第43話

 裕介らは百沼の監督に従い、部屋の奥へと進む。404号室は裕介たちの部屋よりもグレードが高いようで、中の作りが違った。

 まず部屋を進むとテレビのある居間のような部屋がある。そこには扉が三つあって、正面の扉から応接室のような部屋が覗いていた。そこには座り心地がよさそうなソファとテーブルが置かれている。そして左手側奥の扉は寝室に、もう一つはウォークインクローゼットに繋がっているようだった。

「あいつのファッションセンスにこの馬鹿でかいクローゼットは宝の持ち腐れも良い所だ」

 慎司が裕介に耳打ちをする。

「俺がベンチを温めているようなものだな」

 生意気な後輩は言った。

「そこの部屋に入ってくれ」

 向影の面々は言われるまま応接室のような部屋の中に入る。

「やあ」

 そこには一人の男がいた。

「なんか見たことある気がするけど、誰だこいつ?」

 蓮が言った。

 目の前の人物に会ったことのある慎司が説明する。

「うちの理事会の一人だ」

 猿のような風貌の来間はお誕生日席に座っていた。

 裕介たちは状況が呑み込めず固まってしまう。西園寺の酔いも完全に冷めたようだった。

 飲み物を乗せたお盆を持って百沼の監督がやって来る。

「君たちも好きに座ると良い」

 裕介たちは二人ずつに分かれてテーブルの左右にあるソファに座った。慎司と西園寺が奥側である。

 百沼の監督はテーブルの上にあった空のグラスを回収し、それぞれの前にお茶の入ったコップを置いた。

「これはちゃんとしたお茶みたいだな」

「そのようだ」

 慎司が西園寺に皮肉を言うが、西園寺は上の空で理解していないようだった。

 グラスを片づけてきた猫背が来間の正面にある席に腰かけた。

「見ての通り向影学園の理事会メンバーである来間さんも先ほどの柳審判との席におられました。我々は旧知の中でして、久しぶりの再会を楽しんでいただけです。怪しいことは何もありませんでしたよね。来間さん」

「冬川さんの言う通り。お酒を飲みかわし、昔話に花を咲かせただけだ」

 来間が言ったが慎司と裕介は怪しげな視線を向ける。

「なんであんたがここにいるんだよ」

 慎司が聞いた。

「今言った通り、旧友に会いに来たのだ」

「俺たちの運転手は用意しなかったのにか?」

「それは誤解だと言っただろ。私は何も聞いていなかった」

 慎司が来間を睨みつける。

 来間は飄々としていた。

「まあまあ落ち着きましょう」

 冬川が言った。

「お茶でも飲んでゆっくり話しましょうよ。明日は歴史的な試合を共に作り上げる仲間ですから」

「仲間内でいがみ合っている場合ではなかったですな。これはお恥ずかしい」

 来間はそう言うと、コップのお茶をお酒のように飲みほした。

「茶は人間関係の第一歩でしたよね?西園寺先生」

 来間が言うと、西園寺の背筋が伸びる。

「おっしゃる通りです」

 そう言うと西園寺は来間同様、お茶を一気に飲んだ。

「さあ、お前たちも飲むんだ」

 西園寺が慎司たちに促す。

 生徒たちそれぞれコップの中の液体を飲み込んだ。その瞬間、彼らは意識を失った。

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