第15話 せ~お~い~な~げ~♪
砦の上。風が気持ちよく吹き、雲も高くゆったりと青い空の中で流れていく。シルヴィオが遠くを眺めていると、階段を背の高い青年が駆け上がってきた。騎士団の制服ではなく、シャツにトラウザーズという軽装だ。髪は少し癖のあるショートの金髪でサラッと前髪は横に流れており、彫刻のような整った顔立ちに爽快感あふれる若者だ。
「おぉ、テッド久しぶりだな。いつぶりだ?
テッドが留学する前だから3年ほど前か?無事戻ったんだな。元気だったか?」
シルヴィオがホッとするような慈しむような笑顔で青年に声をかける。
「お陰様で。いい
「ありがとよ。王都なんてものは退屈なだけだからな。守りの要のここの方が性にあっているだろ?」
悪ガキがイタズラをするかのようにニヤッと笑うシルヴィオ。
「ところで手紙でいっていた『面白い物が見れる』と手紙で言っていたのはこの砦の外側の石の山ですか?」
テッドが砦の外側にできた建造物?を不思議に思って聞いた。
「ふふっ。なんでもなこの領土経営に新しく来たミスターXってのがな『砦がノッペリとしていて入口が一つだから牛に丸太繋げた破城槌(はじょうつい)に一発で入ってこられちまうんだ』って言ってな。石垣で塁線を作った虎口っていうらしいぞ?」
「石垣でルイセンでコグチ?」
何かのおまじないの言葉のようでテッドは不思議そうな顔をした。
「あぁここの騎士はもちろんだが、『戦はできなくてもまだ働ける!』って言ってな、この前の戦で出た負傷兵に王都からも負傷兵を集めてな、ラウタヴァーラで工夫だったり農夫として働いてもらっている。
まぁ確かに走れなくなった、とか、剣を持ったり、弓を持ったりはできなくなったってだけの奴らだからな。
ただ腐っているだけよりはいい!って言ってよ、給料なんてほとんど出せないんだが食うのと寝るのには困らないからな。助かってる」
「へぇ……そういやここに来る途中も牛車から見ていたんだが、街からは畑、牧場が広がっていたけど家が無かった」
「おぉ、それもミスターXが『コンパクトシティ』っつぅのを作るって言って、街の周りに商店、住宅を集めて砦の方に向かって畑、それから牧場と計画して見張りや休憩の小屋はあるけど家っていうのはもう郊外には無いんだ。」
「なるほど。もしこの砦を突破されたとしても住居までは距離があるから、時間も稼げる上に一般人の負傷者も出にくいという訳ですね」
ミスターXという人間はどのような人間なのか。どういう学びをしてこのような考えを持っているのか。素直にテッドは関心してしまった。
「お、噂をすれば……あれがミスターXだ」
シルヴィオが指さす方向を見ると大きな黒い馬に跨る男性とがこちらに向かっている。
「う、馬?」
(馬ってもっと小さいよな?牛よりデカイんじゃないか?なんだあの馬!化け物か?)
後からもう少し化け物の馬より小さい馬にマルクルド帝国の騎士が乗って追いかけてくる。
先に砦に到着して降りた男性にマルクルド帝国の騎士が何かを言って別れた。男はまっすぐと砦の上のシルヴィオの方へとやってきた。駆け寄るかと思いきや、テッドの存在に気付いてハッと立ち止まり、ゆっくりと横柄な歩き方で近づいて来た。その態度の変化に気づいたシルヴィオがクッと笑いを噛み殺している。
「ようこそ、ミスターX。こいつは私の弟子のテッドです」
「どうも、
ミスターXと呼ばれる男は無言で手を出すテッドにおそるおそる手を出す。テッドはその手を力強く引っ張って握手をした。
(思ったより手が小さい……背も小さい……っていうかこのネットが張られたハンターハットはなんなんだ?顔が見えない……)
「まぁ、ここでは何ですから、指揮官室へ移動しましょう」
そういってシルヴィオが階段を下りていった。それに続いてミスターX,テッドの順で階段を下っていたのだが、後2段くらいのところでミスターXが足を踏み外した。思わず手を出しミスターXのわきの下に手を入れて間一髪助けた!かと思った瞬間!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
絹を裂くような悲鳴と共にテッドは浮き、天と地がひっくり返った。
ドォォンッ!ドスンッ!
地面に着いた衝撃と上にミスターXが降って来た衝撃が一気にきた。
「ぐぅえぇぇっ!」
思わずカエルが踏みつぶされたような声を出してしまった。
「Λ◎§ΣΞΝ……」
後光で髪がキラキラと亜麻色に光る髪の亜麻色の目をした天使がお迎えに来た……と思ったのと同時にテッドは意識を手放した。
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