第24話
蓮と拓実はこの前ボウリングにも行った同じクラスの女子二人を連れカラオケにやって来ていた。駅前にあるビルの四階。狭い部屋にエル字型で並んだソファの各辺に男女で別れて座る。
「次の曲誰―?」
女子二人がノリノリでKポップを歌い上げると、年末のテレビでよく歌われる演歌が流れ始める。
「僕だよ」
拓実がマイクを持って立ち上がった。
「普通に選曲きもいんだけど」
手前の女子が言う。
「それな。テンション下がるー」
それにもう一人の女子が続けた。蓮は暗い室内だが拓実がにやけているのを見る。
だが拓実が歌い出すと室内の空気がちょっとだけ変わった。拓実は渋い声で歌い出したかと思うと心地良い位置にこぶしを入れつつ歌っていく。声量でも他を圧倒しており、声の伸びは清流のように澄んでいた。
その上手さは、演歌歌手さながらである。
「なんでお前、そんなにうまいんだよ」
蓮がマイクを通して聞く。エコーのかかった声が室内に満たされた。
「おじいちゃんが歌を習っていて、僕も一緒に練習してたんだ」
間奏の間に、拓実はマイクを外して蓮に言った。
女子二人は文句を言いたそうだったが、歌のうまさ故に言いにくそうである。
蓮は歌が上手いのは女子二人に罵られることが無く、拓実にとってはマイナスなのではと思う。だが当の本人は気持ちよさそうに歌っているのでそれはそれでありなのかもしれない。
そこで拓実が歌い終えると、得点が表示される。映し出された数字は四人の中でもぶっちぎりで最高得点だった。
「え~、私が最下位じゃん」
奥の女子が言った。
「しかも罰ゲーム決めるの、拓実君なんだけど」
蓮たちは得点が一番低かった人が高かった人の決めた罰ゲームをするという遊びをしていたのだ。
「あっ」
そこで拓実の叫び声がマイクを通る。三人は耳を塞いだ。
「急に大声出さないでよ」
最下位だった女子がガチトーンで拓実に注意する。だが拓実は半ばパニックに陥ったようで、蓮につかみかかった。
「どうしよう。僕が勝ったら罰ゲームを受けられないじゃん」
拓実が小声で蓮に言った。
「知らねぇよ。今更気づいたのか」
蓮が返す。
「でも可哀そうだよ。女の子が罰ゲームをやらされるなんて」
「お前が優しい罰ゲームを決めれば良いだけだろ」
「それじゃあ盛り上がらないだろ」
「演歌を熱唱した奴が言う台詞か?」
「とにかくこのままじゃやばいよ」
拓実がそう焦っているので、蓮は仕方なく立ち上がった。
「今の勝負は歌った曲の難易度に差があったし、次の曲で本当のビリを決めるのはどうだ?」
「え?いいの?」
奥の女子が言った。
それに蓮が頷くと、もう一人の女子が声を上げる。
「さすが蓮君。可哀そうな女の子のために、そんなことまでしてくれるなんて。どっかの小太り演歌野郎とは違うわー」
蓮が拓実の方を見ると、ニヤニヤしているようだったので勝負は次の曲に持ち越しとなった。
その結果、一度しか聞いたことのない曲を歌った拓実が見事に敗北し罰ゲームが決まる。
「やったぁ」
「せっかくだったら、蓮君に罰ゲームして欲しかったけど、まあいいや」
勝負に勝つと女子二人はさっきまでのことが無かったかのように喜んだ。
「じゃあ罰ゲームは、今まで私たちにも言ったことのない秘密の暴露で」
「いいじゃん、それ」
奥の女子の提案に、手前の女子が跳ね上がる。
「そんなのないよ」
拓実が困ったように眉を顰めるが、内実は嬉しそうである。
「一個くらいあるでしょ」
「そうだなぁ」
そう言いつつ、拓実が立ち上がる。
「これは言っちゃいけないって言われてるんだけど」
拓実がマイクを持って発表しようとしている。蓮は嫌な予感がした。
「実は俺たち、グ………」
そこで蓮が拓実のマイクを奪い取る。
「おい、それは言っちゃいけないって亮太に言われただろ」
蓮は拓実に耳打ちした。
「だって秘密の暴露なんだから、言っちゃいけない事を言わないと意味がないだろう」
蓮は溜息を吐く。
「とにかく違うのにしろ」
「他に秘密なんてないよ」
「実はボウリングが上手いとかでいいじゃないか」
「そんなこと言ってもしらけるだけだし、次から手を抜けなくなるだろ」
蓮が頭を掻く。
「どうしたの?」
横から女子二人が聞いて来た。
「いやちょっと、俺たちの秘密を言って良いかどうか話し合ってたんだ」
蓮が咄嗟にそう言った。
蓮はてっきり、
「え~、言ってよー」
と女子たちの催促する声が返って来ると思った。
しかし実際に返って来たのは予想外の内容である。
「もしかして、グランドリーグの事?」
手前の女子が、周知の事実を述べるように言ってきた。蓮は言葉を失う。
「どうしてそれを?」
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