第47話 復讐の魔法

 パトリックの話を聞いたカルティナの顔には怒りが滲みだしていた。

 しかし、当の本人であるジュリアは至って冷静であり、この話の部外者であるカルティナは静かに彼女の返答を待っていた。


 「今の話を聞いてぇ、ジュリアと結婚出来ると思ってるのぉ?」

 「勿論だ。 過去は過去。 僕達は今出会ったんだ。 君を必ず幸せにしてみせる! だから、過去の事は忘れて、君は私と共に幸せな人生を歩むべきだ」


 「そうね、あなたが被害者側の立場でそう言う事を言ってたのなら素敵なお話し。

 でもぉ、あなたってぇ、加害者側の立場なのよねぇ。 きっとぉ、ジュリアの気持ちって理解してないと思うのぉ」

 「私は加害者などではない。 現に、白兎ラピンブランとは会った事もない。 先祖の罪を私に問うのは間違っている事だ。 君に憎しみの気持ちがまだ残っていると言うのなら、二人で乗り越えていこう。 君が幸せになる為に生まれてきたのだと証明してみせる!」


 「はぁ…… あなたそっくりだわん。 いつの時代でもぉ、あなた達一族わぁ、聞き触りの良い言葉を口にして、自らの正当性を主張していたわん。 せめてジュリアの気持ちくらいは考えてくれないとぉ、話をする気にもなれないのぉ」

 「君の気持なら十分理解している。 一族を滅ぼされた痛みや苦しみは、きっとさぞかし辛いものだろう。 だからこそ君は幸せになるべきなんだ! 私ならそれが叶えられる!」


 カルティナはこの男を殴り飛ばしたい衝動に駆られて、エミリーはこの男の発言に呆れて声を失い、オースティンは拳を握り、声を出すのを我慢していた。

 そして、終始笑みを浮かべていたジュリアからは、その笑みが消え、彼女の感情の矛先が向けられる様に、冷たい眼光をパトリックへ向けていた。


 「ジュリアを幸せに出来るのは、あなたみたいな傲慢な人じゃないの。 人生で最も憎い相手でも、話し合って妻にしたり、殺されかけた相手を妹にしたりするような図太くとくて優しい人だけだと思うの。 ジュリアも同じように出来るかなって思ってたけど…… 無理みたい。 もう抑えられないからあなたに感情をぶつけるわ」


 ジュリアの体が変異していく。

 真っ白な髪は植物の根が這うように床へ伸びていき、大きくて淡い桃色だった瞳は小さく真っ赤に染まり、憎悪の化身の如く冷たい殺意を持った眼光を放ち、パトリックを睨みつけていた。

 そして、両手には長く赤黒い鋭い爪が伸び、白皙はくせきの肌がより、その爪の危険性に拍車をかけている。

 一切の瞬きすらせずに、ジュリアはパトリックに言葉を投げかける。


 「わらわが貴様を同じ目に合わせてやると言えば、貴様はそれを受け入れるのか?」

 「君が怒っている事はよく分かった。 だが、私を同じ目に合わせると言うのは間違っている。 過ちは繰り返すべきではない。 君もそう思うだろう?」


 「貴様が首に巻いているもの。 それは童の母だ。 貴様のマントは同胞と父の毛皮が使われている。 貴様は目の前で同胞や父や母が、生きたまま生皮なまがわを剥がされる所を目にした事はあるか?」

 「君にとってそれは本当に辛かった事だろう。 でも、それはもう過去の話し。 愛があれば乗り切られるはずだ」


 「愛だと? 童を理解しようとしない貴様の言葉のどこに愛がある? 生皮を剥がされた同胞達が、食肉用に加工されていく姿を見せられ、どうしようもなく無力であった童がその後どうなったのか知っているか?」

 「わからない。 もう、過去の話しは止めにしないか? 君は過去に囚われていては駄目だ。 未来に生きよう!」


 「たまたま人として優れた容姿に進化した。 たったそれだけで、貴様等一族は童を孕ませた。 何度も何度も飽きもせず、毎晩毎晩。 童はその子供だけは生みたくはなかった。 故に、堕胎する為に何度も腹を叩いた。 子を殺す度、童の心に化物が住まう様になった。 それが今、この姿となって現れた。 もう一度問う、貴様は童と同じ目に合っても童を愛する事が出来るか?」

 「私からももう一度言う。 私を同じ目に合わせるなどと言う事は間違っている! だが、仮にそれを受け入れたとしよう。 それでも私は君を愛しているはずだ! 僕と一緒に来てくれ! 必ずそれを証明してみせる!」


 「よく言った。 童も我慢の限界だった。 故に、くれてやろう。 憎悪の化身となった童の怒りを」


 両腕を掲げたジュリアは『ビルレンスディザスター怨恨の厄災』の魔法を解き放った。

 そして、ジュリアは転移門を開き、カルティナ達を連れ、ユリアン達のいる村へと帰った。


 

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帝国に復讐を誓った勇者。魔王と手を組み、王族を滅ぼす!(仮) ジャガドン @romio-hamanasu

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