第22話 鼻が!鼻がぁぁっ!ブヒッ!
収穫から1週間後
アーロンの母が帰らぬ人になってしまったという知らせをもらった。急いでアーロンの実家に向かう。
ドアを開けるとベッドに横たわる母親を見つめてアーロンが佇んでいた。あまりの悲壮感に
「アーロン!」
駆け寄りアーロンを抱きしめた。
(あ、あれ、アーロンを抱きしめるといつも肩におでこが乗っていたのに、肩に顎が乗っている……身長が伸びてる)
それでも悲しみの方が上で頭をくしゃくしゃにしながら
「大丈夫?」
ふっと顔をあげこちらを見るアーロン。目には涙が溜まっているがこぼれ落ちるほどではない。もうたくさん泣いた後なのかもしれない。
丸くかわいいという印象の顔だったのがシュッとスッキリして男の子から少し男っぽく成長してた。
「ん、大丈夫。最期は本当に眠るように逝けたんだ。『ありがとう』って……
ボクを家に戻してくれたニーナにも感謝していたよ……」
スンッと鼻をすすりながらも話してくれた。その泣くまいという健気な姿にこちらが涙をこぼさずにはいられなかった。アーロンがハンカチで拭いてくれる。
「逆だよね」
ズビッと鼻をすすりながらフフッと笑う。笑った顔はやっぱりよく知っている笑顔
(あぁ、アーロンだ。会いたかった)
手をぎゅっと握る。ご近所の方も来てくれてお墓に埋葬した。アーロンも気丈に振舞っており、滞りなくお母さんを見送る事ができた。
形見分けもして、ほとんど荷物は家から無くなっていた。ガラーンとした家を眺めるアーロン。
きっといろんなシーンのお母さんが家の中を巡っているんだと思う。何かを言う事もなく静かに。私も静かにお母さんとの思い出を辿るアーロンを見守った。
気持ちの整理がついたのかピッと背筋を伸ばしたアーロンはペコリと家の中に向かってお辞儀をする。くるっと振り返りニーナの方を見ると
「うん!僕たちの家に帰ろう!」
笑顔で言ってくれるもんだから、ニーナの方が泣けてしまって
「ヴン。がぇろぉ。ズビッ」
鼻まで鳴っちゃって結局またフフッと笑ってしまった。
馬車でも何を喋るわけでもなく無言で帰路につく。疲れ切ったアーロンはそのまま部屋に向かい寝てしまった。
翌朝アーロンが起きてきて
「えっ!家の使われている場所が縮小されている?
あれ?そういえば昨日乗っていたのって牛じゃなくて馬だった?
あれ?どういう事?
っていうかこの人誰?」
テッドを指さしパニックなっているアーロンにデニスの事から説明する事になったのは言うまでもない。
「なんで教えてくれなかったんだよぉ!」
「お母様の看病に力を入れて欲しかったのよ。ごめんね」
「わ、分かったけどさ、ニーナ専属護衛っていうのは何なの?
そんなの今までいなかったじゃん!跡継ぎのボクにだっていないのに!」
「ふふっ。実はねアーロンにも護衛は付けていたのよ」
「えっ」
「お隣にダニエルっていう男の人いたでしょ?彼は実はずっと貴方たち親子を見守ってくれていたのよ」
「そうだったのか!やたら親切な人だと思っていた」
ショックを受けるアーロンの姿は以前と変わらず可愛いためふふふっと笑いが漏れてしまう。
それを見てむぅっと拗ねる姿も変わらず可愛いらしくホッとする。
「じゃ、ボクの護衛のダニエルは今はどこにいるの?」
「昨日、撤退だった為、あちらの片付けをしていると思います。本日は私が二人を護衛させていただきます」
テッドが朝から眩しいオーラをまき散らしながら答える。
「そういう貴方は誰?なんていうの?護衛っていう割になんで一緒に食卓を囲んでるの?」
不機嫌なままアーロンは聞いてくる。スッと椅子から立ち上がり胸に右手を当て礼をした後
「テッドと申します。シルヴィオ団長からニーナ様の専属護衛に任命され
この屋敷に滞在させていただいております。
ニーナ様が一人での食事は寂しくて食べた気がしないと
一緒に食卓を囲む許可をいただいてこうして一緒に食事をいただいております」
「ふーん。あっそ。じゃ、これからはボクがいるから
もう食事は一緒に囲まなくてもいいよね?」
(うーん、でもきっとテッドは貴族出身だろうしなぁ
あまり雑に扱うのもなんか怖い気がするんだよなぁ)
「アーロンの言う事も分かるけど、多い方が楽しいから、
このままでいいんじゃない?ね、アーロンお願い」
眉尻を下げてお願いしてみる。
「わかったよ」
むっとしていて納得はしていないようだけど聞いてくれた。
「感謝いたします」
ニコッと笑顔を見せ丁寧にテッドは頭を下げ、また食卓に着いた。それがまたアーロンには面白くなかったようだが許可してしまった手前、撤回する訳にもいかないため渋々と食事を続けた。
朝の鍛練でテッドにはまったく敵わなかったらしく
「久しぶりにやったからだよ!もう一回!」
ライバル心むき出しでテッドに何度も挑戦する姿を見れたので仲良しではないけど悪くはないようでホッとした。
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