第9話 村の開拓

 「おい、大丈夫か? 三人共様子がおかしいみたいだが?」


 ユリアンが連れて来たエルフの奴隷は三人。

 エルフは森に住む種族であり、奴隷として無理やり人族の街へ連れてこられたせいで、エルフ達は森に飢えていた。

 そして、この森はエルフ達にとって光り輝く宝のの山の様に映っていた。


 「ああ、しゅびばしぇん。 この森、しゅごいれす」

 「呂律が回ってない……そんなにすごい森なのか?」


 「ええ、脈打つ森の鼓動、流れる森の息吹、巡る森の命たち!

 パーフェクトです! 夢にまで見た楽園です!」

 「喜んでくれて何よりだ。 それじゃあ、エルフ達には森で生活をしてもらうが、建築がこの辺りにある家だけなんだ。 明日からでもいいか?」


 「森の建築は得意なので、今からこの森で生活を始めたいです!」

 「そうか、なら伐採予定の場所をデライアから聞いて、この辺りで過ごしてくれ。

 それと、エルフ達に頼みたい仕事があるから、明日来た時に説明をする」


 「わかりまちた!」


 三人のエルフ達はデライアから話を聞いた後、発狂気味に森へと走り去っていった。

 

 残った奴隷達は人族の女性が二人、ドワーフの女の子が三人、マーメイドが二人、獣人の女の子が一人。

 ユリアンはとりあえず、奴隷達に挨拶を始めた。


 「俺は…… 魔王アリエッタに仕えるユリアンだ。

 この地の開拓を任されている。

 君達は労働力として働いて貰うつもりだが、無理をさせるつもりはない。

 この村の一員として仲良くやってくれ」

 

 奴隷達は全員ユリアンの声に同意の意思を述べる。

 ユリアンは続けて、それぞれの役割について話した。


 ドワーフは西の山で採掘と鍛冶。

 マーメイドは地下にある巨大な地底湖で希少な素材などの調達。

 残りの人族の二人と獣人の女の子には、この辺りで暮らしながら話しあって決めると伝える。


 日も暮れてきた所で、アンネが一度街へ戻り、食事を調達してきてくれたので自由に食事をしてもらい、食事が終わると、家はあるが寝具などはないので、好きな場所で夜を凌ぐようにとユリアンは伝えた。


 ユリアンはアンネとリンネと共に、アンネの家へと帰り、今日の事を思い浮かべ、充実した一日だったと思い返し、ベッドの上で横になるとリンネが潜り込んでくる。


 「ん? リンネ? 家に帰らないのか? アンネもいるし三人で一つのベッドだと狭いだろう」

 「焦らしてるつもりかー? 愚かものー!」


 そう言ってリンネはユリアンに飛びつき、唇を奪った。


 「ああ、そう言う事か。 俺、心の準備できてないんだが?」

 「心の準備? 天井の染みでも数えていろ!」


 幼い見た目のリンネを抱く事にユリアンは抵抗があったが、リンネはユリアンを押し倒し、行為に及んだ。

 アンネもその様子を見て途中から参加し、ユリアンは幾度となく絶頂を迎える。



 三人は裸のまま眠りに落ち、朝を迎えた。


 朝食は開拓地にいる皆で食べる事にしたので、三人で朝食を作り開拓地へと持って行く。

 村の広場へ出ると、奴隷だった皆がユリアン達を待っていた。

 みんなで朝食を食べていると、空からアリエッタがやって来る。


 「ユリアン、アンネ、食事は終わったか?」

 「ああ、丁度食べ終わった所だ」


 「よし、それじゃあ着いて参れ」


 アリエッタは村から南の方へ歩き始める。

 ユリアンとアンネがアリエッタに着いて行くと、広大な湿地帯の広がる場所へと辿り着いた。


 「綺麗な場所だな」

 「ああ、ここは結構気に入っている場所だ。 だが、ここを見せたくて連れてきたわけではない」


 アリエッタは一際目立つ大岩の前にユリアン達を連れて来る。

 大岩の中は空洞で、その中には石畳の上に魔法陣が描かれていた。


 アリエッタが二人と手を繋ぎ、その魔法陣の上へ乗ると、一瞬にして真っ暗な闇の中へと辿り着いた。


 『光を灯す魔法ライト・ア・ライト

 アリエッタが魔法を唱えると、辺りが明るくなる。


 「随分冷えるな……ここはどこだ?」

 「巨大な地底湖があるとメモに書いてあっただろう。 ここがその地底湖だ」


 少し先へ進むと、アリエッタの言っていた巨大な地底湖が姿を現す。

 ユリアンは暗いせいもあって、地底湖の端までは見えなかったが、とてつもない大きさの地底湖だと言う事だけは理解した。


 「水も冷たいな。 マーメイド達は大丈夫なのか?」

 「深海でも平気な種族だぞ? このくらいの寒さじゃ凍える事はない。

 水面にある水草が見えるか?」


 「これの事か? 白いけどこれ水草なのか?」

 「そうだ。 その水草は万病に効く万能薬になるし、普通に食える」


 「普通に食えるってそんな貴重な草食べてもいいのか?」

 「よく見てみろ。 地底湖覆う程生えている」


 「本当だな…… マーメイドに取って来て貰う希少な素材ってこれの事か?」

 「そうだが、他にもある。 ここで暮らす生物は独自の生態系を築き上げている。

 神気という言葉を知っているか?」


 「聞いた事はある。 確か、神様が奇跡を起こした後に残る力だとか?」

 「だいたいそんな所だ。 正確には最も根源に近い力場の事だ。

 この地底湖にはその力が永続に流れでている」


 「凄い事は分かるが、それってどうなるんだ?」

 「神気の力によってこの生態系が形成された。

 それ故に、ここで取れるもの全てが神気を宿し、万能薬となる。

 魚も取れるし、寿命も延びる。

 この地底湖はいうなれば、生命の泉そのものだ」


 「とんでもないと言う事だけは分かったが。

 それじゃあ、湿地帯や草原、森もこの水で育ってるわけか?」

 「その通りだ。 湿地帯に咲く花はどれも珍しく美しく、森や草原も大いなる生命力を宿している」


 「よくそんな場所が手つかずで残っていたな」

 「我がこの地を守って来たからな」


 「そう言う事か。 それじゃあ、ここは魔王城をさらに進んだ先にある場所なのか?」

 「その通りだ。 まあ、人族の足ではなかなか来れない場所にあるがな」


 地底湖の場所がわかった事で、アンネが転移門を開けるようになった。

 ユリアン達はマーメイド達を運び、檻から地底湖へと解き放つ。


 「水キレー! 気持ちいー!」

 「食べ物もたくさーん!」


 マーメイド達がはしゃぐ様子を見てユリアンも安心した。


 「寒くないか? それに、アリエッタがいなくなったら暗くなるけど大丈夫か?」

 「平気ですー」


 平気だと言う事なので、ユリアン達はアンネの転移門で村へと戻る。

 アリエッタは忙しいらしいので、魔族の街へと飛んで帰って行った。

 

 村の広場に戻ると、エルフ達もいたので、ユリアンはエルフ達に、森で狩りをする事と、農場を作って作物を育てる仕事を頼んだ。

 その後、ドワーフ達を連れて西の鉱山へ連れていく。

 

 アンブリースの魔法で大量の木材も運んで来ているので、それでドワーフ達の住居を作ろうとする。


 「あの! 大丈夫です!」

 「ん? 何がだ?」


 「これだけ木材があれば、自分達で住処を作れるので大丈夫です!

 それに、ドワーフの住処は洞窟の中なので!」

 「そうか、それじゃあ任せるよ」


 ユリアン達はまた村の広場へと戻って来る。


 「さて、当面は人族の二人には皆の食事や道具を使って衣類なんか作ってもらうとして……君は何か得意な事はあるのかな?」

 

 ユリアンが小柄で真っ白な毛並みの獣人に尋ねると、大きな耳をピコピコ動かして、獣人の女の子は応えた。


 「エルフしゃんのお手伝いができましゅ。 後、人間しゃんとも繁殖ができましゅ」

 「そうか……それじゃあ、とりあえずエルフ達と一緒に行動してくれ」

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