第44話 ダンジョンの中は空中庭園
アリエッタの様子がおかしいと感じたユリアンは直接本人に「何かあったのか?」と聞いてみる。
すると、アリエッタは珍しくユリアンから目線を外し「何でもない、気にするな」と言ってユリアンに背を向けた。
翼も落ち着きがないし、明らかにいつもと違う様に感じたユリアンだが、立場はアリエッタの方が上だと認識しているので、アリエッタにそう言われた以上どうする事も出来なかった。
村の方へ向かうアリエッタの後ろを着いて行くユリアンは、アリエッタの後ろ姿を見ながらある事を考えていた。
翼があるせいで、少し大きく見えるが、こうしていると可愛らしい普通の少女にしか見えない。
魔王と言うより、天使と言われた方がしっくりくる彼女を見て、ユリアンは自然と腕が伸び、アリエッタの横に立って頭を撫でていた。
アリエッタは無言で、特に嫌がる様子も見せず、ただ村へ向かって真っ直ぐ歩いている。
ユリアンは足に何かが当たっている感覚を感じたので、見てみるとアリエッタの翼の先がくっついている。
そこでユリアンは考える。
これは普段からあまり感情を表に出さないアリエッタなりに甘えて見せているのではないだろうか?
見た目は幼いが、アリエッタもユリアンの妻の一人。
ここは、すこし積極的なスキンシップを取って見るべきだと思い、アリエッタを呼び止めた。
「急に呼び止めて、どうした?」
足を止めたアリエッタにユリアンは近づき、右手をアリエッタの頬に持って行く。
左手は頭を撫でながらそっと背中の方へやり、アリエッタの体を引き寄せた。
どういう反応なのかは分からないが、アリエッタの翼が大きく開き、そのままユリアンを包み込む。
アリエッタの顔は赤く染まり、目を大きくさせ、ユリアンを見つめている。
ただ…… ドンとこい! みたいな表情をしていたので、ユリアンにとってそれがおかしく映り、少し笑いながらアリエッタのおでこにキスをした。
アリエッタからは聞いた事も無いような「キュウ!」と小さな悲鳴を上げ、恥ずかしくなったのか翼を強く羽ばたかせ、魔族の街の方へと飛んで行ってしまった。
受け入れてはくれているので、ユリアンは時間を掛けてゆっくりとアリエッタとの距離を縮めていこう考える。
森を抜け、村へ戻ったユリアンは早速ダンジョンへ行くチームを編成する。
アリエッタの助言通り、魔族のアンネ、リンネ、アンブリースと、エルフのイザベル、そしてドワーフのバレンシアとノアを集め、森の奥にダンジョンがある事と、これからこのチームでダンジョンに潜る事を宣言する。
突然な申し出であったが、みんなは快くそれを引き受けてくれた。
そして、各自ダンジョンで必要になりそうな物を用意して、6人が揃った所でダンジョンへと向かう。
ダンジョンの前へ辿り着くと、この中で唯一ダンジョン経験のあるノアが先行して扉を開き、中へ入って行く。
ダンジョンの中は、長い通路となっていて、そこを進むとまた扉があり、その扉を開くと、ダンジョンの景色は一変し、それぞれが驚愕の声をあげる。
それもそのはずで、扉の向こうは空が広がっていた。
まるで天空に浮かぶ巨大な天空の都市。
はるか上空にいる景色なのに、風は穏やかで、空気も少し肌寒い程度で過ごしやすい。
地面は夜空の様に美しい光る砂利道の様になっており、中が透けないガラスの様な素材で出来た建物が沢山ある。
中心部は森の様になっており、青々と生茂る草花や木々が生えていて、巨大な一本の大木が中心にある。
「なあ、これってセレスティアルエルフの言い伝えにあったやつじゃないのか?」
「神話の時代の? そうだとしても、ダンジョンの中にそれがあるのはおかしくないか?」
「イザベルがそう思うのも無理はないが、ダンジョンってのは神様によって、過去の文明を再現してるらしい。 だから、ここがセレスティアルエルフの都市だったとしてもおかしくはない」
「へぇー。 ご先祖様はこう言う所に住んでたんだ。 流石にこれは真似出来そうにない。 魔法が得意なエステルなら少しは理解できるんだろうけどね」
「それじゃあ、今度エステルも連れてきてやるか。 とりあえず今は先に進もう。 ノア、頼んだぞ」
「うーん、ちょっとこのダンジョン。 規格外過ぎて僕の経験なんてあまり意味を成さないかな? まあ、でも、中へ入る道は一つしかないみたいだし、先に進むのは同意。 僕にも何が起こるのかは分からないから、斥候系の能力のある人は注意深く周囲を探って、何かあったらすぐ知らせてね」
ノアの言葉にイザベルとアンネが返事をする。
入り口らしき場所へ辿り着りつき、扉を調べてみると、いまいちどうすれば開くのかが分からない。
ドアハンドルなども見当たらないので、とりあえず押してみるが、扉は頑丈で固く、ビクともしない。
しかし、イザベルが扉の前に立つと、あっさりと扉は開かれた。
「これは参ったね。 難攻不落のダンジョン、竜の巣と同じギミックかぁ」
「竜の巣?」
「うん、竜人を連れていかないと開かない扉があるダンジョンなんだけど、厄介なのはそれだけじゃなくてね。 竜人を連れて中へ入ってもモンスター達が強すぎてまず先へ進めなくなっているんだ。 それに、ここと同じでダンジョンとしては極端に広い」
「じゃあ、この先も強いモンスターがいる可能性があるのか。 一応セレスティアルエルフの街と仮定して、モンスターがいないって事はないのか?」
「それはないと思うよ。 ダンジョンはモンスターがなんらかの形で関わって成り立ってるみたいだし」
「そうか、とりあえず先へ進もう。 それで、対処しきれないモンスターが居たらすぐに引き返す。
「その事だけど、ダンジョンの中からは外へ転移門を開けないらしい。 一応目で見える範囲でなら使えるみたいだ。 だから転移門で移動する先は入り口の近くにする。 混乱しないように覚えておいて」
みんなの心構えも出来たので、ノアが先行し、扉の先へと進む。
中は星々の様な光に照らされていて、それなりに明るい。
それでも視界が若干阻害されると言う事で、ノアはランプの魔道具を使って道を照らし出す。
外からでは分からなかったが、中の道は広く、そして分かれ道がいくつもある。
アンネは一度通った場所を完璧に覚えられるらしいので、道が変化しない限りは迷う事はない。
気を付けるのはトラップであったり、モンスターと戦ってチームを分断させられる事だ。
このダンジョンは不透明なガラスの様な建材を使っているので、アンネと離れたらすぐに道を見失ってしまうだろう。
一応、対応策として左手をくっつけながら先に進んでいるので、右手をくっつけながら戻ると、元の道を引き返す事が出来る。
しばらく先へ進むとイザベルがみんなに「警戒するように」と伝える。
モンスターの気配がするらしく、全員で武器を構え、モンスターを待ち構える。
そして、進んだ先にある曲がり角から、モンスターが姿を現した。
その姿は、翼と爪と太い尻尾を持つトカゲの様な爬虫類の姿をしていて、四本脚で歩行する全身が青色の、伝説などに聞くドラゴンの姿そのものだった。
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