第11話
ようやくアップを終えると、次は基本的なパス練習に入る。チームを半分に分け、向かい合わせの列を作った。一方の列の先頭が、もう一方の先頭にパスを出し、その後走って相手の列の後ろに加わる。これを繰り返す練習だった。
パスは亮太から始まり、まずまずの出来である。と思った矢先、慎司が次の博明に向かってボールを蹴った。
そのパスは博明の僅かに右へと逸れる。しかし、博明が足を伸ばせば届く距離だった。
しかし博明は足を伸ばすどころか、ただじっとボールを見つめている。ボールが横を通過し、後ろへ流れて行ってもボールを追っていたのは首と目線だけだった。
「あ~、悪い。忘れてた」
パスを出した慎司が言った。慎司がバチンと手を叩く。
「博明、今のはトラップだ。トラップ」
「トラップ」
博明が繰り返す。
ボールを取りに行った蓮が再び慎司にボールを渡す。
慎司が今度は先ほどよりゆっくりとパスを出した。そして、それと同時に叫ぶ。
「博明、トラップだ」
まるでポケモンに指示を出すかのように慎司は言った。すると博明は言われた通り、ボールをトラップした。
「次は優太にパス」
慎司が言うと、博明は優太にパスを出す。
「ナイスパスだ」
後ろの蓮が声をかけると、博明は喜んだ。
「それじゃあ、今度は亮太の後ろまで走るんだ」
蓮がそう言うと、博明は陸上選手さながらの全速力で亮太の後ろへと走っていった。
そこにバインダーを手にした釜本が近づく。
「どうして、最初のパスにトラップしなかった」
「先生僕のパス上手かったでしょ。もっと褒めて」
博明がとんちんかんな事を返す。
すると後ろにやって来た蓮が口を挟んだ。
「こいつは自分で判断してプレーをすることが苦手なんだ。だから俺たちが指示しないと動けない」
そう言われて、釜本は目を見開いた。開いた瞳孔で真っ直ぐと博明を見る。
「博明、トラップだ」
また博明の番が回って来た。
「でもよく見てな。こいつは指示されたことは誰よりも完ぺきにこなすぜ」
蓮が後ろから付け足す。
すると博明のもとにボールが転がって来た。博明は先ほどの目つきが嘘のように集中してボールを見つめる。
やがてゆっくりと足をおろし、ボールを完璧に止めて見せ……はしなかった。
博明はボールを見すぎたあまり、足をあげている間にその下をボールが素通りしてしまう。
博明を通過したボールを、蓮がトラップした。
「まぁ、こういうこともある」
蓮が言った。釜本は無意識のうちに溜息をこぼす。
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