第10話

 翌土曜日の午前。初夏の日差しが差し込む中、体育教師釜本の前に半円を描くようにして亮太たちは並ぶ。それぞれ久しぶりの練習着に袖を通し、その上からポジションごとにビブスを着ていた。スパイクを履きレガースをつけるのも久しぶりな彼らは自然と背筋が伸びている。

「まずはアップだ。グラウンドを一周走って来い」

「はい」

 バインダーを持った釜本が言った。亮太たちが、各々走り出す。

「みんな、待ってよ」

 出遅れた拓実が肉を揺らしながら、必死についていく。

 慎司や裕介が涼しい顔で走る中、半周を過ぎたあたりで他の面々の顔が曇る。

 特に拓実は最後の方になると、呼吸は乱れ腕の振りすらままならない状態だった。優太も平静を保とうとしているが、遊園地のアトラクションかのように肩が上下している。

 亮太も二人ほどではないものの、息が上がっていた。

 裕介を先頭に、校庭を一周したものたちが続々と元の位置に戻って来た。

 亮太は膝に着いた自身の手の甲を見つめる。浮かび上がった血管が不気味だった。認めたくなくても認めざるを得ないようである。亮太たちは長い間サッカーを離れ、著しく体力が低下していた。

「しゃきっとしろよ、しゃきっと」

 慎司が拓実の肩を叩くが、拓実は言い返す余裕もないほど息が上がっている。

 優太もいつも通りに見せようと必死に呼吸を整えていた。しかしそれが余計に、彼の受けた衝撃を伝えている。

 釜本は額に手を当てるしかなかった。

「これが本当に、元日本一のチームなのか」

 そんな釜本の下に、亡霊かの如く、あるいはゾンビのようになった拓実が手を伸ばす。

「先生、我らに休憩と命の水を与え給へ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る