははっ。城じゃん?」


(あ、シーナの声だ!懐かしい…)


「城じゃないわよぅっ!これは石垣!っつぅのよ!城はどこよ!城は!」

「その内、見えてくるって…ローマの道も一日にしてならず!進まねば城にはつかないよ!」


「あっ!城が見えた!こっちよ!こっち!」

 ヒロが早く城に付きたくて石垣の向こうに城の頭が見えたのでそっちへと突き進んでいく


「やぁだぁ!行き止まりぃ!もぉ!なんなのよぅっ!」


「あぁ!もぉ!坂を上ったと思ったら今度は下り道ぃ?もぉ、せっかくのヒールが台無しよぉ!」


 ヒロの文句がずっと続く。


「あぁl!もぉ!何?結局近道があったんじゃないのよぅ!みんなこっちから来てるじゃないの!」

「いやぁ、せっかく来たんだもん。足軽気分で城攻めしていく感じがして楽しかったでしょ?」


「足軽ぅ?バカいってんじゃないわよ!私は姫よ!姫!もぉ!汗でメイクが台無しだわよぅ」


※※※※※※※


「ははははっ!ははっ!はははっ!ひゅぅっ!ふぐっ!ぐはっ!げほっ!げほっ!」


 咳き込んでニーナは目が覚めた…笑いすぎで呼吸困難になって目が覚めるって…

寝言でも笑ってたって事?

ニーナは思わず誰も見てないよねって周りを見回した…誰もいなくてよかった。


 懐かしい前世シーナの夢…

「コレだ!!ふっははははっ!はははははっ!」


 不敵に笑いが止まらないニーナを見てミラが無言で固まっていた…


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

家政婦(ミラ)は見ていた……:;(∩´﹏`∩);:


笑いすぎて呼吸困難になって目覚めた事ありますよね?

えぇ、私はありますけど、何か?

実体験ですけど、何か?






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