第23話
博明は朝早くに家を出て、いつものショッピングモールにやって来た。昨日母親にオフがあることを伝えると、久しぶりにお小遣いを貰えたのである。理由はサッカーを頑張っていて安心したとのことだ。やっぱりサッカーは良いなと博明は思った。
だが博明は不思議に感じている。今日はショッピングモールの中が暗くて、いつもは近づくと開く扉が開かなかった。
なぜかなと考えながら二時間ほど待っていると、職員さんが現れて扉の奥に会った看板が回収される。そして扉が開く。時計を見ると九時ピッタリだった。
「ちょうど九時に扉が開くなんて」
博明はなんだかラッキーだなと思いながら、入ってすぐの猫カフェに向かう。
いつも通りガラスに近づくも今日は中々、猫が寄って来てくれなかった。
なんでだろうと思っていると猫ではなく、店員さんが寄って来てくれる。
「今日は早いんですね」
そこで博明はお金を持っていることを思い出し、ポケットから取り出したお札を店員さんに渡す。
「お時間はどうされますか?」
店員さんが聞いて来た。
博明は腕時計をつけているなら自分で見ればいいのにと思いつつも、壁の時計を指差す。
「今は九時ですよ」
すると店員さんはいつものように眉を顰めて、苦笑いを浮かべる。この店員さんの笑顔はユニークで面白いと博明は思った。
「では、帰る時にまたお声掛け下さい」
そう言って店員さんがそさくさと店の中に入っていく。代わりに
男の店員さんが来て、二重になっている扉を一つずつ一緒に潜ってくれた。
するとついにガラスの内側に入ることが出来た。
お飲み物はどうされますかと聞かれたので喉は乾いていないと言う。すると男の店員さんは厨房の方へ帰っていく。
博明は店内にいる猫たちに目を奪われていた。博明は早く猫たちとおしゃべりしたいという想いをぐっと堪える。
「びっくりしちゃうから、猫ちゃんには自分から話しかけたら駄目」
それが、博明が今まで動物たちと交流してきた経験から学んだことだった。
そこで博明は一人がけのソファに座ると、じっとして待っていた。するとしばらくして、この前ガラス越しに対面した猫が寄って来てくれる。茶色の毛が温かい印象の、それでいて頭のよさそうな顔をした猫である。
猫はぴょんとジャンプをすると、博明の膝に飛び乗った。
博明は猫のおでこを撫でる。
「あれ今日はフサフサなんだね。いつもはツルツルなのに」
博明が言った。
「にゃー」
猫が鳴く。
すると博明の笑顔がパッと咲いた。
「今日は話してくれるんだ。いつもは全然喋ってくれないのに。人見知りは克服したの?」
博明が優しい声で聴くと、猫はまた「にゃー」と返した。
「そうかそうか」
そう言って博明が猫と話していると、他の猫も博明のもとにやって来る。店内には色んな猫がいた。
毛が長い猫と短い猫。黒い猫と白い猫。足が長い猫と短い猫。激しく飛びついて来る猫と、おとなしく佇んでいる猫。
猫たちは足にすり寄って来たり、膝に飛び乗って来たり、手をなめて来たり、服を噛んで来たりした。
でも博明はそんな猫たちをみんな受け入れて言う。
「人間みたいだね」
厨房の窓から店内の様子を見ていた男の店員に、女性の店員が言った。
「あんなに楽しそうな猫ちゃんたち、始めて見ました」
「きっと彼の純粋な優しさが伝わっているのだろうね」
そこで博明は語り始める。
「僕ね、今度サッカーでグランドリーグっていう大会に出るんだ」
「にゃー」
猫のうちの誰かが、相槌を打つ。
「僕たちが優勝しないと学校が無くなっちゃう大事な試合なんだって」
「にゃー」
「だからね僕頑張るよ」
「にゃー」
「もしよかったら、みんなも見においでよ。確か、大阪って言う場所でやるみたいだからさ」
「にゃー」
「うん。楽しみにしててね」
「にゃー」
その後博明は三時間ほどたっぷり猫たちと話した後、店を出た。二重の扉を一つずつ潜った後、店員さんから小銭を渡される。
「これお釣りとおまけです」
博明は断ったが、女性の店員さんは博明の手に小銭を握らせた。博明は猫と話せた挙句お金までもらって申し訳ないと考えたが、ラッキーだと思うことにした。
そうやって帰ろうとすると、店員さんが言う。
「あの………またいらしてください。うちの猫ちゃん達も楽しんでたみたいなので」
「もちろん」
博明は言った。
「試合が終わったら、みんなに感想も聞かないといけないしね」
博明はそのまま猫カフェを後にした。
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