第7話 二人目の妻と肥沃な大地

 「名前はリンネでいいんだよな……君はシェイドの娘、なのか?」

 「そうだよ! リンネは偉大なる魔法使いシェイドの一人娘!

 子供は戦場へ行くなって言われてるけど、今回は特別に魔王様から許可がでたの!」


 「そうなのか。 リンネは俺の事……知ってるんだよな?」

 「知ってるよ! 父上の最期を看取ってくれた人でしょ!」


 「止めを刺したって言った方がしっくりくるんだけど……」

 「父上は貴方と戦える事を喜んでいたよ。

 貴方が現れるまで人族との戦争はずっと退屈だったって言ってたから」


 「そう言えば、確500年生きた中で一番楽しかったみたいな事を言っていたな。

 リンネは俺を恨まないのか?」

 「恨むわけないでしょ? 父上は戦うのが好きだったんだよ?」


 ユリアンは苦笑いを浮かべる。

 リンネの父親を殺し、罪悪感を感じていたからだ。

 本人が全く気にしていないようなので、謝罪する機会さえ失ってしまった。


 「ユリアン、リンネ。 帰ろう」


 アンネが転移門を出し、ユリアン達はアリエッタの元へと帰還する。

 無事に帰って来たユリアン達に、アリエッタは「よくやったお前達」と労いの言葉を告げた。


 「浮かない顔をしているな。 ユリアン、何かあったか?」

 「何て言えばいいのかな? リンネとどう接していいのか分からなくてな」


 「そう言う事か。 父親を殺した責任を感じていると?」

 「そうだ。 戦場だから仕方なかったとはいえ、俺がリンネの大切な家族の命を奪った事には変わりないだろ?」


 「復讐心を持つ者もいないわけではないが、戦場に身を置く者であれば殺されて恨む者などいない。

 街で残った家族も承知の上で送り出している。

 どんなに悲しいと感じても、相手を恨む事は無い。

 あるのは、戦った者達への感謝と畏敬の念だ」

 「言っている事は分かるんだけどな。 それで気にするなって言われても腑に落ちないんだよ」


 「じゃあ責任を取れ」

 「責任? 俺に出来る事があるなら言ってくれ。その方がすっきりする」


 「分かった。 リンネ、ユリアンは責任を取ってくれるらしいぞ」

 「責任を取ってくれるの!? ユリアンは優しい人だね!」

 「それで、俺は何をすればいい?」


 「リンネと子を作れ」

 「はあ? なんでそうなるんだよ?」


 「父親を殺した責任を感じているのだろ? なら、新たな命であがなう事でつぐなうと言うのはおかしい事ではない」

 「俺は父親の仇だぞ? それに、俺にはアンネがいるじゃないか」


 「リンネ、父親を殺したユリアンの子を産みたいか?」

 「リンネ強い人大好き! リンネは子供を産むの、やぶさかではない」

 

 「アンネはどうだ? ユリアンにもう一人妻が出来る事に反対か?」

 「ええっと……反対するものなんですか?」


 「ユリアン、聞いての通りだ。 魔族は一途で一人を愛するが、一部の人族のように一夫一妻制ではない。

 むしろ、優秀な者にはもっと子を作る機会を与えたいとさえ思っている」

 「分かった。 そう言う事なら責任を取らせてくれ。

 でも、リンネってまだ幼いんじゃないのか?」


 「我と同じで、魔力量が多い故に幼いと言うだけだ。 お前の8倍くらいは生きているぞ」

 「そう聞くと全然問題ないな……」

 「魔王様、リンネも一緒に暮らすのでしたら、私の家では少し狭い為、広い屋敷に移りたいと思ってるのですが」


 「そうだな。 丁度良い土地がある。 そこでお前達を中心に街を作れ」

 「街を作れ!? なんでそう言う事になるんだよ?」

 

 「人族と魔族のハーフが生まれてくるのだぞ?

 邪険にするつもりは無いが、魔族として受け入れる事は出来ん。

 故に、お前達独自の社会を築く必要がある」

 「人族が受け入れてくれるわけもないし、合理的に考えれば正しい事だな……。

 アンネとリンネはそれでいいのか?」

 「魔族と敵対するわけではないし、私は別に構わない」

 「リンネ達の街! やぶさかではない!」


 「そういう事だ」

 「わかったよ。 それで、丁度良い土地ってのは何処にあるんだ?」


 「この街の東にある森だ。 何者も手を付けてない肥沃ひよくな土地だぞ」

 「魔王様……本当にあの森を開拓していいのですか?」


 「構わん。 あの森をお前達に託そう」

 「ありがとうございます」


 ユリアンは、アンネとアリエッタの会話から、なんとなく湿っぽい空気を感じとった。

 きっとアリエッタにとってその森はゆかりのある土地なのだろう。


 早速アリエッタに土地の開拓に行けと命じられたが、開拓が得意な魔族に声を掛けると言う事で、ユリアン達はアンネの家で待つ事となった。

 しばらくして、アリエッタが開拓を手伝ってくれる魔族達を作れてきた。


 アリエッタの連れてきた魔族は三人。

 

 木材だけでなく、石などの加工にも使える魔法が得意なジルペット。

 魔法で大量の荷物なども運べるアンブリース。

 建築が得意なデライア。

 個性的な服装をしているが、三人共美しい魔族の女性である。


 「我が命じ、ユリアンの命に従えと伝えてある。 この者達を好きに使っていい」

 「って事は俺達の作った街で暮らしてくれるのか。

 自己紹介はするまでもないかもしれないが、俺は人族の勇者だったユリアンだ、よろしくな!」


 アンネが転移門を出し、ユリアン達は開拓地となる森へと転移する。

 そこには雄大で美しい草原。

 振り返れば背の高い針葉樹の森が広がっている。


 ユリアンはここが肥沃で豊かな土地だと言う事が一目見て理解出来た。

 しかし、ユリアンはそれとは別のものに目を奪われていた。


 アリエッタが六枚の翼を大きく広げ、胸に手を当てて祈りを捧げていた。

 その姿はまるで、女神様の様だと、ユリアンは思った。

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