第15話

 亮太たちは梶井に言われて、職員室から窓の外を眺める。背中に教師たちお好奇の視線を感じたが、亮太たちは無視した。校舎からはグラウンドの様子がよく見える。

 ちょうど部員たちはアップを終え、八対八のミニゲーム形式で試合を始めようとしている。

 釜本がキックオフの笛を吹いた。

「どっちを応援する?」

 裕介が優太に聞く。

「青だな。青に百円」

「じゃあ俺は、赤に二百円だ」

「真剣に見ろ」

 亮太が二人に言う。

「金が掛かった方が、より真剣になるさ」

 しかし裕介がそう笑った。

 試合は特に目立つことなく進んでいく。全員下手ではないがとびぬけた選手もいない。県で見れば中堅校、全国レベルなら弱小校であるのも納得だった。

「どう思う?」

 亮太の隣で窓枠に体重を預けている梶井が聞いて来た。

「そうだな、良くも悪くも直感でプレーしすぎだ。その場その場でなんとなく良いと思った選択をしているだけ。誰も頭を使っていない。これじゃあ、勝てないだろう」

 亮太は続ける。

「例えば、あの青のサイドバック。あいつはたぶん、キーパーがボールを持ったら広がってパスを受けるように教えてもらい、その通りに行動いる。しかしそのせいで最終ラインが下がってしまって窮屈だ。あれじゃあ、パスを貰っても繋げないし、毎回同じ位置にいるから相手も読みやすい」

 そう言った直後、青のキーパーが例の選手に転がしたボールを赤の選手がカット。そのまま得点した。

「よっしゃぁ」

「くそが」

 裕介の歓声と優太の悔しがる声が上がる。

「なるほど、面白いな」

 梶井が言った。

「もし君が青チームの監督ならどうする」

「下手にボールを繋がず、相手陣地に蹴り込む」

「サッカーでは一般的に後ろからボールを繋いだ方が良いとされるはずだが」

「確かにそうだが、力量差があったり、後ろの選手の技術がないのに繋ぐ意味はない。練習試合ならばためになるかもしれないが、結果が必要な試合なら、さっさと蹴ることも選択肢の一つだ。労力は増えるが、無駄なリスクを負う必要はない。さらに相手の事故を誘うことも出来る」

「グランドリーグでもそうするのか?」

「それは相手次第だ」

「大会に出てくる相手は強いぞ。特に、三連覇中の永赤高校は今年も優勝候補筆頭だ。ここを倒さなければ優勝はない」

「永赤って、毎年プロを何人も輩出している北の強豪か」

「そうだ。今年も傑作揃いらしいぞ」

 横から聞いた優太に梶井が答える。

「このチームを見て、勝てると思うか?」

 梶井が亮太に聞いた。

「このままじゃ、駄目だろうな」

 亮太が言う。

「だが俺たちが入れば、勝てる」

 その時、赤が一点を返したかと思うと、立て続けに追加点を決め逆転した。

 賭けに勝った裕介がガッツポーズをし、裕介が崩れ落ちる。

「また彼女に怒られるぜ」

 裕介は頭を抱えていた。

 

「昼からはあいつらの練習に合流じゃなかったのかよ」

 そう言いつつ拓実が境内に倒れ込んだ。木の葉の屋根に覆われて、火が差し込まないのが不幸中の幸いである。

 亮太たちは練習を再開すると、慎司のバイト先のさらに奥にある山の中にやって来た。その中腹にはお寺があり、そこまでの坂道は走り込みに適した傾斜となっている。

 その道を裕介たちが続々と登って来た。坂はコンクリートで舗装されて入る者の、傾斜は優しくない。

 みな登り切って平面の境内に入った途端に膝を突いたり座り込んだりしている。

 全員上がって来たのを見て、梶井が言った。

「よし、もう一本だ」

「あんた鬼か」

「梶井さん、俺もう限界です」

 拓実が大の字で森の屋根を見上げながら言う。

「なら猶更もう一本だ。いいか限界だと思ってからが勝負だ。今頑張った分だけ成長につながると思え」

「はい」

 亮太たちは返事をすると、立ち上がった。慎司と裕介の二人で拓実を引っ張り起こす。

「高校サッカーは中学の時より、試合の時間が長い。それ故に、まずものを言うのは戦術でも技術でもなく体力だ」

 結局その後、五本も坂を登らされた亮太たちはもれなく境内に倒れこむ。落ち葉と土の冷たさが心地良かった。

「一年ろくに運動をしなかったつけが回って来たな」

 裕介が言う。

「昨日徹夜するんじゃなかったぜ」

 優太が吐きそうになりながら言う。その時、境内の奥を見ると、拓実がすでに木陰に隠れてランチをリバースしている所だった。

「お前たちにはこれから毎日、この走り込みをしてもらう。さらにこの後の外周も同様だ」

「もうやだ。僕つかれ、た」

 博明が息絶えるように呟いた。

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