第42話 偽りの親子、偽りの姉妹、偽りの兄妹
アリスはユリアンの耳元に小さな唇を近づけ、囁き声でユリアンに懇願する。
「ユリアンってあの二人に命令出来るんでしょ? それじゃあ、アリスの本当のパパとママになってって頼んで!」
「いや、本当のパパとママではないだろう。 血は繋がってないわけだし…… ままごとを継続するって形じゃ駄目なのか?」
「それじゃあ駄目! アリスの事愛してくれないもん!」
「アリスがいい子にしてたら、自然と愛してくれるようになると思うぞ?」
「それじゃあ、いい子にしてる。 いい子にしてたら本当のパパとママになってくれる?」
「本当の親子みたいな関係って事だよな? それは三人の問題になるから俺からははっきりした答えは言えない。 けどな、テオドラもエステルも面倒見がいいみたいだし、いい関係にはなれるとおもうぞ?」
「ちょっと不服だけど、今はそれで我慢する」
「そうか…… 気になってたんだけど、アリスの本当の両親って今どこにいるんだ?」
「知らない。 でも、どこかで生きているのは確か」
「そうか、それじゃあ旅に出てるカルティナにでも探してくれって伝えといてやるよ」
アリスは無言でユリアンの言葉に頷く。
不安気で悲しそうな表情をしているアリスをユリアンは抱き上げ、テオドラとテオドラの元へと連れていく。
アリスは遊び疲れたのか、テオドラに抱き上げられると、すぐに顔を埋めて寝息をたてはじめた。
ユリアンは二人に今後もパパとママを続ける様に伝え、今後は村でアリスと共に暮らす事を命じる。
二人は渋々それに了承したが、自信がないだけで嫌と言う訳ではない様子だった。
アンネの転移門を使い、みんなで村に戻る。
ユリアンはままごと組には空いていた家を与え、ノアにも別の家を用意してやった。
次の日、新しく村の仲間となったアリスとノアをみんなに紹介する。
元々敵だった事もあって、村人達は様々な表情を見せ驚いていた。
そして、テオドラとエステルがアリスの両親になっている事にも驚き、ユリアンは村人に囲まれて質問攻めにあってしまったので、一から説明する羽目になってしまった。
二人の紹介を終えた後、ユリアンはこの村の事をあまり知らない二人をアンネに託して、村を案内するよう頼んだ。
一人になったユリアンは発展した村を眺め、
最初は木材で作った家ばかりだったが、今ではマーメイド用の水路も沢山通っていて、建物も色々な石材を使った美しい外観をしている。
道も綺麗な石畳で補装され、その周りには森で取って来た小さな花が沢山彩られており、石材の重厚感を花やかさで和らげて、明るく花やかで柔らかい雰囲気の村にしてくれている。
変わったのは村だけではない。
アンネとリンネのお腹が大きくなっている。
正確に言えば、エルフとドワーフ達もお腹が大きくなっていた。
ユリアンが関係を持った中では、ジュリアだけが身籠って無かった。
いつもいる村の広場でユリアンが村を眺めていると、丁度カルディナ達が一ヵ月に一度、顔を見せる為に、村へと帰って来た所へ出くわした。
「あら、お兄様。 お暇ですの?」
「暇と言う程でもないが、この村も随分発展したし、子供も出来たからな。 なんか、
そうそう、お前達にも紹介しておかないとな、実は村に新しい仲間が二人増えたんだ。 まあ、城で戦ったアリスとノアって奴なんだけど」
「あぁんご主人様ぁ! あの二人おぉ、懐柔するだなんてぇ、流石は私のダーリン! 凄いわぁ!」
「ジュリアが言うと変な風に聞こえるな。 別に変な事はしてないからな?」
「変な事ってどんなことぉ? ジュリア久々にダーリンと会ってからだが火照ってるのぉ。 体で教えて欲しいな! でもぉ、尊敬してるのは本当の事なんだからね!
だって色々あったでしょぉ? 仲間の死を侮辱したって言ってたしぃ、あの戦争でぇ、ダーリンが一番怒りを向けてたのってぇ、結局あの二人な訳じゃない?」
「確かにそうだな。 最も怒りをぶつけた相手はグルターク三世だけどな」
「それってぇ、凄おぉい事なのよ? カルティナちゃん達にしてもそうだしぃ、ジュリアもぉ、そういうダーリンだから好きになったんだしぃ! ジュリアだったら、そんな憎い相手と共存するなんて出来ないわぁん!」
「別に凄くはない。 最初に俺を突き動かしたのは復讐心だったわけだしな。 俺が変わったのはアリエッタのお陰だ。 凄いのはアリエッタだと思う。
そんな事より、お前達の旅は順調なのか?」
「旅は順調ですわ、お兄様。 私達はサリッドン王国から港で船にのってアディン共和国へ辿り着いた所ですの!」
「そうか、港町ベルエールでも無事だったんだな?」
「ええ、無事ですわ。 毎晩人攫いが近づいてくるし、白昼どうどうとスリや強盗も寄ってきておりましたけど……。
まぁ、私達にしてみれば取るに足らない相手でしたわ!
それはさておき、サリッドン王国は魔王軍がそろそろ進軍してくると踏んで、軍を強化し、警戒網も広めていましたわ」
「ああ、アリエッタが占領したグルターク帝国で色々やってるからな。 王族も亡びた事になってるから、今はもうグルターク帝国じゃなくて、魔王領グルタークに変わってるし」
「そうですのね。 アリエッタ様が色々なさっているとはどの様な事をなさってるんですの?」
「魔王軍が重要な砦を占領して、サリッドン王国側の国境に軍を集めている。 ベチルカの街なんかは封鎖して民衆を外に出さない様にしているが、それ以外に被害は出してないはずだ」
「そうですのね。 一応元グルターク帝国の姫としては、複雑な気持ちですけど、街の民がそれ程酷い目に合わされてないのでしたら、少し安心しました」
「ああ、サリッドン王国へ進軍したら、ベチルカの街も解放するつもりらしい。 まあ、アリエッタを裏切る様な行動を起こせば報復するそうだけど、あれだけ戦力差があるし、そんな馬鹿な事はしないだろう」
カルティナ達と話していると、村を一巡して来たアンネがアリスとノアを連れて戻って来る。
そこで、挨拶を交わし、みんな明るい性格なのですぐに打ち解けて談笑を始めた。
ユリアンはアリスの顔を見て、思い出し、カルティナ達にアリスの両親であるエルフとドワーフの事を伝え、旅先で探して貰えるように頼んだ。
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