第45話 ブルードラゴン

 ドラゴンの姿を見て、ノアは剣を構える。

 どうやら逃げる訳では無く、戦う様子だったので、他のメンバーもそのつもりでドラゴンの様子をうかがう。


 ドラゴンはユリアン達が警戒しているのを察したのか、大きな欠伸をした後、その場でうずくまり、眠る様な仕草をする。

 しかしドラゴンの方も警戒しているらしく、チラチラと目を開けてユリアン達の様子を見ている様だった。


 膠着状態こうちゃくじょうたいのまましばらく時が経ち、ドラゴンに敵意がないのかもしれないと判断したノアが全員に声をかける。


 「あのドラゴンはたぶん、案内人だ」

 「案内人?」


 「竜の巣でもいるんだけど、ここを訪れた冒険者を導いてくれる者の事だよ」

 「それじゃあ、敵じゃないんだな?」


 「ああ、僕達を騙そうとしてない限りはね。 このダンジョンでのキーとなるのはエルフのイザベルだ。 ドラゴンに近づいて、話しかけてもらえるかな?」

 「ええ…… 怖いんだけど? みんなでいかない?」


 「それじゃあ、ゆっくりみんなで近づこう」


 全員でゆっくり近づくと、ドラゴンは首を持ち上げ、じっとユリアン達の方を見つめる。

 目の前まで行っても、特に何かしてくる様子もなかったので、イザベルが前にでてドラゴンに語り掛けた。


 「ええっと、ドラゴン…… 私達を導いてくれるのか?」


 ドラゴンはゆっくりと首を動かし、イザベルの前へと顔を持って行く。

 イザベルは恐れながらも、その顔を撫でてみると、地響きの様な低い声でドラゴンは言葉を話す。


 「汝を我の主人と認めよう。 我はリスティラ。 遥か昔に作られた人工のドラゴンだ」

 「リスティラ、私はイザベル。 みんなの事も紹介するよ」


 イザベルはリスティラにみんなを紹介し、リスティラから色々な情報を聞き出す。


 リスティラが言うには、この街はやはりセレスティアルエルフが神話の時代に築き上げた街を模倣したものであり、セレスティアルエルフ達はリスティラの様なブルードラゴンを作り出し、長きに渡って天空を支配し、繁栄した。

 しかし、ドワーフ達との戦争によって神の怒りに触れ、セレスティアルエルフ達の文明はついえる。


 そう言う話しだったのだが、ユリアンは少し気になり、リスティラに問いを投げかける。


 「神様の怒りってのはもしかして、魔人だったりするのか?」

 「魔人…… あの絶対的な力を持った巨人達をそう呼ぶのであれば、魔人である」


 「やっぱりそうなのか。 という事は…… アリスの両親はその時代の生き残りとかだろうな」

 「今、巨人達って言った? 当時のアリスと戦った僕からしてみれば、あれが複数いたなんて考えたくないな」


 「アリスの本体ってそんなにヤバイのか?」

 「純粋な力だけで戦えば、アリス一人で世界と戦えるくらいだよ。 アリエッタと協力して罠にめたからなんとか封印する事が出来たけど」


 とはいっても、アリスは味方にいるし、魔人が生まれる原因も分かってるので、心配する事はないとユリアンは悟る。

 そして、今はダンジョンを進む事が先決だと考えた。


 「イザベル、リスティラと一緒に俺達をダンジョンの奥へ導いて貰えるか?」

 「わかった。 リスティラ、出来るか?」

 「……いいだろう」


 心なしかユリアンは、リスティラが口籠くちごもった様に感じた。

 久しぶりに言葉を交わしただろうし、そんな事もあるかと思い、特に気にする事なく、リスティラに着いて行く。


 リスティラはダンジョンの奥へと進んでいくが、分かれ道の度にキョロキョロと見回し、低い声で「こっちだ」と言って、進んでいく。

 体が大きいせいか、罠なども回避出来ず、どんどん傷ついて行く。


 しかし、モンスターには強くあっと言う間にブレスで片付けてくれるので、戦力を温存出来て助かっている。

 だが、ユリアンはあまり深い所までいくつもりも無いので、モンスターとの戦闘経験もしたいので、次からは待機してもらう様に頼んだ。


 ダンジョンで出て来るモンスターは、実践してみると結構手強く、パーティーで無ければそこそこ苦戦を強いられそうだった。

 

 いくつか宝箱があったので回収すると、中からは見た事の無い薬の様な物などが出て来る。

 リスティラによると、エルフ達の使っていた美容薬らしく、日焼けの防止と絶大な美肌効果があるらしい。

 他には光を遮断する魔法具などがあった。


 更にダンジョンの攻略を進めていくと、少しおかしい事になってきた。

 リスティラに着いて行くと、何度も行き止まりにあたる。

 同じ道を何度も通ろうとするので、アンネからも指摘を受けた。

 様子がおかしいので、ノアがリスティラに尋ねる。 


 「リスティラ、道に迷ってるみたいだけど、君はこのダンジョンの案内人ではないのかな?」


 リスティラは低い声で、「違う」と言った。

 ノアは困惑する。

 そして、一つの答えに辿り着いた。


 「君ってもしかして…… 僕達と同じ様に、このダンジョンの入り口からここへ来たのかな?」

 「入り口からは入って来ていない。 作られたとは言え、我はドラゴンだ。 滅びた文明に取り残された我は、近しい場所を探し、ここへ辿り着いた。 我は次元を超える転移能力を持っている」


 それを聞き、ノアはダンジョンを引き返す事にする。

 理由は単純で、リスティラがこのダンジョンを攻略するには体が大きく、邪魔だったからだ。


 アンネの記憶を頼りに、入って来た扉へと引き返す。

 リスティラに取って、この扉は狭く、通れなかったので、転移門を使い無理やり外に連れ出す事に成功する。

 そのままダンジョンの入り口からも、同じ方法でなんとかリスティラを連れ出す事が出来た。


 ノアは、モンスターの強さも大体把握出来たので、今日の所はこれで解散し、また後日、みんなで攻略を進めると言う事に決めた。


 リスティラはイザベルを背中に乗せて、何処かへと飛び立って行ってしまった。

 

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