第43話 旅をする姫、ダンジョンを見つけた勇者
アディン共和国へと帰って来たカルティナ達は、近くの森へとやって来ていた。
それ程広大な森では無いが、ここにエルフ達が小さな村を作ってひっそりと暮らしているのだとジュリアは言う。
「この森、随分やせ細ってますわね」
「ダーリンの村の森と比べたらそうねぇ、でも、それなりにここは自然豊かな場所なのよん?」
「そうなんですの? 言われてみれば…… 普通の森に見えて来ましたわ!」
そんなやり取りをしながら、ジュリアの案内で森の奥の方へ行くと、エルフ達の集落を見つけた。
とても静かで人の気配は無いが、畑に食物が植えられているので、ここでエルフ達が暮らしている事をカルティナは把握する。
「ここにジュリア様の言っていた大昔の友人であり、忘れられない想い人がいるんですの?」
「あらん? 友人と想い人は別の人よん。 ここには友人が住んでいたはずだけど……」
カルティナ達が会話していると、その気配を察知したのか、家の中からエルフが数人出て来て、カルティナ達の様子を見ていた。
村人は警戒している様子で、その中の何人かは弓矢などの武器を手にしている。
カルティナはまずいと思い、両手を上げて敵意が無い事を訴えると、エルフの男性が一人、カルティナ達の方へ近づいて来る。
「人族がここへ何の用だ?」
「ええっと、古き友人に会いにきたんですの! 会いに来たのは後ろのジュリア様ですけど」
「古き友人? お前は…… 人族ではないのか?」
「ジュリアわぁ、妖精さんなのよ! ジュリアの友達は生きてるかしらぁん? ニースって名前なんだけどぉ」
「ニース? ニース様は先代の
「その人で合ってるわよぉ?」
「わかった。 少し待っていてくれ」
そう言って、エルフの男性は集落へ戻った後、今度は一人の女性のエルフがカルティナ達の方へとやって来た。
カルティナは思う。
この人がニースなのだろうかと。
エルフの話しでは先代の
しかし、現れたのは、人族の見た目だと30代くらいの大人の女性に見えるエルフだった。
そして、その表情は硬く、決して好意的な雰囲気ではなく、そのエルフはジュリアに向けて敵意を放ってるとすら思えた。
「私の友人が訪ねて来たと聞いて、まさかとは思ったけど…… ジュリア、あなただったのね。 せっかく訪ねて来てくれて悪いんだけど、私にとってあなたはもう友人ではないの。 すぐにここから立ち去りなさい」
「うふふ、貴方の気持ちは理解してるわよん。 だから、私達、しばらく人族の街で滞在するつもりだから会いたくなっちゃったらぁ、ジュリアの事、呼びに来てね!」
背を向けて、その場から立ち去ろうとしたジュリアに「ちょっと待て」と言って、ニースはジュリアを引き止める。
そして、ずっと握っていた何かを手渡し「もう、顔を見せるな」と言って、集落の方へと帰って行った。
ジュリアは受け取ったものを見た後、それを鞄にしまい、来た道を引き返し、歩始めた。
カルティナはジュリアの後を着いて行き、何を受け取ったのかを尋ねる。
「別に、大した物じゃないわぁ。 見てみる?」
「いいんですの?」
ジュリアが鞄の中から先程受け取った物をカルティナに私、カルティナはそれをマジマジと眺めている。
「これって、石ですわね?」
「そう、見た目はただの石。 でもぉ、魔力を込めると中から手紙が出て来るのよん」
「そうなんですの? あけて見てもいいかしら?」
「ええ、いいわよん」
カルティナが魔力を込めると、石が割れ、ジュリアの言った通り中から小さな手紙が出て来た。
そして手紙にはこう書かれてあった。
親愛なるジュリアへ、再会出来た事を嬉しく思っています。
きっとその時、私は素直な態度ではないかもしれないけど、きっと貴方なら私の事を分かってくれていると思います。
私は素直に謝れないだろうし、この手紙で失礼します。
ごめんなさい。
「なんだか妙な手紙ですわね? さっき書いと言う感じではないですけど……」
「あの子、凄く恥ずかしがり屋さんなのよん。 だから、事前にその時の事を考えて、手紙をかいてくれるの。 一緒にこの森に居た時は10年後のジュリアに向けて手紙を書いてたくらいなのよ」
「10年後のジュリア様に手紙を? どんな内容でしたの?」
「あの子、手紙でも素直じゃないから、とてもシンプルな手紙よ? 10年後のジュリアへ、今でも私はあなたと友達ですか? みたいな事が書かれてあったわん」
「へぇー、さっきの態度ってちょっとどうかと思いましたけど、そう言う感じの人だったんですわね!」
「でも、思ってない事を口に出したりする子でもなかったわん」
「それって…… ジュリア様嫌われちゃったって事ですの? でも、手紙だと謝っているし、どういう事ですの?」
「ジュリアは別に何もされてないけどぉ、きっとあの子は自分を責めているのよぉ。 だから、勝手に謝ってるだけなのん」
「そうなんですわね。 私もエミリーに手紙を書こうかしら?」
「やめて下さい。 私は書きませんからね?」
「じゃあ俺はロザリンドにでも書こうかな? 村の仕事あいつ一人に任せっきりだし」
「あらん? 全然気にしてなかったと思ってたけどぉ、オースティンちゃんはロザリンドちゃんの事好きなのねぇん!」
「仕事仲間だよ。 ジュリ姉が言うと変な関係みたいに聞こえるだろ!」
「あらあら、オースティンちゃんも素直じゃないのねぇん」
四人は談笑しながら、森を出て、アディン共和国の首都であるアイレスの街で宿を取った。
その後、この街でも冒険者ギルド組合があったので、そこで仕事を引き受け、この街で滞在する事となる。
一方その頃、ユリアンはアリエッタに連れられて、森の最奥にある山の
山の
用があったのはその山では無く、山に空いた洞窟。
そこは人工的に作られた階段があり、その階段の先には扉まであった。
「アリエッタ、これってお前が作ったわけじゃないんだよな?」
「ああ、気が付いたら勝手に出来ていた。 今二人きりだけだが、これをどう見る?」
「そうか、それじゃあこれはダンジョンだと思う。 俺は入った事はないけど、冒険者達が一攫千金求めて命がけで攻略するとかって聞いた事があるな」
「ここまで冒険者が来るとは思えんが、せっかく出来たんだ、チームを編成して暇つぶしにでも挑戦してみるといい。 今なら我も少し時間がある、二人だけだが少し中を覗いていくか?」
「アリエッタもダンジョンへは入った事が無いんだろ? それだと流石に危険だと思うし、みんなで攻略した方が楽しそうだ! けっこう貴重な物も宝箱から出てくるって言うし、俺も少し興味あったんだ。 でも、不思議だよな。 こんな人工物みたいなのが自然に出来たり、中の宝箱から武器や宝石が出て来たりするなんて」
「魔族に詳しい奴がいてな。 我はその原理を知っているぞ」
「本当か!? 長い話にならないなら教えてくれ」
「ダンジョンは神が作っている。 文明を保存する神だから装備なども出て来るし、ついでにその文明に関わったモンスター達も出て来ると言うだけだ」
「そうなのか、すげーな。 でも、モンスターってダンジョンにしか出現しないだろ? どう文明に関わって来たんだ?」
「ダンジョンで再現されている文明は歴史すら残されていない古代のものが多い。 当時はモンスターの蔓延っていた世界だったんじゃないか?」
「そう言う事か。 そう言われてみれば、俺が使っていた魔法剣のベースになっていた剣や、ノアの使っていた剣も元々はダンジョンで手に入れた魔法剣をグルターク帝国で使える様にしたとかって伝説が残っていたしな」
「まあ、神の意図など知らないが、貰える物は貰っておけばいい。 我から与えられるものがあればなんでもくれてやろう、何か欲しいものはあるか?」
「貰えるもの? 今は特にないかな? 俺の興味は今ダンジョンに向けられているし! それじゃあ、ありがたくダンジョンに潜らせてもらおうか。 チーム編成はどうする? アリエッタは参加しないんだろ?」
「間も無く戦争を始めるからな。 我にはそれを見届ける義務がある。 アリスとユリアンがこっち側にいる以上、人族に我が軍が負ける事はないだろう。 この村の者なら誰でも連れていって構わない。 アンネとアンブリースは連れていった方がいいだろうな。 後は攻撃魔法の得意なリンネ、エルフの弓使いイザベル、ドワーフのバレンシア、それとノアでも連れていくといい」
「なるほどな。 戦力としてはエステルや他のドワーフでもいいんじゃないのか?」
「エステルとテオドラは確かに戦力になりそうだが、
ドワーフのマルティナは物作りに特化しているから戦力としては頼りないだろう」
「へえ、しっかりみんなの事見てるんだな。 ありがとな! 参考になったよ」
「ああ、別にそんな事は構わない」
「よし、それじゃあ村に帰るか」
「ああ、村へ帰ろう。 ところでユリアン、アンネとリンネが子供を授かったそうだな」
「ああ、お腹が少しポッコリしてたぞ」
「そうか……」
アリエッタはいつになく、そわそわしている。
そして、翼の先がクルクルして落ち着きたない。
ユリアンはアリエッタの様子が少しおかしい事に気が付いた。
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