第28話 はい!よろこんでぇ!
クロが本当に頑張って走ってくれて夜遅くはなってしまったがなんとか一日で王都のタウンハウスへと辿り着いた。
「クロ!ありがとう!!!」
クロを労って、タウンハウスへ飛び込んだ!
「お!お父様は?!」
アーロンが飛びついて出迎えてくれたけど、そんな感動の再会をしている場合じゃぁないんだよ。
「うん、アーロン!今は!お父様!お父様は無事なの?」
「こっちだよ」
案内された部屋の扉を心配のあまり飛び込むように勢いよく開ける!
「お父様!!無事なの?!」
テーブルについて書類と向き合ってペンを持って座っているお父様が平然と
「おぉ!ニーナ!おかえりぃ!」
「おかえりぃ!じゃない!!なんなの?元気なの?」
元気そうなお父様を見て、一気に力が抜けてへたり込む。
「大きくなったなぁ……ミーナに似てきたなぁ……」
「お母さまに似てきた……じゃないわよっ!どういう事なの?」
「いやぁ、何度も『今後の事について話し合いたい』って手紙を出しても、なしのつぶてだろう?アーロンに頼んで一芝居打ってもらったんだよ。まったく…父親が倒れないと君は会いに来てくれないのかい?」
「う、うぐっ……ご、ごめんさい……」
「まぁ、今日は一日馬を飛ばして疲れただろう?ゆっくり過ごして明日また話そうじゃないか」
確かに一日中走って来たために足がガクガクだ。お父様のお言葉に甘えて、その日の夜は入浴して脱力するかのように眠ってしまった。
※
翌朝、クロの様子を見に行き、朝食を食べてから応接室でお父様と二人で向き合った。タウンハウスのメイドが紅茶と茶菓子を用意してくれた。
「ラウタヴァーラは今、すごいと周囲でも話題になっているよ
帳簿はいつも送ってもらって確認はしているのだけど
状況を詳しく教えてもらっていいかな?」
そこからニーナは
ラウタヴァーラに株式会社を設立した事。
ウマ部はクロウマ宅急便など馬を統括する。
酪農部は名前の通り酪農する。
農業部もこれまた名前の通り農業する。
製造部は工具、農具など製造する。
福利厚生部は昼食や、制服を提供したり洗濯する。
総務部が人事関係、会計関係を全てまとめていて領民はもちろん退役した負傷兵を積極的に採用している事。
負傷兵を積極的に採用した事により、その家族も一緒に移住してきてくれ領民が増加している事。
働く人間が増えた事により子供達が仕事に従事せねばならないという事が減り、学び舎で学ぶ子供達が増えた事。足が不自由な負傷兵にも教師として活躍してもらっている事。
クロウマ宅急便にいつの間にかどこかのガリガリに痩せた孤児達が乗り込んできて、『ラウタヴァーラで働かせて欲しい』と訴えて来た事。
あまりにもガリガリに痩せた様子をみた福利厚生部の女性達が見かねて、手厚くご飯を食べさせ、子供用の制服は無いので余った生地で子供達の服を作ってくれたこと。
今は孤児院におり、学び舎で学んだり、繁忙期には働いてもらったりしている事。おかげで孤児院が手狭になってきた事。
お父様と話せるのが嬉しくて、前のめりになり、一気にまくしたてるようにお父様に話してしまった事でお父様はソファの背もたれに勢いで押されてしまっていた。
「うん、大きくなったね…」
しみじみとしながら紅茶に口をつけるお父様。
「ミスターXというのはチャーリーだと聞いていたけど、ニーナって事でいいかな?」
ブッとお茶を少し吐き出してしまった。カップに口をつけている時だったので汚いけれど紅茶をテーブルとかにまき散らす事は無かった。セーフッ。
「な、な、何をおっしゃっているの?お父様」
「ふふっ、そんだけラウタヴァーラのことを夢中になって話していて関与してない…って事は無いだろう……でも、帝王へやった使いには男性だったと聞いたから、さしずめチャーリーとニーナの二人でやっている…って事なのかな?」
(あちゃー、さすがお父様)
「で、ニーナ…これからの事なんだが…結婚についてはどう思っているんだい?」
ギ!ギクッ!
「け、結婚は……まだ……考えていません……
ま、まさか!お父様!政略結婚とかお考えになっているのですか?!」
(貴族子女だし、そういう事もあるかもしれないって思ってはいたけど……結婚は……シーナで懲りたのよ……正直……したくありません!って言っていいもの?)
焦るニーナとは対照的に落ち着いてダンディーにお茶を飲むお父様。
「う~ん。私は今、辺境伯という立場上、そういう事もありえる…」
(えっ)
「…んだけど…、私自身は伯爵家の三男として自由に生きてきて、平民のミーナと出会って王宮で働いていて仕事に奔走していたら…ラウタヴァーラ辺境伯を賜っただけだしね。実際、名前だけのものだというのも周りの貴族も知っているし、跡取りはアーロンがいるしね」
(あぁ、良かった…)
ニーナは胸を撫でおろした。
「ただ、もうデビュタントの歳になったからね…宰相であるワシと繋がっておいて損は無いと結婚の申込もそろそろ来るころだろう…ニーナがどう思っているのかを知っておきたいと思ってね」
「私は!お父様には申し訳ないけれど貴族のお茶会や社交界に興味も無ければ、結婚に関しても興味はありません。このままラウタヴァーラ辺境伯にいれたら…って思っています」
「なるほど……しかし……今のままというのは貴族社会が許さないだろう……社交界がイヤ…なんだね?じゃ、帝国学校の高等部に進学する…というのはどうだろうか…実は第一王子の婚約者のエリザベス嬢が進学する事になったんだが…」
(ほうほう)
「あまり女性が進学しないという事は知っているよね?
つまり、進学する女性は大体が身分が低い。貴族であっても男爵クラスだ。学友にふさわしいかどうかとなると微妙なんだ。そこで……」
(ゴクッ)
「今は高位貴族子女も進学しないかと声をかけられているんだが…
婚約者と結婚するだの、社交界で婿を探さないといけないからと中々いい返事がもらえなくてな……何より肝心の学力がな……
ニーナ、ラウタヴァーラはチャーリーに任せて高等部に進学しないか?」
「えぇぇぇぇぇっっ!?」
「ニーナはお茶会嫌いなんだろ?
学校があればお茶会…出なくていいんじゃないか?」
「社交界だって勉学が忙しいという事にしたらそんな強要はされないんじゃないか?」
「お…おぉう」
「何より学校にいる3年間は結婚という事は無いという事だ」
「決めました!進学します!はい!よろこんでぇ!」
どこぞの居酒屋のような返事をしてしまった。
こうしてニーナの高等部進学が決まった。
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