第8話 村の開拓と移民達

 アリエッタを見つめるユリアンは、聞いておかなければならないと思い、「アリエッタ、聞いてもいいか?」と声を掛ける。


  「ここが我に取ってどういう場所なのかを聞きたいのだろう? 別に大した事では無い」


 「大した事ではない? それって聞くなって事だよな?」

 「ああ、その通りだ」


 「わかった、 それじゃあ、体動かさなきゃ始まらないし、開拓を始めるとするか」


 建築が得意なデライアの指示で、アリエッタ、アンネ、リンネの三人がどんどん森の木を伐採していく。


 アンブリースは魔法で倒れた木を運び、加工が得意なジルペットが、その木を木材へと加工していった。


 ユリアンはデライアの指示通りに、出来上がった木材を組み立てていく。

 それなりに時間は掛かったが、街の原型となる小さな村が完成した。


 「凄いな、最初は掘っ立て小屋みたいなのを作るだけだと思っていたけど、結構立派な家を建てたな」

 「及第点と言った所か。 この街はまだまだ大きくして貰うぞ」


 「大きくするって言っても、住むのが俺達だけじゃな……。

 他の魔族でも連れてくるのか?」

 「いや、移民をスカウトして来てもらおう」


 「移民? そんな簡単に集まるものでもないだろう?」

 「人族は色々な種族を奴隷として扱っている。

 まずはその辺りから連れて来るといい」


 「連れてくるといいって言ってもな……」

 「やり方は任せる」


 「わかったよ。 どうにかする」


 アリエッタは空を飛んで魔族の街へと帰っていった。

 ユリアンはこれからの事を考えるが、アンネの転移門があればだいたいの事は解決すると結論付けた。


 「移民か…… 人族の街で稼いで奴隷商人から買って来るなんて事も出来ないし、襲撃して適当に連れてくるしかなさそうだな」

 「ユリアン、これを」


 「ん? なんだこれは?」

 「魔王様から預かって来た移民におすすめの種族と、活用方法が書かれてたメモになる」


 「どれどれ……」


 ユリアンが魔王のメモに目を通す。


 エルフ。

 森での狩が得意、植物を育てるのも得意、作物を育てて貰おう。


 ドワーフ。

 鍛冶師に向いている、採掘をするのも得意。

 森とは逆の西方向に見える山が鉱山になっている。

 そこで採掘をして貰おう。


 マーメイド。

 地下に巨大な地底湖があるのでそこに住んでもらう。

 地下水脈付近では希少な素材が取れるので、それを持って来て貰おう。


 小人族。

 動きが素早く気配が小さい為、戦闘訓練などをして密偵になって貰う。


 獣人種。

 基本的に戦闘力が高いが、種族によって異なるので話し合って決める。


 「これがおすすめの種族なんだな。 人族も合わせれば全部で六種族か…… 人族の奴隷でよく見る種族達だな。

 他の種族は危険だったりするし、扱いずらいと言う事か」

 「そうみたいだな。 早速だけど、私の転移門を使って人族の街へ行ってみる?」


 「そうだな、人手も欲しいし、奴隷達を救いにいくか」

 「さらいに行くとは言わないのね?」


 「人族にとっては犯罪だが、奴隷達にしてみれば人権も得られるし助かるだろ? 気の持ちようって奴だ」

 「そうね、奪いに行くんじゃなくて、助けに行くって考えた方が都合がいい」


 「そうだ。 そういうものだ」


 魔族との関係が深まるにつれてユリアンは色々な事を考えるようになっていた。

 奴隷を助ける。 聞こえはいいが、それは泥棒をする事であり、自らの為に商人には不幸になって貰うと言う事である。

 

 ユリアンにとってそれは悪意であり、本来であれば許されない行為。

 逆に同じ事をされれば争う事にもなるだろう。

 それでもユリアンは奴隷商を襲撃すると決めている。


 それは、ユリアンが悪人になったわけではなく、自分の大きさを知ったからであり、自らの手が届く範囲にいる仲間の事を選んだから出来る選択であった。


 人族の街へ全員で行けば目立つので、アンネとユリアンは二人で行く事に決める。

 二人は全身を覆うフードのついたローブを纏い、転移門で人族の街へと向かった。


 グルターク帝国の首都、ベチルカの街。

 ここは人族の街では最も大きく、商業も盛んにおこなわれている。

 それ故に奴隷の数も多い。


 裏の通りは治安も悪く、すこし騒ぎになっても大した事にはならない。

 奴隷の裏取引もよくされているので都合が良く、ユリアンとアンネは裏の通りへ足を踏み入れる。


 道行く先で、ガラの悪い連中に声を掛けられるが、無視して進み、面倒そうな奴には当身をして気絶させ、奥の方へと進んでいった。


 薄暗い裏通りを進み、広場へと辿り着く。

 ユリアンは昔、ここでは様々な問い引きが行われていると聞いた事があったので、この辺りで周囲の様子をうかがう。


 ガラの悪い連中がいるだけで、商人らしき人物はいない。

 このまま待っていても仕方がないので、ユリアンは話しかけてみる事にした。


 「奴隷商を探している。 心当たりはないか?」

 「奴隷が欲しいのかい? だったらあっちの奴だ。 紹介してやる、ついて来な」


 ガラの悪い男はユリアンから離れていき、近くにいる別のガラの悪い男に話しかけて、連れて来た。

 連れて来たガラの悪い男がユリアンに話しかける。


 「奴隷が欲しいんだって? 予算はどれくらいで考えている?」

 「特に上限は決めていない」


 「欲しい種族は?」

 「扱いやすい奴が良い。 人族、エルフ、ドワーフ、マーメイド、小人族、獣人、この辺りで頼む」


 「へえ、何に使うつもりで?」

 「使用人だ」


 「ぐっふっふ、そうかい。 あんた、なかなかだなぁ。

 いいぜ、ついて来な」


 何がなかなかなのかは分からないが、ユリアンとアンネはガラの悪い男の後を追う。

 男は大きな屋敷の中へとユリアン達を招き入れ、中に居た太った男の元へと案内した。


 「ふーん、あんた若いね。 本当にお金ある?」


 ガラの悪い男が帰ったのを確認した後、ユリアンはフードを取る。


 「あ、貴方様は!?」

 「大きな声を出すな。 訳あって俺は身を潜めている。

 皇帝から報酬はたっぷり貰っているから金の心配はしなくていい」


 「そうですか、奴隷でしたね。 いいですよー見てって下さい!

 それと、後でサイン貰えますか?」

 「契約のサインか?」


 「いいえ、専用の紙を用意しますので、そこへ勇者様のサインをお願いします!

 額縁がくぶちにいれて家宝にしますので!」

 「わかった。 奴隷とお前以外に人はいるのか?」


 「いえいえ、貴族様のお客様もいますので、ガラの悪い連中は全員外に出払ってございます!」

 「そうか、それじゃあ奴隷達の所へ案内してくれ」


 「畏まりました!」


 商人が床を剥がすと、地下への階段が現れる。

 ユリアン達は商人に着いていき、奴隷達の元へと案内された。


 異臭がするが、洗えば問題ないのだと商人は言う。

 明かりをつけると、檻の中から奴隷達がユリアン達の方をじっと眺めている。


 「小人族とマーメイドはいないのか?」

 「小人族はおりませんが、マーメイドでしたら奥の部屋で特別な檻にいれております。 ですが…… マーメイドは希少価値が高く、相当な値が張ります」


 「問題ない。 奥の部屋も見せてくれ」


 商人が奥の部屋を開けると、水の入ったガラスの檻の中に二人のマーメイドが居た。

 

 「ありがとう。 一つ聞きたい事がある」

 「はい、なんでしょう?」


 「民衆に俺の事はどう伝わっている?」

 「どうって言うと……カルティナ姫殿下と子を成した後、再び魔族との戦いに行かれたのではないのですか?」


 「そう言う事になっているのか。 それだけ聞ければ十分だ。 悪いな」


 ユリアンは商人に痛みを与える間も無く、斬り殺した。

 それを見ていた奴隷達が息を飲む。

 ユリアンは両手を上げて敵意がない事を示し、奴隷達の檻を全て解放した。


 奴隷達は皆、息を潜め、ユリアンの膝元に集まり、平伏へいふくする。

 その姿はユリアンにとって、痛々しく映り、すぐに立ち上がらせた。


 そして、アンネに転移門を開いて貰い、奴隷達を誘導して開拓した村まで送り届ける。

 マーメイドだけは檻ごと運ぶ必要があったので、村にいるアンブリースを呼びだし、魔法を使って運んで貰った。


 ユリアンとアンネも村へ帰ると、奴隷達は村の広場に集まっている。

 皆、体を寄せ合い、不安気な表情を向けていた。


 早く安心させてやりたいと、はやる気持ちを抑え、ユリアンは必要な事から先に伝える事にする。


 「さて、君達は今を持ってこの村の住人になってもらう。

 不満のある者はいるか?」


 奴隷達は皆、首を横に振って不満がないのだと言う意志を示す。

 

 「俺達は君達を攻撃するつもりはないし、怖がらなくてもいい。 申し出があるなら遠慮なく言ってくれ」

 「あのー、マーメイドの私達もー、この村に住むんですかー?」


 「ああ、地下に巨大な地底湖がある。 この村の住人になってくれるならそこが君達の住処だ」

 「それならー、大丈夫そうですねー」


 「他にはないか?」

 「森…… も、森…… 森が、ありますね、雄大で、美しい、森が!」


 ユリアンは声の主を見て少し驚く。

 なんだ? やけに目をギラつかせて? あれは…… エルフか。

 なんだか興奮しているみたいだけど、どうしたのだろうか?


 ユリアンの心配をよそに、そのエルフは抑えきれない衝動に抗っている様にも見えた。

 周りにいる二人のエルフも彼女を抑えつけてはいるが、その二人も目をギラつかせて、呼吸を荒くしていた。

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