第9話
「よし、全員そろったな」
昇降口の前で亮太が確認する。
「おう」
裕介が返事をするが、声には覇気がない。肩も明らかにすぼんでいた。
「準備オーケーだよ」
腕の中に野良猫を抱えてきた博明が言う。
「あっ、待って、暴れないで」
すると抱えていた猫が暴れ出し、博明の腕から抜けてしまった。猫は着地すると、速足で校門の方へ向かっていく。
追いかけようとする博明を優太が捕まえた。
するとそこで拓実がなぜか転んだ。
「何してるんだよ」
慎司が拓実に言う。
「ごめん、さっきまで罰ゲームで足を縛られてたから」
「何だよそれ」
起き上がる拓実を見て、慎司が笑う。
「よし、行くぞ」
そう言うと、亮太が歩き出す。それに全員が続いた。
「本当にあいつらが、日本一位を取ったのか?」
廊下で昇降口での亮太たちの様子を見ていた谷崎が、梶井に言う。
「サッカーの実力に関しては間違いないでしょう」
「信じられないなぁ」
谷崎が腕を組み、眉を顰める。
「嵐山さんは理事長たちと、もしサッカー部が大会で優勝できなければ売却に賛成するという契約を結んだそうです」
「つまり、彼らに託す以外の道は閉ざされたと?」
「もはや準優勝も初戦敗退と同じです。彼らは勝つしかない」
「厳しい戦いになりそうだな」
「今は彼らを信じるしかないでしょう」
「みんなに集まってもらったのはそういう訳だ」
空き教室で長方形に机を並べ、亮太たちは向かい合うようにして座っていた。
黒板前で腕を組んでいる梶井からの説明を終え、亮太が立ち上がる。
「俺は麻衣のためにも、もう一度公式戦に出ようと思う」
そう言うと、四六時中騒ぐことしか脳にない連中が珍しく黙り込んだ。それぞれ真剣な表情を浮かべている。みんなの頭の中に直哉の顔が浮かんでいることが亮太には分かった。
「俺はキャプテンの指示なら、従うよ」
優太が言った。亮太の呼び方が、昔のキャプテンに戻っている。
「確かに、俺がいないとお前が暴走した時、止める奴がいないからな」
さっきまでシュンとしていた裕介だったが、いつの間にか威勢が戻っていた。
「そうするしか、麻衣ちゃんを助ける方法がないんだよね?」
拓実が言った。
「俺は、お前たちの判断を信じる」
蓮が続ける。
「麻衣ちゃん、助ける。公式戦、公式戦」
博明が言った。
「お前はどうだ」
亮太が慎司に聞く。
「やるよ」
「決まりだな」
亮太は梶井の方を見る。
梶井は静かに頷いた。
「では明日から早速、練習に参加してもらう。明日はまず、君たちの実力を見せてもらう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます