第34話 ノアの苦難

 部屋を出ていこうとしたユリアンを引き留めようと、ノアは必死に言葉で伝えるが、ノアの意図はユリアンには届かずにそのまま出て行ってしまった。 

 

 一人部屋に取り残されたノアは絶望し、涙を浮かべるが、今度ユリアンが訪ねてきた時にはもっと具体的な言葉を伝えようと、僅かに希望の光を瞳に宿らせた。


 ノアは、一時の僅かな時間に安らぎを覚えかけていた時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

 もう一度ユリアンが訪ねて来てくれたのではないかと期待して「どうぞ」と声を掛けると、入って来たのはドワーフの三人であり、期待に満ちていたノアの表情が曇る。

 しかし、その視線は真っ直ぐに彼女達を見つめ、戦う決意をした者の目となっていた。


 「おやおやー? もしかして、あたし等の事睨んでるのか?」


 ノアはギクリとして、少しだけ視線を外す。

 しかし、もう一度覚悟を決めた目で彼女達を見つめ直した。


 「睨んでる…… 確かにそうかもしれない。 僕は君達と戦う決意をした! 今日は負けない! 絶対に今日の僕は心を折られたりしない!」

 「いいねぇ、それじゃ早速! 楽しませてもらおうか!」


 ノアは三人のドワーフ達から見下され、罵倒されながら体を弄ばれる。

 心底嫌な気分になりながらも、体だけはどんどん気持ちよくなっていき、徐々にノアから喜びの声が漏れ出す様になっていた。


 ノアにとってこれは、耐え難く、精神を蝕まれていたが、ユリアンと言う希望が現れた事で、これに抗う決意が芽生えた。


 「こんなので、僕は屈しないぞ!」

 「うふふ、凄いじゃないか! もう三回目だけど、あたし等を満足させるまで頑張れそ?」


 「満足させてやるさ! 僕だって勇者と呼ばれた男だからね!」

 「そう? 結構きつくなってるんじゃない?」


 「全然平気だね! なんならちょっと物足りないくらいだよ!」

 「へぇ、それなら……」


 ノアは三人のドワーフの絶技により、何度も絶頂を迎え、その度に絶望の淵へと追いやられる様な気持ちになるが、それでも希望があるのだと自らに言い聞かせ、ドワーフ達が満足に至るまで耐え凌いた。


 「随分と手強くなったじゃない。 私達は満足しちゃったけど、次が来るよ」

 「次……? まさか、エルフ達が控えてたりする?」


 ノアは部屋の中にいたはずのドワーフが一人減っている事に気が付いた。

 誰かを呼びに行っているのだと、直感的に感じとったノアは誰が来ても耐え抜く覚悟で、身構える。


 しばらくして、部屋の扉が開く。

 そして、ノアは入って来た人物を見て、気を失いそうな程のショックを受けた。


 部屋に入って来たのはロザリンド。

 彼は根が真面目な性格で、性奴隷となってからは、日夜寝る間も惜しんで性行為の探求を続けていた。


 その甲斐あって、今では誰を相手にしても短時間で満足させる事が出来る程の技術を身に着けていた。


 ロザリンドがベッドの横に座るだけで、ノアの心は既に敗北を認めてしまっていた。


 「やめてくれ…… 僕に触らないでくれ!」

 「そんな事言われるとボク、傷つきますよ? でも、わかってます。 ノアさんはボクの事、大好きですよね?」


 ロザリンドがノアの背中の筋に合わせて指をなぞる。

 それだけで、声が漏れ、ノアは慌ててその口元を塞いだ。


 「さあ、はじめますよ」


 ロザリンドの手によって、ノアは何度も快楽の絶頂を迎え、何度も気を失っては戻され、ほんの30分程度で、正気を保てない程の廃人と化していた。


 そして、ノアはロザリンドに何度も「快楽を下さい」と懇願する様になり、快楽を感じられない時が来ると、それだけで発狂してしまい、ガクガクと大きく震えながら失神してしまう。


 それでも、ロザリンドに快楽を与えられた瞬間に、体も意識も覚醒し、そしてまた狂わされていく。

 

 やがて、ロザリンドから与えられる快楽をもってしても、目覚められない程の深い眠りに入り、どれくらい時間が経ったのかは分からないが、真っ暗な部屋の中でノアは、一人で目を覚ます。


 ノアはロザリンドの事を考えるだけで、体が震えだし、悲鳴を叫びながら一人でに絶頂を迎えてしまう。

 その後も、体が震え続ける限り、ノアには何度もその絶頂が襲って来る。


 三度目に目覚めた時、ノアはようやく落ち着きを取り戻す事が出来た。

 ノアは枕に顔を埋め、声を押し殺しながら大泣きを始めた。


 死にたいと願いながらも、あの快楽の渦にもう一度溺れたいと思ってしまう自分がいる。

 それは、ノアにとってはあまりに屈辱的であり、恥辱的で暴虐的な受け入れがたい、恐怖の存在そのものであった。


 泣いた所でどうにもならない。

 自分が自分ではなくなっていく様な感覚。

 ノアは孤独を抱え込み、自分から自分が逃げていってしまわない様に、必死に体を固く丸めて、自らを守っていた。


 誰でも良いから強く抱きしめて、欲しい。

 痛いくらいに、壊れて潰されてしまうくらいに。

 そう思うと、ノアはまた堪えきれなくなり、枕を噛みちぎってしまいそうなくらい強く噛んで、体をくねらせながら、唸り声をあげて涙を流す。


 そんなノアの元へ一人の女性が訪れる。

 音もなく現れた彼女は、優しくノアの頭を撫でた。

 ノアは彼女の顔を見て安堵する。

 なぜなら、ドワーフやエルフなどとは違い、一目見て魔族だと分かったからだ。


 魔族は恋人として結ばれたわけでもない男を性的に襲ったりはしない。

 それが分かっているので、ノアは安堵した。

 ノアはそんな事を言えば誤解されてしまうんじゃないのかと思いつつも、自分ではどうしようもなく抑えきれず、彼女の膝に顔を埋め「僕を抱きしめて! 殺すくらい強く抱き締めて!」と懇願してしまった。


 それでも、彼女はノアの元を離れず、子供をあやすように、子守唄を唄いながら優しくノアを撫で続けていた。

 彼女がノアを優しく撫でる度に、ノアの心は落ち着いて行き、やがて何も考えられなくなって、深い深い眠りへと落ちていった。


 

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