第34話

優太のゲーム仲間はゲーミングチェアに座り、モニターの画面でグランドリーグを見ていた。机の上にはすでに、涙を拭いたティッシュが転がっている。

「なんでこいつら、こんなに楽しそうにサッカーしてるん?」

 ゲーム仲間はこの前大会で優勝したチームメイトたちに話しかける。全員それぞれの家から優太の勇姿を見守っていた。

「俺たちだってゲームやってるとき、楽しいやろ?優太たちにとってはサッカーも同じなんだよ。ゲームをする時みたいに、一位を目指して仲間と戦う。楽しく無い訳ないだろ」

「そうやな」

 その時、優太がボールを持った。

「いけいけぇ」

 ゲーム仲間が叫ぶ。優太はその声が届いたかのようにドリブルを始めた。試合も後半になると、さすがに優太は警戒されマークも厳しい。優太はすでに三人の選手に囲まれている。

 ゲーム仲間は手に汗を握った。優太にとっては苦しい状況である。しかし裕介はそんな状況を楽しむかのように笑っている。

ゲーム仲間もなんだか笑えてきた。

「こいつ、笑ってやがるぞ」

 優太がボールをインサイドで軽く触った。そうして僅かにずらしたボールを相手はチャンスと見て突きに来た。

それを見計らい、優太がアウトサイドでボールを切り返す。ディフェンス三人は見事に逆を取られてしまった。ディフェンスの間を抜け優太は三人を置き去りにする。

「よっしゃあ」

 音声通話が盛り上がる。

 勢いに乗った優太は左サイドを駆け上がると、ペナルティエリアの角でセンターバックに一対一を仕掛けた。

相手のセンターバックは優太の誘いに乗らず、じっと機を伺っている。静かな緊張感が二人の間に生じた。優太がタイミングを伺っている。

センターバックが大きく息を吐いた。

それと同時に優太はステップを踏むと、その反動を加速した。相手も慌てて、それについていく。

しかし優太が急停止した。優太はボールを蹴っておらず、体だけを動かしていた。フェイントに引っかかった相手は慌てて戻るも間に合わない。

優太は中に切り込むとシュートモーションに入る。

ゲーム仲間は動かない右足と、机に立てかけてある杖をじっと見つめた。膝の上でこぶしを握り込む。

優太の放ったシュートはカーブしながらゴールの右隅に飛んでいく。相手ゴールキーパーの手は届きそうになかった。

コンッという小気味良い音と共にシュートはゴールポストに当たる。

「あーーー」

 ゲーム仲間は悔しさで頭を抱える。

 画面上で優太も悔しそうに太ももを叩いていた。しかしその顔は満面の笑みを浮かべている。優太のもとに裕介がやって来て、頭をはたいた。裕介も笑っている。

「どいつもこいつも、楽しそうにしやがって」

 ゲーム仲間は笑った。


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