第12話
またもや休憩を挟んで、さらに練習は続く。いよいよ、ポジションに分かれてのメニューだった。
まずはざっくり、オフェンスとディフェンスに分かれる。ミッドフィルダーはオフェンス側で参加となった。
亮太はミッドフィルダーであるため、オフェンス側の釜本の所に行く。釜本は体育館側のゴール前にいた。
ディフェンス陣は反対側にいるもう一人の顧問のところに集まっていた。
ディフェンスは早くも練習が再開しているらしい。亮太が見ると、顧問の先生が博明にドリブルを仕掛けていた。ぐんぐん迫る先生だったが、博明は棒立ちである。
そのまま先生が博明を通り過ぎ、シュートを決めるまで博明は動かなかった。
「おい、あいつらはまだか?」
釜本が亮太を睨む。
「あいつらって?」
「谷本と榊原のことだ」
なぜか亮太に怒り声を上げる釜本に、亮太はドンキーコングのように手を挙げてみせた。
「裕介は彼女から電話が掛かって来て、部室で土下座してます。優太は疲れたからゲームをするそうです」
「するそうですじゃないだろ。お前があいつらを引っ張って来い」
「無駄ですよ。どうせ引っ張っても動きません。終わったら来るだろうから、先に練習を始めた方が良いかと」
「なにっ」
釜本は頭に角を生やしたようだが、亮太と慎司は無視して準備を始める。
行われたのはシュート練習だった。ゴール横の選手からパスを貰い、トラップしてシュート。シンプルである。
「キーパーは我が向影学園三年、正ゴールキーパーの青田にやってもらう」
釜本がゴール前に立つ手足の長い生徒を自慢げに紹介した。
亮太はかつてチームメイトだったため、青田の名前くらいは知っている。だがなにせサッカー部に所属していたのが短かったため、実力のほどは知らなかった。
亮太の番が始まる。
「お手並み拝見じゃねぇか」
そう言うと亮太は慎司からパスを受け、トラップ。少し流れたが、問題なく右足を振り抜いた。
カーブのかかったボールは、弧を描いてゴール右隅に吸い込まれる。キーパーの青田は外れたと判断したのか、動くことさえしなかった。
亮太がいとも簡単にゴールを決めてしまい、釜本は開いた口が塞がらない。どうやら顎が外れてしまったようだ。感情豊かな人である。
亮太もあっさり点を取れてしまったため、拍子抜けだ。
「おいあれが内の正ゴールキーパーで大丈夫か?」
「安心しろ。今のはたまたま。ここからは一本も決められまい」
釜本が言った。
結局、亮太は十本中八本のシュートを決める。釜本は完全に黙り込んでしまった。
パスを出し終えた慎司が戻って来る。
「あんなのでグランドリーグを戦えるのか」
「この距離でのセービングが苦手なのかもしれないな」
「蓮にミドルをフリーで打たせるなって忠告しないと」
慎司がそう言いつつポジションに着く。
亮太もボールを集めてゴール横に向かった。
準備が整うと、慎司の番がやって来る。
「亮太なんかに、絶対負けねぇ」
慎司はそう言うと、亮太からのパスをトラップし、ボールの中心を蹴った。ボールは物凄い速さで飛んでいき、青田の手を弾き飛ばしながらネットを揺らす。
「よっしゃぁ」
慎司の叫び声が轟く。
その後も、慎司の番は続いた。
「死ね」
「このやろう」
「俺はお前なんか、大嫌いだ」
「ぶっ殺す」
慎司はシュートを放つ度、何かしらの暴言を吐いていた。
パスを出し終えると亮太が慎司と釜本の元へ戻る。
釜本は亮太が十本中九本のシュートを決めたことで完全に項垂れていた。
「見たか、俺のシュート。お前は全然、決められなかったみたいだな」
慎司が亮太に言う。
「その調子で本番も頼むぞ」
「悔しくねぇのかよ」
「俺はフォワードじゃないからな」
「つまんねぇな。なんであんな強いシュートを打てたか気にならないのか」
「興味ないな」
「お前の顔を想像したんだよ。ボールを亮太の顔だと思ったら、自然と力が入ったぜ」
「大会が終わった後、命があると思わない方が良い」
亮太が言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます