第33話 ロザリンドとノア
ノアはあの日、ミレーユに、とある魔法を掛けて貰い、現在は羊の獣人ロザリンドと共に、同じ場所で同様の仕事をさせていた。
ユリアンは、ロザリンドの家でもある、性奴隷の仕事場へ入った事は今まで一度も無かったが、いつの間にか外観が派手になっている事には気づいていた。
どう派手になったかと言えば、元々木製で、ただの掘っ立て小屋に近しい見た目だったのが、今では立派な石の宮殿になっており、壁も華やかなレリーフが
扉をノックしても返事が無かったので、ユリアンはそのまま扉を開き、中へ入って行く。
中へ入った途端、ユリアンは自信の周りの空気が遮られる様な感覚を感じ取り、この宮殿が何かしらの魔法で、
恐らく、この魔法は外に音などが漏れない様にする為にかけてあるのだろうとユリアンは予想をする。
建物の中はそれなりに広く、五つの部屋があったので、ユリアンはまず、この宮殿の主であるロザリンドを尋ねる為、部屋の前に大きくロザリンドの名前が書かれている部屋の扉をノックする。
すると、中から「どうぞ」と言う返事が聞こえたので、ユリアンが中へ入ると、そこには、
部屋に漂うお香の匂いと、静かで落ち着いた部屋の雰囲気。
そして、妖艶に着飾ったロザリンドの姿を見て、ユリアンは思わず緊張してしまう。
一応、人族の街にある、高級な娼館がこういう雰囲気だとユリアンは聞いた事があったが、訪れた事はなかったので、その空気に飲まれてしまった。
ユリアンの姿を見たロザリンドは慌ててベッドから下り、ユリアンの元へと近づき挨拶をした。
「ああ、ご主人様だったんですね。 ボクに会いに来てくれたんですか?」
ロザリンドがスッとユリアンの腕に手を絡ませてきたので、ユリアンは慌てて「俺は客としてきたわけじゃないんだ」と言って、その手を解く。
ロザリンドは「ご主人様が喜んでくれる事沢山覚えたのに」と残念がっていた。
「今日はノアの様子を見に来たんだ。 ついでに、この宮殿内の部屋がどうなってるのかとかも案内して貰えるか?」
「はい、喜んで」
ロザリンドは再びユリアンの腕に手を絡ませ、一つ目の部屋へと案内する。
扉を開けると、そこは脱衣所となっており、中にもう一枚扉がある。
その扉は薄いすりガラスになっていて、横にスライドして開くと、中には大きな浴槽があり、高級な娼館にあると言うシャワーなども設置されていた。
ロザリンドが下からユリアンを覗き込み「お背中流しましょうか?」と質問してきたので、ユリアンは「大丈夫だ」と言って、次の部屋の案内を頼んだ。
次に向かった部屋は、新鮮な状況を再現する為に使う、様々な衣装や小道具などが用意されている倉庫になっており、なぜか暗黒騎士の鎧まであるのをユリアンは確認した。
何に使うのかは分からないが、剣などの武器などもあり、木製で角も丸く削られていたので、これで怪我をする事もないだろうとユリアンは思う。
次に向かった部屋はオースティンの部屋で、今は殆ど使われていない。
部屋の中も簡素なベッドと机と椅子があるだけだった。
そして、ロザリンドは最後の部屋へと案内する。
最後の部屋は拷問部屋で、中へ入ると、牢獄の様な陰湿な内装になっており、様々な拷問器具が設置された場所だった。
よく見ると、それらの拷問器具はちゃんと安全に配慮された作りになっていて、トゲトゲしたものは柔らかい素材であったり、角のあるものは先が丸く肌などを傷つけないようになっている。
ノアは部屋の中にあるベッドの上で、魔法でガチガチに拘束されており、背中を向けながら「もうやめて」と肩を震わせながら呟いていた。
まさかこの一週間、本当にここで拷問でもされていたのか? と思いつつ、ユリアンはノアに声を掛ける。
「ノア、様子を見に来てやったぞ。 その様子だとこっぴどくやられてるって感じなだ」
ノアはユリアンの声に反応し、慌てて振り向き、腕を絡ませているロザリンドとユリアンの顔を交互に何度か見て「ユリアン…… もしかして、君も……」と呟いた後、ベッドの隅の方へと後退りをする。
「何考えてるんだよ…… 俺はお前に何もするつもりはないぞ?」
「本当に? 僕を騙そうとしてないよね?」
何を警戒しているのかは分からないが、話を聞くにしても少し距離が遠いなと感じたユリアンはそのまま一歩ノアの方へと近づこうとする。
すると、ノアは突然大きな声で「それ以上その悪魔を僕に近づけさせないでくれ!」と叫び声をあげ、ユリアンは驚いて、ロザリンドの顔を見つめた。
「悪魔?」
ロザリンドの顔を見たまま、ユリアンがそう呟くと、ロザリンドは首を横に傾げ、もう一度反対方向にも首を傾げる。
一応、ノアもここで働いていると言う事にしているので、そう言うシチュエーションで演技でもしているのかと思ったのだが、ノアは本当に呼吸も乱し、怯えていて、ユリアンの目には演技をしている様には映らなかった。
「お前…… 拷問でもされていたのか?」
「その感じ、君は僕がここでどんな目にあっていたのか知らないようだね。 ユリアン、二人きりで話がしたい」
ユリアンがロザリンドの方を見ると「じゃあ、ボクは部屋に戻ってますね」とニコリとほほ笑み、腕を解いて出ていった。
ロザリンドは体温が高かったのか、解いた腕の当たりが冷たくなったのを感じ、ユリアンは少し寂しい気持ちになる。
「さて、俺はとりあえず様子を見に来ただけだし、特の用もないんだけどな。 ご要望通り二人だけになったわけだし、何か俺に伝えたい事でもあるのか?」
「抱きしめてくれ! 僕の事を痛いくらいに強く! 抱き締めて!」
突然そんな事を叫びだしたノアに、ユリアンは驚きながらも凄い演技派な奴だなと感心する。
どういうコンセプトなのかはよく分からないが、ユリアンは男性との性行為には興味がなかったので「凄いな、少しだけ見直したぞ」と言い、部屋を出ていこうとした。
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