第46話 そして、復讐の鐘の音がなる

 ユリアン達はダンジョンの攻略が日課となり、ブルードラゴンのリスティラもイザベル以外の村人とも馴染み始めた。

 日課になったとは言っても、それ程ダンジョンの奥へは行かず、そうする理由は身籠っているアンネ、リンネ、イザベル、バレンシアが無理を無理をしない程度にとどめているからだった。


 ユリアン達がそんな感じで、ゆっくりとダンジョンの攻略を進めている頃、カルティナ達はアディン共和国にある、ロスモアの街で冒険者として活動していた。


 それ程大きな街ではなく、あまり稼げる仕事なども無いが、古い街並みは風情があり、カルティナは観光名所に来たような気分で楽しく過ごしている。

 中でも、街の中心にある大きな教会がお気に入りで、この街の象徴とも言える大きな鐘の音が鳴るのを見る為、何度か教会を訪れたりもした。


 だが、カルティナ達は四人共、かなり目立つ容姿をしているので、小さなロスモアの街では、活動してから間もないと言うのに、街中から注目される事となってしまった。

 そして現在、カルティア達は、この街で一番の宿の一室で、話し合いをしている。


 「やはり、仮面を被っていた方が良かったですわね」

 「そう? 俺達、今のところ少し注目されてるって感じだし、仮面被って息苦しいより、ずっと楽だよ」

 「オースティンは呑気ね。 姫様は美しいし、危ない人が近寄ってくるかもしれないでしょ」


 「確かに着いて来る人いっぱいいるけど、それなら俺達でなるべく一緒に行動して、カルティナを守ればいいんだよ。 あと、カルティナが綺麗なのは分かるけど、そっくりな見た目をしているエミリーもだからな」

 「そうね、私も姫様とそっくりと言うのなら美人だと思う。 まあ、一番危ない人引っ張って来そうなのは、ジュリアだけどね」


 「そうね! ジュリア罪な女の子だからぁん。 いっぱい変な男の人連れてきちゃうかも!」

 「ハイハイ。 ところで…… ジュリ姉の想い人ってのにはもう会えたのか? というか、もしかして人族なのか?」


 「会えてないけどぉ、この街に居るわよん」

 「へぇー、会いに行かないの?」


 「別に会いたいってわけじゃないのよねぇん。 ただぁ、どんな風に生きてるんだろって思って…… 様子を見ているのよ」

 「様子を見ているのか…… 女心ってよく分からないな。 俺だったら想い人っていうくらいなら絶対に会いに行くけどな」


 「オースティンちゃんの思ってる想い人とわぁ、違った感じだからねん!」

 「そうなんだ」


 四人で他愛のない話しをしている所に、コンコンッと、突然部屋の扉をノックする音が聞こえた。

 カルティアが「どうしました?」と返事をすると、宿の従業員が緊急の用があると言うので、中へ入って貰い、事情を聞く。


 従業員の話しによると、ロスモアにいる古い貴族が、是非会いたいと申し出てくれていると言う。

 その貴族とは、ロスモアの街が王国だった頃の王族で、この街で最も権力のある貴族であり、未だに街の人からは王族と呼ばれる一族である。

 カルティナは少し考えたあと、その従業員に返事をする。


 「あの、そう言うの迷惑ですので、断ったりは出来ませんの?」

 「私共からはとても…… どうしてもとおっしゃるのでしたら、会ってから直接言って頂けるとこちらとしても助かるのですが……」


 「まあ、そうですわね。 この街の権力者ですものね。 仕方ありませんわ。 直接おうかがいすればよろしいですの?」

 「いえ、実は既に馬車が到着してまして……」


 「今すぐ来いと言う事ですのね。 いいですわよ」

 「申し訳ございません。 では、入り口のフロアで待っておりますので、御用意出来たらお声を掛けて下さい」


 カルティナ達は直ぐに支度を整え、入り口付近にいた従業員に声を掛け、表で待っていた馬車へと乗り込む。

 馬車はすぐに出発し、ものの数分で目的地へと辿り着くた。


 街一番の権力者と言う事もあって、大きな屋敷だったが、城に住んでいたカルティナにとっては、田舎街に住む普通の貴族の屋敷と言った印象を受ける。


 使用人が屋敷の中へと案内し、客間の様な部屋へと通される。

 今となっては骨董品と呼ばれそうな机やソファーが置かれ、照明には年代物のシャンデリアが天井からぶら下がっていた。

 手入れは行き届いている様で、埃やカビ臭さなどはない。


 カルティナ達は掛けて待っている様に言われたので、そのまま待っていると、しばらくして部屋の扉が開き、王の様な出で立ちの若い男と、大きな布に包まれた荷物を持った男が入って来る。


 大きな荷物を持って来ていた男は、その荷物を置いた後、部屋の外へ出ていく。

 そして、もう一人の男は経ったまま、座っているカルティナ達に挨拶を始めた。


 「街中で噂になる程の美しい冒険者達が居ると聞いていたが、なるほど! 確かに美しい! 初めまして、私はこの街の領主であるパトリック・リーヴェ=ローゼンベ ルクだ」


 挨拶をされたので、カルティナ達も立ち上がり、一人ずつ自己紹介も兼ねて挨拶を返した。

 すると、最後にジュリアが自己紹介をした後、パトリックは彼女に熱い視線を向けて語り始めた。


 「そうか、君の名はジュリアと言うんだね。 私が出会う事はきっと運命だったのだろう。 私はずっと君に憧れていたんだ! この絵を見てくれ!」


 興奮気味にそう言って、パトリックは持って来ていた荷物の布を取ると、それは肖像画であり、貴族服を着たジュリアにそっくりな女性が描かれていた。


 「どうかな? 君にそっくりだろう? 私はこの絵を見て以来ずっとこの女性に心を奪われてしまっていた。

 この絵は600年前に書かれたものらしいのだが、これを運命と言わずして何が運命だろうか。

 ジュリア、冒険者を止めて私の妃になってくれないか?」

 「あらぁ? 運命でもなんでもないわよぉ? その絵の人物がどういう人物だったのかは知っているのかしらぁん?」


 「され、どういう人物だったのかまでは記録に残っていないので、私の知る所ではないが、ジュリアはこの人物の事を知っているのか?」

 「ええ、知っているわよぉ。 どういう人物か…… そうねぇ、白兎ラピンブランと言う種族の事は知ってるかしらぁん?」


 「それは知っている。 とても上質な毛皮をした白い兎の種族で、今はもう絶滅した種族だ。 私が身に着けているマントは、その白兎ラピンブランの毛皮を染めて作った特別な物で、我が王家で代々受け継いできた。 そして、首に巻かれた真っ白なこれは、最も美しい毛並みの白兎ラピンブランの毛皮で作ったマフラーだと伝えられている」

 「どうして絶滅したのかしらぁ?」


 「見ての通り、白兎ラピンブランの毛皮は最高の毛皮だ。 これを他の者の手に渡る事を当時の王は嫌い、白兎ラピンブランは私の一族によって全て狩りつくした。 そのお陰でこの立派なマントとマフラーは、私の一族が唯一所持できる特別な物となった。 とても素晴らしい事だ! 君もそう思うだろう?」

 「ええ、とてもとても素晴らしいですわぁん。 その肖像画の人物が白兎ラピンブラン唯一の生き残りって事も知ってるのかしらぁん?」


 「唯一の生き残り? 白兎ラピンブランを直接見た事は無いが、この女性を白兎ラピンブランと言うには無理があるのではないか? どう見ても人の姿をしている」

 「白兎ラピンブランは妖精種。 特別強い魔力を持った個体が、エルフ達と一緒に遊んでいるうちに、特別な進化をしてその姿になったのよぉ。 別に不思議な事でもなんでもない。 そして、妖精種は長命な種族でもあるの」


 「まさか…… 似ているとは思っていたが、もしかして君はこの絵の子孫などではなく……」

 「そう、その肖像画は私なのぉ。 驚いたかしらぁん?」


 「まさか、本人だとはな…… 素晴らしい! 是非とも我が妻になってくれ!」


 パトリックの要望に対して、ジュリアは感情を見せない。

 そして、彼がプロポーズの言葉を言い終わると共に、街に大きな鐘の音が響き渡った。


 「ああ、やはり私達は祝福されている。 この鐘の音は、私達一族が白兎ラピンブランと出会った日を記念に作られたものだと記録にある。 私と共に教会に来て貰えるか?」

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