第31話

 第一試合の会場はⅭコートだった。Ⅽコートはロッカールームを出てすぐの所にある。コートの金網の外にはすでに観戦と思しき人たちが集まっている。

 着替えを終えた亮太たちは、扉を潜って人工芝のグラウンドに足を踏み入れた。すると別世界にやって来たかのような心地がする。目の前には雄大なサッカーコートが広がっていた。

 対戦相手のチームは真っ赤なユニフォームを着て、すでにコート上でアップをしている。亮太たちも体を動かすため、足早にベンチへと向かう。

 すると拓実が突然転んだ。ドデンという音が聞こえてきそうな転び方である。

「おいどうしたんだ。また罰ゲームでも受けたのか?」

 慎司がすぐに言う。

「ごめん。緊張しちゃって」

 拓実はガクガクと足を震わせながら、立ち上がる。そして、ベンチとは反対側を指差した。

「だってほら。カ、カメラだよ」

 するとそこには、何人かの大人の集団がいた。そのうちの一人はテレビ番組で見るような大きなカメラを動かしている。また上からの画を取るためか、脚立に上りカメラを抱えている人もいた。さらにその人をサポートする人が数人、脚立の下に構えている。

「全国のテレビに放送されてるって思うと、足がすくんで」

 拓実は緊張からか、あまり顔色が良くないようだった。

「確かに中学の時も、インターネットで配信があっただけであんなカメラはいなかったな」

 蓮が言った。しかし本人はあまり緊張している様子はない。

 するとそのとき、前を歩いていた慎司が歩く速度を緩めて拓実の横に並ぶ。

 慎司は拓実の荷物を奪い取った。

「おい何するんだよ」

「あれ、やって来いよ」

 慎司が言う。

「直哉君がよくやってただろ。一人でピッチ走る奴」

 慎司が顎でピッチを示した。

 緊張しやすかった直哉はよく、「先に恥をかいておけば試合で緊張しなくて済む」と言ってグラウンドに入ると一人でピッチを爆走していた。慎司はそれをしたらどうだと提案したのである。

 拓実は慎司以外の顔を伺うが、みんなやってこいよと顔で伝えるので走り出した。

「うわぉぉぉぉぉ」

 拓実が叫びながら亮太たちの塊から抜け、一人ベンチへと猛ダッシュへ向かう。

 相手チームの視線が集まり、カメラマン達がくすくす笑っていた。

 拓実は恥ずかしそうにしていたが、亮太たちが追いついた時にはふっきれたようである。

「よっしゃぁ、絶対勝つぞー」

 拓実が拳を突き上げて、亮太たちは試合に備えた。

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